第4話:森を通り抜けて②

先程の戦闘(一方的な蹂躙かもしれないが…)から歩いて数十分経ち、落ち着いたのかポツリとレティシアが言葉を零した。

「…怖かった……」

「……そうか、何が怖かったか言えるか?」

こちらは今まで旅をしていたが故に悪意にも殺意にも慣れきっている、が故に聞いて理解するしか出来ない。

ポツリポツリとレティシアが話していく。

「…連れ戻されること……と、殺されること…」

レティシアにとって前者は精神的な後者は肉体的な終わりでありまだ何も楽しんだり出来ていないから尚のことその想いが強いのだろう。

「…大丈夫だ。俺が生きてる限りそんな事はさせないさ」

「…強くなりたいよ……お父さんみたいに…」

「……すまんな、今はまだレティシアの身体が鍛錬出来るような健康さはないから辛いだろうがその時まで待ってくれ…」

「……うん、分かったよ」

ギュッと服を掴んできたその手が震えていたので空いている右手で背中をさする。

そして歩くこと日が地面から垂直になってきた頃、近くに泉のあるちょっとした空間に出た。

「お、休めそうな所があるなレティシア昼飯にするか?」

「うん、お腹空いたよ〜」

今のように休んでいる時は一定の範囲から外の者には認識されないように結界を張っているので今居るこの場に辿り着いて範囲内に入らなければならない。

「ああ、分かった。座れそうな所は…お、あったあった」

ちょうどいい切り株に布を敷いてそこにレティシアを座らせる。

「用意するから少し待っててな」

「うん」

チキュウでは使うことは無かった魔導コンロとフライパンを空間倉庫から出し、魔導コンロに火を入れた後フライパンに油を小さじ1垂らし熱しつつ回す。

「……いい感じに温まってきたな」

空間倉庫(冷蔵スペース)からバターと割って白身を切って2回ほどかき混ぜた卵と切れたハムをフライパンに落とし塩コショウをして熱していく。

(…チキュウのニホンという国の料理文化は学べることが多くてほんと助かったな)

半熟になってきたら半熟を内になるように形を整えて包んでいく、ケチャップライスを用意することは出来ないのでオムレツとして完成させ昼飯としこれを自分の分も作ること十分後…

「よし、食べようか」

「うん!」

パンの上に切って半熟の中身を現せたオムレツが今日の昼ごはんだ。野菜類が足りないのが少々ネックなのだが夜はそれも含めて考えていこう。

「お父さん、美味しいよ~」

「お、そりゃあ良かった。味が物足りなくなったら…って言うほど残ってないか」

「あはは〜…手が止まらなくてね〜…」

「ははっ、止まらなかったのは口だろ。」

そう言いながら3分の1まで食べ進めたパンを半分に魔力の刃で切る。

「ほら、食べ足りないなら父さんのあげるぞ」

「え、いいの!?」

「そこまで食べなくても父さんは大丈夫だからな、レティシアは食べ盛りだろうしな」

「ありがとう〜!」

貰った分で元々の量から増えたからか嬉しそうに食べてるレティシアの姿はまるで子犬のようだった。

「美味しかった〜」

「よし、腹も満たしたし移動するか」

「うん!」

レティシアを抱きかかえて向かうべき方角を確認し再度森の中を歩いていく。

━━━

「……暇ー」

歩いて一時間ほどレティシアがそう零した。

「風景ほとんど変わらないしな…」

時折聞こえる鳥や木々が風に揺れる音以外これといった変化が無いのが森である。

「それにしたって魔物が出ないのはおかしいんだg……っ゛!?」(空気を切る音が聞こえなかっただと…!?)

右後ろから微弱に聞こえるであろう矢が空気を切る音もなく肩甲骨より右側の背中に刺さった。

反応が出来なければアローガードを展開することは出来ない。

「お父さん!?」

「だ、大丈夫だ…」(麻痺毒まで塗ってるか…)

矢を背中から抜き、剣を地面に刺す。

「レティシ…ア、この帽子を被っ、てその木の所で座って…待って、てくれ。すぐに、終わらせる…」

被らせたのは『石ころ帽子』、その名の通りに被った者を道端の小石同然し帽子を取るか俺が死ぬまで効果が永続する。

「…う、うん……」

言った通りにレティシアが木の根元であと数秒もすれば俺のレティシアの認識もそうなる。

(あとは治してることを気取られないように…)

剣を使って何とか立っているように周りに居るであろう敵対者に見せつつ麻痺毒を解毒魔法を身体に回す。

「ふぅー…」(近づいてくる気配が一か…)

刺した剣を抜けるように持ち手を掴み向こうが喋る瞬間を待つ。

「はっ、どんなに強くても気を抜き過ぎてたら死ぬ時は死ぬんだよ!」

直上から斧が振り下ろされ始める音を知覚し人間には出来ない早さの挙動を始める。

剣を地面から抜き構えず瞬間に剣を相手の脚に振り抜きながら左側に姿勢をそのままに動く。

「は?」

脳天に振り下ろした斧が空を切ったのだからその反応は真っ当だろう。

「因果応報はどの世界でも有る、そうだろ?『ロック・シュートバスター』」(その応報はまだ受け取るつもりは無いけどな)

詠唱による岩の生成をカットし地面から切り出し山賊にぶち込み吹っ飛ばしつつ服の裏に貫通しない程度の薄さの鉄を仕込む少し重いが仕方ない。

「さて、逃げるなら今のうちだぞ俺の子に手を出すつもりなら全員半殺しを覚悟しな。」(それにしたってあの矢を放たれるのは面倒だな。良さげな才能を山賊こんなこととして使うのもな…)

周りを見ると10人が各々の武器を構えて俺を取り囲んでいた。さっき吹っ飛ばした山賊は調子に乗った結果として受け取られたと見て良さそうだ。

「相手は1人だ、全員でかかれ!あいつの行動を封じろ!」

「うぉぉぉ!」

指揮が高いのかやけっぱちなのかは定かではないが斧持った3人の2組が後衛への邪魔するのも含めて突貫してきて1人が弓で狙いを定め魔法使いが2人とも詠唱している。

(…背後を除いた曲線の囲み型陣形ってところか、距離にして突破する為の攻撃の後隙含めて数十秒程度か…)

「しねぇ!」

「頭かち割ってやらぁ!」

真横2方向から胴体と頭狙いの斧の一撃×2が襲いかかる。取ったなと、思われるくらいこちらが動かない次の瞬間…

『その位置に我が身は無く:幻影ブリンクアウト』『風の一閃、防げぬもの無し:大嵐凪一閃たいろうなぎのいっせん

「「「「「「はぁ!?」」」」」」

2つの高速詠唱が山賊の耳に届いた時には既に切られた感覚と身体がかち上げられる感覚が山賊の身に響く。痛みは地面に落ちた時に発生するためすぐさま一蹴されたと感じるのは後衛に居る4人のみである。

「陣形に穴は空けるものだ。それじゃあ、終わりにするか【魔眼投影生成イービルアイクリエイト:魔封じ・石化】、投射…」

魔封じの魔眼は魔力の使用と魔法による抵抗を3時間ほど封じ、石化は出力を意図的に抑えつつも腕と足のみ半日近く動かせないように石化させておく。

「それじゃあ野垂れ死ぬか、獣か魔物に食われないか祈ってな」

長い戦闘はなるべくしたくはない石ころ帽子の効果もあるのだが、良い意味でも悪い意味でも人の諦めの悪さから起き得る逆転の一幕は幾度もこの目で見てきた。それ故に逆襲劇が達成されなかった時の絶望も…

「(確か名前は………)レティシアー、もう帽子脱いで大丈夫だぞー」

石ころ帽子は使い過ぎると名前すら忘却しだしてしまうが、某青狸の秘密道具よりはむしろ効果がマイルドである。

少しして「はーい」という声が後ろから聞こえたと同時に帽子を脱いだレティシアが自分が待っているように言った木の下に居た。

「ごめんな、遅くなっちまって」

「うんん、お父さんよりも人数が多かったのに早かったよ。」

「…まぁ、あの程度じゃ俺の相手にはならないからな」

「お父さんって強いんだね」

「今はレティシアって護るべき子が居るからな」

そう言いつつレティシアを抱きかかえて方角を再確認して石化させた山賊を背にして歩いていく。

レティシアにとって初めての町は明日くらいに着くだろう。

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龍の姫と万能の義父との旅路 比奈名鬼雅大 @Karume569

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