第3話 事件解決!

「ねぇ、翔斗くん。どういうこと?」

「ん? ああ、もしかして、プリンちゃんとナイトがどっちもペットか何かだと思った?」


 結花はこくこくと頷いた。

 自分の考えを言い当てたのだから、正解ももちろん分かっているのだろうと、彼女はランドセルの位置を直しながら、肩が触れるぐらい翔斗に近づいて、彼の言葉をよく聞こうとした。


「簡単な話だよ」


 翔斗は前を歩くピンクのワンピースの女の人に手の平を向けた。


「彼女の服をよく見た? 動物の毛が所々ついているのが分かった。その時点で彼女が探しているのがペットだと分かる」


 ずっと袖をつかまれていたとはいえ、さすがに女の人のワンピースについた動物の毛は気づいていなくて、結花は黙る。


「そして、あの人はよく行く公園と言った。動物の毛からして、猫か犬かなと思っていたけど、公園によく行くなら犬で確定だ。公園を探した後だと言っていたから、彼女が言う公園はこの近くのタコの形のオブジェがある公園に違いない。あの公園はよく犬の散歩コースとジョギングコースとして選ばれるからね」

「へぇ……」


 外に出て遊びはするが、自分の家の近くの公園のことしかよく知らない結花にとってあまり行かないその公園は「タコのオブジェ、そういえばあったなぁ」みたいにぼんやりとしたイメージしか沸かなかった。


「そして、プリンちゃんとナイト。もし、この二つの名前がどちらもペットの名前だとしたら、扉を開けて家から出て行った理由の説明がつかない」


 結花はこくこくと首を縦に振った。


「それなら、どちらかが扉を開けて出て行ったんだ」

「え? ペットが玄関の扉を開けたの?」

「おかしいと思わなかった? プリンちゃんとナイト。どちらもペット、もしくはどちらも人間の子供だったら、どっちも呼び捨てか、どっちもちゃんやくん付けのはずだ。でも、あの人はずっとプリンちゃんとナイトって呼んでた。プリンちゃんとナイトは立場が違うんだ」


 ほら見て、と翔斗が前方を指さした。

 その先には、赤いランドセルを背負った小さな花のヘアピンをつけた女の子が、ころころとした小さな茶色の犬を繋いでいるリードを引きずりながら、歩いてきていたところだった。


「プリンちゃんはあの人の子供、ナイトはきっとワンちゃん……あのチワワのことだろうね」

「プリンちゃん! ナイト!」


 ピンクのワンピース姿の女の人が女の子とチワワに駆け寄ったと同時に小さな女の子が泣き出してしまった。泣いてしまった女の子をピンクのワンピースの女の人が抱きしめる。


「ありがとう! おかげでプリンちゃんとナイトを見つけられたわ!」

「いえ……あ、そうだ。気になってたんですけど、もしかして、プリンちゃんの本当の名前は……」

「ええ、プリンセスよ。漢字はお姫様の姫に子供の子なの」

「なるほど、お姫様と騎士ですか。ぴったりですね」


 結花は「プリンセス」という名前の女の子を見た。フリルがたくさんついたピンクの服。スカートの部分がふんわりと外に広がるようにできていて、小さなお姫様が目の前にいるようだった。


(さすがに私は着れないかな……)


 場違いなことを思いながら、今度はナイトと呼ばれたチワワを見た。チワワはキャンキャンと元気そうに鳴き声をあげながら、女の子の周りを行ったり来たりしていた。ぐるぐる回り続けるとリードで女の子のことをぐるぐる巻きにしてしまうと分かっているのだろう。


(そっか、プリンってプリンセスのあだ名だったんだ)


 今更ながら結花は納得した。

 ピンクのワンピースの女の人は、結花と翔斗にしきりに頭を下げると女の子とチワワを連れて去っていった。


「もう一ついい?」

「いいよ」

「どうして、通学路だと思ったの?」

「まず一つ。あの女の人は、最初結花ちゃんのことを頼ってきた。それはたぶん、プリンちゃんと結花ちゃんを間違えたんだろう。自分の娘も同じ赤いランドセルを背負っているから。次に、今朝、もう結花ちゃんはある事件に遭遇していた」

「もしかして、朝、私についてきた大きな犬のこと?」


 翔斗はこくりと頷いた。


「犬の散歩ルートとして多くの飼い主がいる公園を利用しているくらいだ。あのチワワは他の犬と遊ぶのが好きなんだろうね。だから、新しい犬の友達を作るためにあの女の子は大きな白い犬がいた学校に行ったんだろうね」

「そういうことだったんだ!」


 結花はやっと謎が解けて笑顔になった。その笑顔を見て、翔斗は頬を緩めた。


「それじゃ、帰ろうか。さて、今日は結花ちゃんのお父さんに認めてもらえるかな~」

「またそれ言ってる。そんなにお父さんの弟子になりたいの? お父さんはミステリ作家であって、探偵じゃないよ。名探偵見習いさん」


 結花と翔斗は並んで歩きながら、目の前に落ちている自分の影に目を落とした。

「違うよ。僕が認めてもらうのは……まぁ、いいや。これはちゃんと結花ちゃんのお父さんに認められてから言うから」


 結花はランドセルを背負い直した。

 彼女は毎度彼女の周りで起こった事件を解決する度に翔斗が彼女の父に「娘さんとの交際を許してください!」と言っているのを知らない。そして、その度に「まだその程度の謎を解いてるぐらいじゃ任せられないなぁ」と言われているのを知らない。


 家原翔斗は、自分の恋を認めてもらうため、今日も謎を解くのだった。

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家原くんは推理で認められたい! 砂藪 @sunayabu

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