第2話:朝までの小休憩

パチパチパチと火の音が静寂な夜の森の中に響く。ワープホールを用いて雪山から下山した後、近くの森の開いた空間で一息ついている。

「少し熱いとは思うが飲みな」

煮沸した水を断熱コップに注ぎ、蜂蜜を少し入れ少女に手渡す。

「っ……」フーフー

「…ゆっくり飲んでいいからな」

正直なところ隣に座っているこの娘がどんな存在なのかは一切分かっていないが、竜人が守っていた以上何かしらの事情と行われるはずだった儀式があるのは明白だ。

「まぁ、それもいつか分かるだろうな…」

「……?」

気付かぬ間に少女の頭を撫でていた。

「っと、そろそろ落ち着いたか?喋れるなら、『あー』って喋れるか?」

「…あ゛…ゴホッゴホッ…」

やはりと言うか、少女の見た目からして14歳程度だが低く見積って数ヶ月近くはあそこに閉じ込められてたと思えるほどに喉がやられている。

「今はあまり喋らず当分は反応を返してくれたらいいからな」

「……」

分かったと言うように首を縦に振る少女。

「とりあえず、整髪と服の調達が今のところの目的か…」

少女の服も髪もボロボロでありあの竜人でなくとも奴隷に間違えられる可能性も大いにある。

「……とりあえず、夜が明けたら近場の街に行くか」(お金はどうにでもなるし…)

「!!」

閉じ込められてた弊害なのか反動なのか目を輝かせてこちらを見てくる。と、同時に『グゥ〜』と言う音が聞こえた。

「腹が減ったみたいだな?」(あの竜人も明日の朝まで起きないと見てるが…どうだろうな)

「……////」

恥ずかしそうに少女がこくりと頷く。

「お湯を飲みながら少し待っててな。すぐ作ってあげるからな」

とは言ったもののいきなり固形物ばかりと言うのは逆に身体に悪いので、チキュウと言う魔法がほとんど本の描写を除いて存在せずブツリホウソクが軸となっている世界で知った「オカユ」を再現することにしよう。

どの世界においてもオーバーテクノロジーに近い圧縮異空間倉庫(以下空間倉庫)の入り口を開き、小鍋と置き台を出し焚き火の上に設置する。

「………」

少女が宇宙猫のような顔をしてこちらを見てるが詳しく説明するのは後にしよう。

空間倉庫から更に軽量した水と研いで浸水させたオコメを出し鍋に入れていく今回は柔らかめにするために水の割合を増やす。

火力は安定しないのが焚き火なので薪を適宜追加して調整と維持をしていきつつ時折かき混ぜて様子を見る。

「………」

「…眠たくはないのか?」

「……」

首を横に振る様子を見るに眠気はないようだ。光もほとんどない空間に入れば時間感覚が狂ってしまうのは仕方ないとも言える。

少し許せない気持ちになるが抑える。否、抑えなければならない…この怒りの炎は少女が持つべきなのだから。

「…っと、弱火にして蓋をしないとな」

燃えてる薪の数を減らして弱火にしていき維持させる。

「ここから十分くらい待ってる間に…髪くらいは整えておくか?」

「………」

えー待つのー…、と言う顔をしてこちらを見てるが浸水させてなければ3倍ほどの時間が掛かるのでまだマシなのだ。

「…飴を舐めて待ってたらすぐ出来るさ。だから、髪整えないか?」

お菓子の果物系の丸飴を少女に渡す。

「…………」

渋々と言った感じで飴を受け取りこちらに背中を向けて飴を口に含んだ…良いと言う意味で受け取る。

「…ありがとうな」

櫛とブラシと霧吹きと女性用整髪料を空間倉庫から出し、霧吹きで髪を濡らしていく。

「何処かのタイミングで散髪もしないとな…」

少女の髪は止まっているとはいえ立ってた時でも膝下まで伸びているのはチラッと確認している。

「銀髪が色素抜けしてないだけマシなのかもな」

「……♪」

少女がこちらを見るように少し顔を横に向けている気がしたが櫛をかけて整えていく。

「あとは軽く整髪料付けて…ブラシで再度整えて……これで良いな」

「……♪」

飴を口の中で転がして楽しんでたようだ。

「整え終わったぞ。出来たみたいだし食べるか?」

「♪」

嬉しそうにこくりと頷く少女、飴で誤魔化させたとはいえお腹には貯まらないのだから空いてるもの空いてるだろう。蓋を開けて塩を2つまみ分振りかけた後空間倉庫から木ベラと器を出し木ベラで柔らかさを確認し柔らかかったので器によそう。

「熱いから少し冷ましながら食べろよ」

そう言いながらこくりと頷く少女に器を手渡す。

「……」フーフー

言った通りに冷ましながら食べてる少女を横目にお湯を飲みながら聞く

「…長い間食べてなかったと思うが肉とかの固形物をいきなり食べるのは身体に負担がかかるからこうしたが、美味しいか?」

「………」フーフー

飲み食いするのに夢中になってて聞いてないようだ。

「…ふっ、後で聞くべきだったな」

「……!」

少女が空の器のみをこちらにずいっと押し付けてきた。

「おかわりだな。分かったよ」

さっきより少し減らした量を器にオカユをよそう。年頃の少女が食べる量が大人の男には少々把握が難しいがこれから少しずつ把握していこう。

「これくらいで大丈夫か?」

「……」

こくりと頷いて器を受け取ってくれた。さっきよりは食べるスピードが落ちてる感じからして残りは自分の分として食べた方が良さそうに思えるので器に移しつつ食べていく。

「………けふっ」

「ん、お腹いっぱいか?」

その言葉に反応するように頷き器を返してきた。

「お粗末さま、美味しく感じてくれたみたいで良かったよ」

「ふわぁ……」

さっきまで満たされてなかった食欲が満たされたなら眠たくなるのも仕方ないだろう。

「明るくなってきたら起こすけど、良いか?」

「……」

瞼が重くなってウトウトしているがかろうじて頷いて身体が傾いた少女を支えて頭を膝の上に乗せる。

「…さて、これからどうするべきだろうな」

対外的に義理の親として在りながら教えていく必要と本来の親の元に帰す又は会わせる必要性、前者はこれから少しずつ行うとしても後者のタイミングを見極めなければならない。

「間違えれば同じことを繰り返す可能性が高い…いや、そもそもあの行為をしない可能性の方が低いだろうな」

儀式云々の詳細を知るには世界を見て回る必要が有る。世界地図はこの世界に来た際に勝手に作られるので空間倉庫から出して広げる。

「…縮尺と数値からして面接的にはチキュウに近いが最北と最南の土地と一部の島以外はほとんど地続きか」

現在地まで表示されるので拡大して周辺の国地又は村や地形などを見てみる。

「…この森をそのまま抜けていくべきだな。」

多少危険なのだがそもそも村だとあの竜人が容易く暴れて被害を出され悪評が広がるくらいなら紛れやすい国に隠れるべきだろう。なのだから。

「ただ、数日かかるのが厄介な点だなぁ。」

焚き火の煙を上げないように魔法ネットを展開しつつ地図を空間倉庫にしまう。

「1人で目的の無い旅は良いが人数増えるからには目的が無いとな…まぁ、それもいずれ見つかるか」

膝に乗っけた少女の頭を優しく撫でながら夜が明けるのを待つことにした。

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