蛇の魔女の話

気付いた時には、全てが遅かった。私の手は、彼の血で真っ赤に染まり、目の前には虚ろな目で息絶える竜だったものが横たわっていた。


今この状況が理解出来ず、ぐるぐると思考を巡らせ、吐きそうになる口元を抑え、必死に答えを探そうとした。

何故。どうして。

私がさっきまで討伐しようとしていたのは、厄災の竜ではなかったのか。


何故、彼のペンダントを、この竜が持っているのか。


血に塗れたペンダントに手を伸ばし、頭の中では理解しているが、その受け入れたくない事実に目を向ける。

違う、嘘だ、私が彼を殺したんじゃ、嫌、耐えられない、殺してない、私じゃない。


蹲って嗚咽を漏らしながら、あまりにも残酷な仕打ちに魔女は叫んだ。


「何故!?あんまりじゃないか、こんな……私には、少しの幸福を望むことも許されないというのか!?」



彼だったものの亡骸を抱えながら、獣の咆哮のように、空に向かって胸の中の感情を吐き出した。

そこに、



「なーんだ、結局失敗しちゃったのか。彼も存外使えない人間だったなあ」



と、見た事のない男が現れそう言った。


「まあ君たち魔女が処理出来る程の出来だったのなら、生き残っていても使えないか」


意味が分からず私は呆然としていた。失敗?何が?彼が?それよりも、この男はこの竜の正体を知っているかのような口ぶりだった。私は、彼という光を失った私は、もう全てがどうでも良かった。彼がいない世界なんて生きる意味もない。彼がいない世界なんて、存在する価値もない。私はもう何も考えられない程、怒りと憎しみの感情に支配された頭で目の前の男に問いかけた。





「……彼を、ルーカスを……こんな姿にしたのは、お前か?」


男はニヤリ、と笑ってそうだと答えた。

次の瞬間、当たりは蒼い炎に包まれ、全てを灰にした。美しい、とさえ思えるその炎は主の感情を反映し、何もかもを燃やし尽くすまで消えることは無かった。炎の中心で、竜の亡骸と共に魔女は眠りにつく。




後にその魔女の名前は各地に知れ渡ることとなる。数多の怪物を生み出し、1つの時代を終わらせた災厄なる魔女───




エキドナ。



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