龍の姫と万能の義父との旅路
比奈名鬼雅大
序章
第1話:邂逅と偽りの親子の始まり
「よっと……ここら辺なら見渡せるか…ったく隠すのには最適とはいえこんな雪山から助けを求める声が聞こえるなんてな…」
そんなことを言っているが気温にしてマイナス10℃に近く、月明かりがあれど周囲は暗く登山の格好兼防寒具はマントのみと登山家ベテランは兎も角初心者でも『ど阿呆、雪山しかも夜の山舐めてんのか!』と言われかねない程に軽装備である。
だが、この男に足元が見えないや寒さに凍えるなんてことは腰から下げている剣の力により意味を成さない。
「…ほんと数百年使ってるとはいえ起用万能を体現してる剣だよなムゲンの剣…だったか」
安定した視界と明るさから山肌と有り得そうな場所を見定める。
「こういう時の常套手段は……人間が来ない場所が確実か…ん?━━あそこ怪しいな」
目星をつけたのは月明かりが刺し、ワイバーンくらいの大きさは問題なく通れる山肌の隙間の奥に火の明かりが薄らと見えたのだ。
「さて、降りるか。」
剣を直剣の刃から剣の先端が尖った鞭のように長い蛇腹型に変換させ隙間の入り口に刺し降りていく。
「よっ、ほっ、と…」
ある程度剣の長さに余裕を持たせた状態まで降り下を見る。
「あそこか、結構距離があるな。ここまで来た以上戻るのは助けた後だな」
岩壁を蹴って反対側に飛びつつ剣の先端を刺し崩れないことを確認しながら高さを調節しまた同じことを繰り返す。
「…幻聴ってのは本当に有るものなんだな」
何故自分にだけ聞こえたのかは定かではないが、場所まで聞こえたのならば無視することは出来ない。
ふと位置確認の為に火の明かりの方を見ると、炎の塊が飛んできた!
「な、あっぶね!」
間一髪、岩壁から離れ地面に受け身と三点着地をして被弾から逃れたが少し遠くの岩壁で爆発する音が聞こえた。
「こんな所に来る物好きな者が居るとはな」
「不届き者の間違いじゃないのかよ…」
岩壁を蹴る音と剣先を刺す音が向こうに聞こえる可能性をすっかり忘れていたのである。
「警備にしては、お前一人だけなんだな」
眼前の角が生えた竜人と思わしき男に話しかける。
「行われる儀式までここで守るのでな、大人数ではむしろ怪しまれるのでな」
攻撃されたとは言え律儀に答えてくれた目の前の竜人にこれからする事は申し訳ないが真正面から行かせてもらおう。
「それじゃあ、その儀式とやら邪魔させてもらおうか。確かめたいことがあるんでね」
剣の長さを短くして構える。
「…どこの誰かはこの際問わぬが、こちらも任務なのでな通らせぬぞ!」
竜人が眩しくはないが光を放つと男の目の前にはワイバーンが一匹雄叫びをあげて羽ばたいていた。
「殺さない程度に竜狩りと行こうか」
この世界のワイバーンが行う行動は大まかに分けて爪による攻撃、火の塊もとい火球と属性ブレス、羽ばたきによる風の刃、あと体当たりの5つ。
「あと空飛んでることが戦いにくさを補強してるんだよな」
そう言ってる間に向こうからの火球が飛んでくるが真っ向から切り刻み斜め前に突撃する。
ワイバーンは高度を上げて距離を取ろうとするが、それを気にすることなく壁を蹴るように走り上がる!
「捕まえたぜ、こういう場所だからこその方法だ!」
壁を蹴り宙を飛びながら剣を伸ばしワイバーンの脚に巻き付ける。
脚をバタバタして外そうとしてくるがそれよりも早く更なる行動をする。
『
人の範疇を超えた怪力と重量を自身に付与し、ワイバーンを地面に叩きつける。
「後は気絶してもらうか」
魔力によるブーストと怪力乱神の複合の全力でワイバーンの腹を身体ごと壁まで蹴り飛ばす。
ワイバーンの身体は壁まで吹っ飛びぶつかり気絶したのか先程の竜人の男の姿に戻った。
「さて、ご対面といこうか。」
重量化のみを解除し篝火に挟まれるように存在する扉を強引に引き壊し奥へ進む。
「性別の判別は出来なかったが…歳は若そうだったな」
そうして奥へ進むと小さいながら鉄格子がある空間に出た。
「おーい、助けを求めた誰かさーん。居て聞こえたら返事か反応してくれー」
声が反響して消えきってから一分も掛からない内にぺたぺたと歩く音と共に恐らく幻聴の主と思われる者が鉄格子の向かいに現れ…
「っと、暗くて顔がお互い見えないもんな。ちょいと待ってな」『魔法生成:フレイムランプ』
光魔法は何故か使えないので火・炎魔法を用いて明るくする。
「これで明るくなったな」
火の灯りに照らされた幻聴の主は、年端もいかない少女だった。
「…………」
「君かい?俺に『助けて、生きたい』と助けを呼んだのは」
そう聞くと少女は驚いたような顔をしてコクコクと頷いてきた、その様子から嘘を付いている感じはなかった。
「自由に生きたいか?」
「……」コクコク
「危険は伴うだろうが一緒に来るか?」
「…………」コクコク
「分かった。ここから君を義理の娘として連れ出そう」
「!!」
目をキラキラさせてこちらを見る少女を傍目に鉄格子の扉を力強く引っ張って壊し外す。
「…これで後やることは」『
来た方向とは反対側の壁に魔法とも言える穴を開ける。
「それじゃあ、行こうか。君の幸せと自由の為に、ね」
手を少女に差し出す。
「…!」
少女がその手を取る。その目にはワープホールの先に見える月の光が灯されているように見えた。
これが俺に向けられた終わりの始まりと
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