第5話 あー行っちゃった。。おばあちゃん、わたし大丈夫だよ。

 次の日、土偶のような腫れた目をこすりながら台所に行くとお母さんはいませんでした。もう仕事に行ったのでしょう。テーブルの上にはいつもと変わりなく朝ごはんがあり、それを食べてから学校へ行きました。

 学校では友達との接し方が少しだけ変わりました。みんな私のことをあれだけ励ましてくれたので、今度はわたしが恩返ししないといけないと思ったからです。事あるごとに、何かあったら私に言ってね、相談にのるから。何か手伝うことある。みく、さき、しばらくはあんた達と遊ぶよ。あまりにも私がなんかない?大丈夫?と聞くものだから、気持ち悪いからやめてくれ、頼むから普通にしてくれ!と言われました。逆にりんはりんのままでいてくれる事が私たちは嬉しいんだよ。と心配される始末です。人に対して思いやりを持つことの難しさを痛感しました。帰ってやなりに聞いてみよう、と思いながら家に着くと、お母さんがいました。

「・・ただいま。」

「おかえり。」

「お母さん、仕事終わったの?」

「うん、お母さんもう遅くまで働くのやめたの。おじさんには申し訳ないけど。」

「えっ、なんで?」

「うーん、りんに言われてものすごーくショックを受けたからかな。」

「えっ・・・ごめん。」

「ううん。謝らなくていいの。謝るのはこっち。今までごめんね。りんをあんなに寂しい気持ちにさせて。お母さんバカだった。当たり前よね。おばあちゃんがいなくなっちゃったんだから。私もおばあちゃんがいなくなっちゃって、とても寂しかったの。仕事してるとその事も少しだけ忘れることができて余計に頑張っちゃって。リンの前では強くいなきゃって、今までと変わらず普通でいようってやせ我慢もしてた。でもそれが間違いだったことに気付いたの。私は、もっとりんを信頼するべきだった。おばあちゃんのようにいっぱい正直な気持ちを話すべきだった。」

「お母さん。私ね、お母さんが私のこといつも第一に考えてくれてることわかってたよ。でもそういうことじゃないの。私は、ただ話を聞いてくれるだけでいいの。今日あったことや、お友達のこと。学校のこと、悩み事。ちょっとだけでもいいから話を聞いてほしいだけなの。話をするとなんだかホッとして、とても暖かい気持ちになるから。どんなにつらくても明日また頑張ろうって思えるから。」

「わかったわ。これからいーっぱい話そう!時間はたーっぷりあるからね。ご飯の時もお風呂の時も」

「いやいや、そこまでいっぱいじゃなくてもいいんだけど。こっちも忙しいし。」

「なに言ってんのよ、いっぱい話したいんでしょ!なんなら今日から寝室一緒にする?」

「えー、極端すぎ!勘弁してください。」

「はっはっはっ!冗談よ。あなたは普通にしてればいいの。りんが変な気の使い方したら気持ち悪いから。」

「あー・・・それみんなも言う。」

「でしょう?りんはりんのままでいいの。でもなにかを思いついたらすぐ突き進まないでちょっとだけ間を置いてみて。周りの人に話してみて。これだけお願い。」

「それって、私はお母さんの子だから?」

「はっはっはっはっ、せいかーい!」

「ねぇ、私たちお父さんの事忘れてない?」

「あら、忘れてた。はっはっはっ!」

「・・・かわいそうなお父さん。」


 部屋に帰ってさっそくやなりを呼びました。

「やなりー、降りてきなよ。見てたんでしょどうせ。」

「うん、うん、よかった、よかった。」

「あれっやなり、もしかして泣いてる?」

「ああ泣いてる。泣きますよそりゃ。あんなもんみせられちゃ。」

「私、今とーっても幸せだよ。ありがとね、やなり!」

「うん、うん、よかったねー、りんちゃん。ほんとよかった。」

「ん?珍しいね、やなりが私の名前で呼ぶなんて。それに、いつもより素直な感じがするし。」

「りんちゃん、もう大丈夫ね。天真爛漫なりんちゃんが帰ってきた。それでなくっちゃ。私の孫じゃないわ!」

「やなり?えっっ、、、まさか!おばあちゃん?!うそー、おばあちゃんなの?」

「はいはい、ビックリしたかい?あなた達のやりとりを見てたらスーッと記憶が戻ってきたのさ。」

「おばあちゃんがやなり???あーどうにかなっちゃいそう。どう言う事?!いったい?!わけわかんないよ」

「はいはい、落ち着いて。私はあの日、とーってもいい気分で眠りについたんだ。それはそれは幸せな気分さ。そしたらあんたが来て、力一杯揺すってくるだろ。それもすごい形相で。危うく生き返るとこだったわよ。」

「だっておばあちゃん一言も言わず死んじゃうんだもん」

「当たり前でしょ。死ぬときに、はいこれから死にますのであとはよろしくね。なんてうまいこといくかい!気になって家まで着いて行くと案の定、あんたはものすごーく落ち込んでたねぇ。それはもう地獄に堕ちたみたいに。あんなりんを見てたら上へ行けないだろ。心配で夜も眠れやしないよ。」

「死んでからも寝るの?」

「知らないよ、まだあっちに行けてないんだから」

「あーそうか。でも気になるなぁ。死んだらお布団とかで寝るのかなあ。まさかずーっと起きてるってことはないよねぇ。」

「はぁーっ、あんたは全く。おばあちゃんね、あまりにも心配であんたの事を空からずーっと見ていると、屋根裏でガサゴソやってるやなりを見つけてさ。おおそうだ、コイツの身体をちょいと拝借してしばらくりんの様子を見ておこうと思ってね。やり方がわからないから思いっきり胸のあたりに突っ込んでいったのさ。そしたら無理矢理入ったもんだから記憶まで吹っ飛んじまったってわけさ。」

「へぇーそれは大変だったねえ。私のためにそこまでしてくれてありがとう・・・ってならないよ。色々ありすぎて。」

「あっはっはっはっはー、そりゃそうだ。私もあんた達のこと言えないねぇ、死んですぐやなりの身体を奪うなんて。」

「そーだよ、ちゃんと考えて行動しなきゃ。神様に怒られちゃうよ」

「あっはっはっはっはー、まさかりんにいわれるとわね。それよりもやっとお母さんに言えたね。素直な気持ちを。それでいいんだよ。あの子はおばあちゃんの子なんだから。あの子に思いっきり甘えなさい。そして、色々聞いてみるといいよ。きっと面白い話が聞けると思うから。」

「そしたら私、これから忙しくなるね。おばあちゃんと話して、お母さんと話して。睡眠時間減っちゃうなぁ。」

「・・・りん、私はもう行かなきゃいけないんだよ。」

「えっ、どうして?」

「もう疲れちゃったからさ。前に言ったろ、この世界はとってもエネルギーが必要なところだって。私もちょっと休まなきゃいけないんだよ。ちょっとやり過ぎちゃったしね。だからこれでお別れだよ。」

「・・・うん!、わかった!」

「えっ、意外だねぇ、わたしはてっきり泣きついてくるかと思ったよ。」

「私なりの気遣い。思いやり。」

「それはそれでなんだか物足りないわねぇ。」

「いつまでもおばあちゃんを引き留めてたら、疲れて死んじゃうもん。あれっ?死んでるのに死んだらどうなるんだろう?」

「あっはっはっはっはー、あんたはほんとに面白い子だね。もう思い残すことはないよ。おばあちゃん、安心した。はー、こんな幸せなことはないよ。りん、ありがとう。」

「待って、おばあちゃん!最後に1つ教えて。やなりにはどうやったら入れるの。コツとかあるの?」

「えっ?そんなのわからないよ!・・まさかあんた、死んだらやる気だね。あはははは。強いて言うなら勢いだね。思いっきり突っ込んでみな。それじゃね、私は行くよ。バイバイ!」

「おばあちゃん、ありがとう、私が死んだらまたいっぱい話しようね。バイバイ!」


「あー行っちゃった。。おばあちゃん、わたし大丈夫だよ。」


 おばあちゃんが行ってしまったあと、ふと気づいてやなりをみると物凄い形相でこっちをみていました。そしてキーと叫びながら一目散に逃げて行きました。

「まさかやなりがおばあちゃんだったなんて、こんな話誰も信じてくれないんだろうなあ。あー楽しかったなぁ・・・やなり。」

 私はちょっと不思議な気持ちになりました。おばあちゃんが行ってしまったのは寂しいけれど、それと同じくらいやなりとお別れしたのが寂しかったからです。両方ともおばあちゃんなのにね。

「そっか、たくさんの人と出会えば楽しい事がいっぱいあるかも知れない。でもそれだけ別れの時は寂しい気持ちにになるんだな。なんだか切ないけどワクワクしてきた。この世界は本当にいろんなことがあるなあ。おばあちゃん、わたし大丈夫だよー!」


                                    終わり

























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