第3話:森を通り抜けて
「……ふわぁ…」
「ん、起きたかおはようさん」
「んぅ……」
目を擦って少女が目を覚ました。太陽の全貌が現れたのでそろそろ起こすつもりだったのだが意外と体内時計は壊れていなさそうで安心した。
「起きてそうそうだけど移動しても大丈夫か?」
「……」
えー?という顔をしている。起きてそうそう歩いたりするのは苦行だろう。
「君が歩く必要は今のところ無いよ。君を抱えて移動するのとお腹が空いたら食べれる物は用意してるよ。…駄目かな?」
「……それなら、いいよ」
「ありがとう♪」
少女を抱き上げてから少女の頭を優しく撫でる
「…♪」
頭を撫でられるのが好きなのだと思える感じから本来の親からの愛情はとても良かったのだろう。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
昨夜、向かう方角は確認済みなのでその方向に森の中を歩いていく。小鳥の
「…そうだ、名前を聞いても言ってもなかったな。俺はマサヒロだ、呼び方は好きにして構わないぞ」
「…私は、レティシア。お父さんって呼ぶね」
「ああ、分かった。これから知りたいこと色々教えていってやるからな」
「うん♪」
すると、グゥ〜と言う腹の音がレティシアから鳴った。
「…っ」
「ははっ、身体が求めに求めてるな。ほら、用意しているぞ」
空間倉庫(冷蔵用)から昨夜作り置きしたサンドイッチを取り出し渡す。具材は固形物になりにくい卵をスクランブルエッグにしてパンも薄くしている。
「…ありがとう」
「今のレティシアは心配になるくらいに細いから気にするな」
「…うん」
「まだ何個かあるし足りなかったら言ってくれよ」
「なら、もっと欲しい」
「ああ、いいぞ」
おかわりと自分の分も含めて2つサンドイッチを空間倉庫(冷蔵エリア)から出して一つ渡して歩きながら自分も食べる。
「………」
落ちた枝を踏み抜き歩く自身の足音と左腕に抱えて生きている熱を感じサンドイッチを食べ終わった義理の娘レティシアをチラッと見やると…
「…お父さんって男の人なのに長髪なんだね」
突っ込んでくるだろうなと思っていた事を聞いてきた。
「……あー、これはな魔法を使う為に伸ばしてるからだな」
「魔法を使う為?」
「ああ、魔法使いに女性や髪が長い人が多いのは魔法を使う際の威力や詠唱と放つ速さを空気中の魔力から調節しやすくする為だ。魔法使いと僧侶の大部分と聖女と賢者はこれに当てはまる」
「へー、そうなんだ」
「まぁ、それでも当たらなきゃ意味ないk…」
レティシアに教えていたというのに前・背後・右側の3方向から矢が撃ち込まれるが…
「アローガード!」
咄嗟に対遠距離魔法防壁を展開し防げた。
「危ねぇな、大丈夫かレティシア…レティシア?」
「………」
レティシアに視線を落とすと顔を俯いてガタガタとその体を震わせていた。
「…さっさと姿を現しやがれ俺に矢の攻撃は意味がないぞ!」
怒気を込めずに淡々と事実を織り交ぜて近くに居るであろう敵対者に語りかける。反応はない
「……(矢は飛んでこないが待ち構えてるな。探知するか…)生体探知」
生体探知、ゾンビやゴースト等の死体や精神体系を除いて生きている者を探知する生態技能の記録をムゲンの剣からコピーし発展させたものである。
(この先の木の上と下の茂みにそれぞれ2人、矢を撃ってきた3人は移動中……山賊の集団ってところか)
アローガードを維持させながら腰の右側に下げた剣を手に取る。
「…高速詠唱省略『
自分に姿形はそっくりだが透過されたような青一色の幻影を一人出現させ、脳内伝達で指令を飛ばす。【迅速制圧せよ】と…
「レティシアの耳を塞いどかないとな…」
レティシアには衝撃が強すぎるであろう事になるのでしっかりと耳栓をしておくと返答が返ってきた。
『了解』
その言葉の後、この世界で見ることも聞くこともマサヒロに敵対しない限り絶対に無い『銃』それもバースト型のアサルトライフルを構え、伝達で共有された敵対者の位置に急所をあえて外した計4発を撃ち込んだ。
「がっ…」や「ぐっ…」と言ううめき声が聞こえたので歩き出す。
幻影は間髪入れずにうさぎが跳ねるように木の上の2人を蹴り落とし茂みに居る2人に落下させつつ気絶させた。
『指令完遂』
その言葉と共に幻影は姿を消した。
「…弓兵3人は引いたか、後は運が良ければ生きてるこいつらだが…」
武装と格好からして山賊や盗賊団と言った典型的なならず者に思える。
「弾は貫通してると言うか貫通するように撃ってたか。なら、仲間が来るかを祈っときな」
剣を腰に戻しそのまま現場を後にして未だ震えているレティシアをなだめるように背中をさすり歩いていく。
まだまだ旅は始まったばかり、谷も山もあまり無い方が今は嬉しいのだがそうはいかないだろうなと思いながら…
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