第18話 メスガキが現れ俺のスローライフがむちゃくちゃにされて普通につらい話 その一

 「それにしてもあの男を放置して良かったのか」


 神たちによる会議場にて、筋肉ムキムキの男の神が不満そうにそう言った。

 好き勝手されているのがムカついているのだろう。自分はよく暴れている癖に、他人がやるのは気に食わないらしい。


 「そうは言っても、結果を出していますからね」


 線の細い男は結果が良ければ全て良しとしているのだろう。それに自分の邪魔をしないならどうでも良かった。


 「罪を罪として認めなければ他の神に示しがつかんじゃろ。あ奴がルール違反をしているのは間違いないのじゃし」


 老人の神は厳格だった。ルールを破ったら裁きを受けるのが当然だと思っている。


 「というか、低級の神が私たちに対して敬意を見せないのも気に入りません。見ましたか?あの顔。すごく面倒くさいって顔してましたよ」


 実際に最初の十分ぐらいは真面目に聞いていたようだが、それが三十分も続くと露骨にめんどくせーっという顔をしていた。いや、心の中でもそう思っていた。取り繕う事が出来ない男なのである。

 目つきのキツイ女の神はそんな態度がすごく気に入らなかった。


 「すでに裁定は下された。それを覆す事はできん」


 岩のような顔を男が真面目な口調でそう言う。ちなみにこの男の神は罰を与えるべきかという議題に反対の票を投じた。軽いルール違反はあれど、功績を考慮したらプラスになっていたからだ。

 線の細い男と似た意見だったというわけだが、とりわけ、こちらは男を好意的に見ていた。芯の所では強い男だと思ったからだ。


 「まぁそうですね。それは今更、話す様な事でもないです。それよりも今後の事を話すべきかと」


 メガネを掛けた神はくいっとメガネを上げる。

 過半数より多ければ何かしらの罰を与える事になったのだが、今回は反対票が多かった。それだけの話。

 この神は様子見で反対票を入れていた。まだ判断がつかなかったのだ。


 「会議、長引きそうですねー。そんなに注目するような子だったかなー?」


 ぽわぽわとした女の神は首を傾げる。実に地味な男で、すぐに記憶から消えるような平凡な顔だった。ぶっちゃけすでにちょっと忘れている。適当に入れた票が今回の裁定を決めたわけであるが、気にもしていない。


 そんな風にやいやいと皆が勝手に喋り出してしまえば、収拾は当然の如くつかなくなる。最早、これは会議とも呼べないだろう。

 我が強い神同士が揃えばこんなものである。

 そんな会議の席の一番上の上座。最もこの場で偉いとされているゴスロリ姿の少女が口を開いた。


 「面白かった?」


 ぴしり、と時が止まる。先程まで騒がしく言い合っていた神たちが急に口を閉ざした。少女はそんな神たちを見回しながらもう一度同じ言葉を口にする。


 「面白かった?」

 「………あ、あの、面白かった、とは?」


 筋肉を委縮させ、一回り小さくなったかのような男の神がそう尋ねると、少女は笑う。


 「面白かったにそれ以上の意味があるの?ねぇ?逆に教えて欲しいんだけど?」


 冷たい笑みだった。大人と子ども程、体躯には違いがあるというのに、その微笑みを向けられた男の神はひぃっ!と小さな悲鳴を上げた。


 「お、面白いかどうかはわかりませんが、失礼な男だったのは確かです!」


 目つきのキツイ女の神がここぞとばかりに告げ口する。もしこれであの男が処罰されるというのなら万々歳だった。しかし、


 「面白いかどうか聞いているだけなんだけど?貴方たちの頭が弱いのか、それともまさかあたしの言い方が悪いのかしら?ねぇ、どう思う?」


 冷たさが増した笑みを向けられ、あまりの恐怖に何も喋られなくなる女の神。これ以上機嫌を損ねれば、自分がやられてしまいかねない。

 だがむしろ、何も言わない事こそが彼女の機嫌を悪化させる事そのものであるのだが、女の神はそれに気づかない。


 「私は面白い男だったと思います」


 それに助け舟を出したのは岩顔の神だった。別に女の神を助ける為にウソを言ったわけではない。それは本心からの言葉だった。


 「ふぅん。具体的には?」

 「一見して凡庸で何処にでもいるふざけているような男でありましたが、その中には熱い魂が宿っているのだと感じました」


 抽象的な説明にも少女は茶化さない。この岩顔の神が実直で、嘘をつかない男だと知っているからだ。


 「へぇ。貴方にそこまで言わせるなんてよっぽどだったのね」


 神たちによる会議は最高神たちによって行われる。少女を除けば席は八つあり、七つが埋まっていた。残された空席を見ていた少女はニタリと嗤う。


 「暇つぶしにはなりそうね。たまには顔を見せるものだわ」




 「………」


 少女がいなくなってからしばらく経った後、最高神たちはようやく息をついた。


 「何故、あの方がいらっしゃっていたのだ。予定にはなかったではないか」


 筋肉ムキムキの神はぶるっと背中を震わせて情けない声を上げた。


 「自由なお方だからな。我らにはどうする事も出来ん」

 「怖かったぁー」


 老人の神は溜息をつき、ぽわぽわした女の髪はほっとしていた。基本的に最高神同士は対等であり、格の違いは存在しない。だがあのゴスロリ少女だけは別格だった。


 「死神アケロス様。神を殺せるあの方に目をつけられるとは、あの男も終わったわね」


 目つきのキツイ女の神は冷や汗を拭ってから笑う。あんな失礼な男なら、少しでも話でもすればすぐにボロが出て首が物理的に飛ぶだろうと思っている。


 「それはどうだろうな」

 「何よ。あんたがあの男を死刑台に向かわせた癖に」


 岩顔の神は腕を組みながら目を瞑った。あの場での言葉は嘘ではない。アケロスが興味を持つ事がわかった上でそう発言したわけではあるが、女の神のような意図は毛頭ない。


 「可能性を感じていたのだ」


 言葉少ない岩顔の神の真意を探る事は難しい。頭の良いメガネの神もお手上げといったように両手を挙げた。


 「まぁ今となってはどうでもいいわ。私にはもう関係ない事だし」


 最高神たちが去っていく。あいにく、些末な神の事をいつまで考えている程、暇でもない。

 一人、二人と去っていき、最後に残された岩顔の神はぽつりと呟いた。


 「あの男なら、アケロス様の虚無をなくす事が出来るかもしれぬ」


 宙に消えていったその言葉は誰も届かず、そうして岩顔の神もこの会議場から立ち去って行った。

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転生神は突っ込みたい! ~お前ら死んだからって何でも簡単に貰えると思うなよ!?~ 物草コウ @monogusa_kou

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