第2話 いなくなったプリンちゃんとナイト


「いなくなったのは、プリンちゃんとナイト……この二人ですね?」

「ええ。家事をしていて、目を離した隙に……十分も経っていないと思うわ」


 翔斗が黒いランドセルの中からメモ帳と鉛筆を取り出すと、ピンクのワンピースの女の人は、行方不明になった二人の様子について話し始めた。


「私が最後に見た時はリビングで遊んでたんだけど、洗濯物を干しているうちにいなくなってしまったの」

「なるほど。二人の行き先に心当たりはありますか?」

「よく行く公園には行ったんだけど、そこにもいなくて……」


 結花は頭を捻っていた。

 確かに翔斗が探偵を目指していて、結花が巻き込まれる事件の謎をまるで自分が解決するのが当たり前かのようによく解いてくれる。しかし、今回は知らない人から頼まれた人探しだ。それも先に依頼人に依頼された……いや、つかまったのは結花の方だ。

 翔斗だけに任せるのは卑怯だと思って、結花も事件について考えることにした。そして、すぐにあることに思い至る。


(プリンとナイトってことは、もしかして、人間じゃなくてペットの名前かも! 人の名前にしてはプリンってあんまり聞かないし!)


 しかし、そこで思考が止まる。

 ピンクのワンピースの女の人は、プリンとナイトがリビングで遊んでいて、洗濯物を干している途中で外に出て行ってしまったと言っていた。


「もしかして、洗濯物を干している時に扉を開けっぱなしにしていたとか、ですか?」


 ペットが独りでに玄関の扉を開けて出て行くことは難しいだろう。家の中の扉を開ける猫や犬の動画は見たことがあるが、玄関扉は家の中の扉と違って、鍵もついているし、犬や猫に簡単に開けられたら逃げ出し放題で大変だ。

 そうなると二匹は女の人が開けっ放しにしていたから逃げ出した可能性がある。


「ううん、部屋干しをしていたの」

「えっ、家からは出てないんですか?」

「ええ、私はずっと家の中にいたわ。扉を開けたのはプリンちゃんとナイトがいないって気づいた後のことよ」

「そう、ですか……」


 開けっ放しにしていた扉からペット二匹が出て行ったわけじゃないと分かって、結花はさらに頭を捻った。

 そんな彼女の隣で翔斗は女の人に一つだけ質問した。


「いつも通っている通学路を教えてください」

「え、散歩の道じゃなくて?」

「通学路をお願いします」


 結花の頭の上に疑問符が浮かんだ。

 彼女の中で「プリンとナイト」がペットであることは確定していた。しかし、ペットは学校に通わないから通学路なんてものも必要ない。いつも歩いている道なんて、散歩の道ぐらいだ。


「それなら、こっちよ」


 今までうずくまって、結花と同じくらいの目線の高さだったピンクのワンピースの女の人が立ち上がり、彼女は二人を振り返ってついてきているのを確認しながら、まっすぐ進み始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る