赤き竜の血族の話
人か。同胞か。どちらか選べ、と2択を迫られた。私に今、この問いを投げかけているのは竜人種アルビオンの長老だ。厳格で一族の古株である彼は、太古の時代から続くこの高貴なる血だとかいうものを絶やさない為に尽力している。だからか、私が人との逢瀬を交わすことが気に食わなかったらしい。
私は、勿論人だ。と告げると長老の顔が険しくなった。もう良い、下がれ。と言われ、無言で部屋を出ていく。振り返る際に、長老の部下が何か耳打ちしているのが見えた。どうせ、くだらない血の儀式だとか、これからの子孫の繁栄だとか、どうでもいい話だろうと思い、気にせずその場から離れることにした。
外に出ると、義姉であるモルガーナが不敵な笑みを浮かべて壁に背を預け、手をひらひらとさせていた。
ここから出ていくの?と聞かれ、そうなるな。と答えると、ふぅん。と一言放って黙りこくった。
モルガーナのことは嫌いでもなかったが、別に好ましいと思う程の感情も持っていなかったな、と考える。彼女は昔から、私に何かと突っかかってきては、意味もなくからかって、飽きたらさっきまでの興味が嘘のように消えてなくなる、掴みどころのない蜃気楼のような存在だった。
用が無いのなら、これで失礼する。と告げ、彼女の横を過ぎ去ろうとすると彼女は独り言の様に
さよなら。私が焦がれた、私の炎。
と呟いて、私が来た道を戻って行った。彼女の言葉の意味は、興味がなかったのであまり深く考えなかったが、その言葉は何故か頭の中に少しだけ残り続けた。
どうせ、すぐ忘れるだろう。と思い、私は目的の場所へ歩き出した。私が人との共生を選んだ理由である、彼女が待つ場所へ。
もうすぐ目的の場所に着く、という所で何故かその街が騒がしい気がした。私はすぐさまそこに向かい、彼女の無事を祈りながら全速力で騒ぎの中心部に向かった。どうしようも無い胸騒ぎを感じながら、大丈夫だ。私たちはこれから2人で共に歩むと決めたのだから。明日を共に生きようと誓い合ったのだから。そう頭の中で焦る自分の気持ちを抑え込みながら、街の間を駆け抜けた。
目の前には、地獄があった。
泣き叫ぶ子ども。異臭を放つ、人だったであろう肉の塊。生きたまま、内臓を抉られ許しを乞う人。目の前に現れた光景が、一瞬理解出来なかった。これは、一体なんなのか。
悪夢を見ているとさえ思うような地獄絵図。夢ならば早く覚めてくれ、と心の中で懇願した。
私は急いで、彼女の元へ向かった。いつも、彼女と待ち合うあの場所へ。路地裏を抜け、大通りに出た私は目を疑った。
彼女は、焼け爛れて死んでいた。
そこら中に息絶えている人間だったものと変わらない、二度と目覚めることの無い人形と化していた。
嘘だ。嘘だ。嘘だ。
私は目の前の光景を受け入れられず呆然と立ち尽くしていた。動くことの出来なくなった私の背後から、とても聞き覚えのある、忘れようとした声が聞こえた。
「たった1人のこんな女に、私の、私が手に入れる筈だった炎が奪われるなんて、許せなかった。」
義姉である、モルガーナ。彼女が無表情で淡々と呟いた。
「でも、炎は私を燃やしてはくれない。彼の瞳に、私は映っていないから。なら、どうしよう?彼の心に鮮明に、消えない傷を残すくらいに在り続けるには、どうしたらいい?」
流したことの無い涙を流しながら、逃れられない彼女の言葉が私の身体全身を貫いていく。そして彼女は、いつも通りの、挨拶を交わす時のような気の狂っているような笑顔でこう言った。
「そうだ。お前の大事な人間を、殺せばいい。」
その瞬間、私は今まで抱いた事の無いような感情が全身を包んだのを感じた。
自分でも驚く程、どす黒い感情に支配された身体を操り、同胞であったそれに語りかけた。
「……燃やすなど、生温い。燃え尽きることの無い業火で、未来永劫死ぬ事の無い苦しみを与えてやる。」
1匹の赤い竜は、消えぬ炎の呪いをもう1匹の赤い竜に与え、自身の故郷に戻り、義姉の行動は一族全員が容認したものであり、穢れた人間と交わることは禁忌とされる竜の掟に触れるものだと考えていた長老は、義姉を焚き付けあの惨事を引き起こしていたということを、赤い竜は後から知り、その後一族全員皆殺しにしてしまいました。
「お前を拒むこの世界を、私は呪おう」
-アーサー・ペンドラゴン-
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