殺人鬼の話
首を刎ねる。血が飛び散る。
今迄数百回は繰り返したであろう一連の行動。
「…回収作業だけはいつも面倒臭いんですよねえ」
切断面から血が溢れ出している死体を袋に入れ、肩に担ぎ暗い路地裏を後にする。
もう少しで夜が明ける、筈だった時間。今この世界には太陽というものが存在しない、永遠なる闇の世界。
陰気が溜まり、人ならざるものを呼び寄せる時間。
闇が手招きするこの歪んだ時間を、私は孤独に闊歩する。
本来、昼間である時間には教会のシスターとして祈りを捧げる私。
しかし、夜にはこうやって人間の血液を集めるため、首を刎ねて回っている私。
他人から見たら異常だなんだと罵られるだろうが、今の私にはそんなことどうでもいい。
私が今迄信じていた主は偽物で、本当の救世主が死にかけだった私の元に現れてくれたのだから。
あの方こそ、この荒廃した偽りの世界を救ってくださる唯一の主。
あの方が望むなら、私はどんな命令も受け入れましょう。どんな試練も乗り越えましょう。
だって、それが私の生きる希望なのだから。その希望を奪おうとする奴らには、一切容赦はしない。
「そう。貴方のような、鼠にはね」
背後から近付いてくる、ハルバードを片手に持ったオッドアイの女。
女は無言で臨戦態勢に入り、獣のような視線と殺気をこちらに向け、距離を詰める。
私は、荷物を放り投げ、背負っていた十字架型の武器を手に持ち、笑みを浮かべる。
死んでいたように生きていた頃の私とはもう違う。私は、今の私であることに誇りと、喜びを感じている。他者の命を奪うことでしか生きられない、憐れな女だと思ってる?
「けど、それが私なの。誰にも、この運命は邪魔させない」
だって、それ以外の生き方なんて知らないもの。
-クローチェ-
月蝕のル・シッド 棺田 @dandanka
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