蠅
山岸 央也
一話完結
〈カサカサ、カサ……カサカサ、カサカ……カサ……カサカサ……〉
誠二は眠れなかった。
至る所から音、音という音。これがもう五日も続いている。
最初は微かな音であった。何かが這う、そんな音。壁から、床、そして天井……。
気が狂いそうであった。
夏の宵。空の端は、まだ赤い。
六日目、玄関の呼び鈴が鳴るようになった。外に出ようが、誰も居ない。決まって「三度」ずつ。
チン、チン、チン。
空の端は、まだ紅い。
七日目、空は黒々としていた。
真っ黒い雲のようでそれは……無数の羽虫であった。集まっては離れ、離れては集まって……。誰も居ない。音もしない。ただ、孤独であった。
真夜中、喉元が燃えるように熱く、痒くなった。
掻きむしる、掻きむしる、掻きむしる。その爪は真っ赤である。
真夜中、喉が渇いた、吐き気がした。
台所へと走る、蛇口を捻る。だが、水は出ない。
こんな夢を見た。
誠二は、テレビの前に座っていた。彼の姿は些か幼い。
轟々と砂嵐、眩しかった。
ふと気が付くと、テレビはある番組を放送していた。日本語では……ないようだ。
タレント(?)たちの眼は大きく、真っ暗な『穴』であった。
突如、画面が切り替わる。
鏡面のように、誠二とその空間を映していた。
誠二の背後には、無数の『穴』があった。穴には無数の羽虫が集っている。
やがて羽虫は、画面を覆った。
何もかもが、真っ暗になる
何も見えない。
そして――
八日目、空は青々としていた。小鳥はさえずり、子供の声が聴こえる。
誠二の部屋。何てことない部屋。
555号室。
テレビの向こう、誰かが見つめている。
蠅が生まれた。
(おわり)
蠅 山岸 央也 @Yamayuka
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