第15話 好きなひとを正面から見つめてみる
月曜日の朝、駅で弘樹くんに会う。
「おはよう!」
「おはよ」
いつもの弘樹くん。
あたしは弘樹くんの横顔を見ながら歩く。
「土曜日、ありがとう。楽しかった!」
「うん、僕も」
「ねえ、弘樹くん」
あたしは思いついて、弘樹くんの手を引いて、通学途中の人の群れから少し離れて、脇道に入った。
あたしは弘樹くんを正面から見つめた。
いつも横顔を見ていたから、正面からちゃんと見たくて。
「あのね」
「うん」
「あたし、弘樹くん、大好き」
「彩香」
弘樹くんの顔が近づいて――やさしいキスをした。
弘樹くんの顔は真っ赤だった。たぶんあたしも赤い。
どきどきする。
「ねえ、弘樹くん、あたしどきどきする」
「――僕もだよ」
「ねえ、手を繋いだとき、どきどきした?」
「どきどきしたよ」
「ねえ、じゃあ、土曜日にぎゅってしてくれたときも、どきどきした?」
「したよ」
弘樹くんはあたしを引き寄せて、抱きしめた。
「いっしょにいるだけで、どきどきするよ。――だって、好きだから」
「弘樹くん、あたしも」
あたしたちは顔を見合わせて、そしてわらった。
「学校行こうか」
「うん!」
あたしたちは学校へ向かって歩き出した。
「ねえ、弘樹くん、お願いがあるの」
「なに?」
「あのね」
「うん」
「ずっといっしょにいてね!」
弘樹くんは「うん」って言って、手をぎゅって握ってくれた。
同じ制服を着た子たちが同じ高校へ向かう。
こんなにたくさんの人がいるのに、あたしは弘樹くんを見つけて、弘樹くんはあたしを見つけてくれたんだ。
不思議。
あたしにとって、弘樹くんだけが特別。
きっと、弘樹くんにとっても、あたし、特別だよね?
ずっといっしょにいてねって弘樹くんにお願いした。
うんって答えてくれたけど、分かってる。先のことは分からない。
でも、今はそう信じていたいな。
高校に入って好きな人が出来たの。
その人が初めてつきあった人になったんだ。
いいでしょ?
いつも彼の横顔を見ていたけど、これからは正面から見つめるんだ。
「何、彩香?」
「幸せだなって思って!」
了
いつも、横顔を見ていた 西しまこ @nishi-shima
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★88 エッセイ・ノンフィクション 連載中 115話
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