卒業式(最終章-3-)

 全く予期していなかった祭典、そんな騒ぎになった後、迎えに来た猪田先生と一緒に生徒を引き連れ、日和を抱きかかえたまま体育館を後にした。日和は俺にしがみついたまま、全く降りようとはしなかった。教室についても、興奮が収まらない生徒たちに話をしたいのだが、日和が離れない。教室着いたから取り敢えず席に座るように耳元で伝えても一切動かないので、諦めて机に日和を抱き抱えたまま座ると、大八木が叫んだ。


「日和君、スッポン?」


「Naked?」


 スッポンは確か裸という意味だと記憶していたので、思わずそう聞き返すと、生徒が爆笑して言った。


「先生!下ネタ!それしかもう頭にないんでしょ?」


「ちがーーーーう!!てか、スッポンてそういう意味だろ?」


「あははは、それスッポンポン!スッポンじゃないし!」


「ポンポン?何だそりゃ?Pom Pom?」


「出た、アメリカ!日和君苦労しそう!あははは」


「…てか、日和、そろそろ降りない?俺、お前抱き抱えたまま最後終えるわけ?」


「絶対降りない。逃げられたくない」


「…俺、そんな信用ない?」


「…だって信じられない。僕、こんなかっこいい人と結婚出来るなんて信じられない。だからこのままが良い」


 日和の言葉にクラスが大いに湧くと、猪田先生が困り果てた俺に助け舟を出してくれた。


「日和君、先生はあんなに大勢の人の前で約束してくれたのよ?これからもここでお仕事するから、色々躊躇することもあったと思うけど、それでも貴方を選んだんだから、その先生の机に座ってても良いから、一回、先生を皆の先生に戻してあげてくれるかな?日和君の先生は、日和君のクラスメイトにとっても大事な先生だから。ね?」


 流石に日和もその言葉を聞いて、俺の膝から降りて俺のいつも座っている机に座った。目の赤くなっている日和は、何故かいつも以上に子供に見えた。可愛いと思い頬を軽くつねってから壇上に向かうと、生徒達がまた悲鳴に近い声を上げた。だが、すぐに教室の中は静かになった。


「まず、紅白饅頭わざと机の中に忘れていかないように、今すぐ荷物に仕舞いなさい」


 皆が笑いながらガタガタと荷物をカバンにしまうと、こちらに輝く瞳を向けた。本当に、この教室での最後。この生徒全員とこうしてここで集まる、本当の最後。


「なんか悪かったな…最後の大事な式、こんな私的な事で締めくくることになって」


 やはり卒業式という特別な場所を場所を私用化したことを申し訳なく思い謝罪すると、大八木が笑った。


「むしろ最高ドキドキして楽しかった!こんな良い思い出の一部になれる方が普通の卒業式より断然良い!」


 それに生徒達全員が歓声を上げて賛同してくれるのを見て、最後胸が一杯になった。


「…本当心が広いな、お前達。でも、心から感謝してる。こういうの、やっぱ普通に賛否両論あるだろうし、嫌な気持ちだった保護者の方も絶対に居ただろうし、それでも我慢して見守ってくれた人が大多数だった事実は、一生恩として忘れないでいられるよう、心にしっかり刻印しておきたいと思う。本当、ありがとう」


 頭を下げると、生徒達が拍手をしながら「おめでとう」と叫んだ。その言葉に笑顔で頭を上げると、生徒の一人が手を上げたので「どうぞ」とジャスチャーを送ると、生徒が立ち上がり質問をした。


「先生達は4年は少なくとも遠恋になって、その後日和が米国残るって言ったら先生もやっぱりここ辞めちゃうんですか?」


「うーん、そんな先のことはその時にならないと分からないけど、家族になるなら同じ場所にいないとおかしいから、それが日和の本当にしたいことなら、迷わず仕事辞めて米国行くだろうな」


 その返事に生徒達が思い切り悲鳴を上げ騒ぎ出し、日和を冷やかした。日和は両膝を抱えて顔を完全に隠していたが、耳が真っ赤だ。思わず笑うと、他の生徒が手を上げて聞いた。


「その時、子供はどうするんですか?」


「それはよく母親と話し合うよ、勿論。子供がいる事実は生きてる限り全ての決断をする前に考えないといけない責任だから。でもマイアは絶対そういう状況になったら行けって言うだろうから、相手にそう言わせるんじゃなくて、本当にそれが子供にとってベストなのか一緒に考えて決めたい。子供を無視して自分勝手に行くとか出来ないしな、親としての責任放棄をするつもりは今のところ、一生ないし。でも4年でマイアの状況も変わる可能性もあるし、何も今の時点では断言出来ない。たださ、俺が信じたいのは、子持ちの男と結婚したいならそのぐらい日和も考えてくれるだろうってとこかな。な?」


 全員が「フーーー」と可愛い声を上げると、日和が顔を上げずに静かにというジェスチャーを送り、顔を隠したまま答えた。


「日本には必ず帰って来ます。瑛ちゃんからパパ奪うことはしたくないので」


 それに皆がまた冷やかすように悲鳴をあげるので、思わず笑うと大八木が大声で提案をした。


「先生、4年後、日和君が日本に本当に帰って来たら、同窓会しよ!大学その頃出るだろうし、私達も社会人一年目で話したいこと山のようにあるだろうし!」


「あははは、4年後とか、お前、ちゃんと4年で卒業出来るようにしろよ?」


「大学で留年とか聞いたことないから大丈夫だと思います!」


「大八木、甘い。俺は周りで留年した人間それなりに知ってる。男女関わらずな。だから、しっかり単位取って卒業しろよ?」


「日本の大学は入るのは大変だけど、卒業は簡単だって噂は嘘なんですか?」


「知らん。俺は教職が大変で単位ヤバいと思った時、教授に懇願書をつけたレポート出した。単位一コマ足りなくても、留年だから」


「…そのレポートで、その単位取れましたか?」


「…取れた。でも保証はないから真似するなよ?」


 皆が笑うと、他のクラスの卒業生達がエイトコールを送りながら廊下を通って行き、それに合わせて生徒達が冷やかしの声を上げるので、それを静止した。


「有難いけど、ちょっと静かに。あんな事して今更だけど、皆とこうやって揃って向かい合ってこの教室で話せるのは、これが本当に最後だから先生に、少し先生させてください」


 生徒達は外から響くそのコールとは裏腹に静まり返った。全員の顔を見渡し、最後に日和を見ると、日和もしっかり顔を上げていた。泣き過ぎて鼻が真っ赤だが、真剣な表情は、生徒の日和の顔だ。猪田先生を見ると、猪田先生が頷き、俺はそれに頷いてから話を始めた。


「予定してたというか、考えてたのと全然違う締め括りで、本当正直、今動揺が半端ないんだけど」


 本音を口にすると、日和が「すみません」と生徒らしい言葉を口にし、皆が冷やかしの声を上げた。それに笑いながら静かにするようにジェスチャーを送り、話しを続けた。


「皆の教師として話せる今の状況が、どれだけ奇跡的か理解しているので、まずありがとうと言わせて下さい。本当に、ありがとう」


 生徒達の中で泣き出した者がいるのが目に入ったが、最後だけは泣かないと決めていたので釣られないよう自分は涙を堪えた。


「特にこの3年の大事な時に、先生は色々皆を振り回したと反省してます。ごめんな。でも皆の大人な対応に毎回救われて、今日を迎えられました。皆と過ごせたこの3年間、先生の人生で一番充実してました。嘘偽りなく、そう思う。日和のガッツにかなり翻弄されはしたものの」


 話の途中で皆が爆笑して日和を揶揄うと、日和はまた顔を隠していたが、それを眺めながら話し続けた。


「自分自身、人として、男として、教師として、学ばないといけない事だらけだと気が付かせて貰えたのは、そのガッツのお陰でも大いにあるから、やっぱり感謝してます。ありがと」


 教室中に起こる歓声の中、日和が泣いているのが分かると、猪田先生が日和にティッシュを渡した。


「先生は、母親が教師をしてたから、この仕事を選んだ。でも、憧れて選んだわけじゃなくて、母親の事を理解したくて選んだ。詳細は話せないけど、最近ある不透明だった事が少しだけ分かる事が起こって、それで思ったのは、人生はコントロールが不可能な事が多く存在してるって当たり前のこと。でも、どうしようもない事が起こり得る人生だからこそ、今、この瞬間がいかに貴重で、その今を共に過ごしてくれる仲間や同僚がいかに大切で、感謝をしないといけない存在かってこと。教員という仕事を通して、母もきっとそれに気が付いていたって、今は自分がこの立場になって実感する。生徒達の存在は、自分が子供を持ったからというのも大いにあるかもしれないけど、本当に愛しい以外の言葉が見つからないぐらい大事なんだよ。だけどこの3年で、このクラスだけじゃなくて教えてきた生徒皆、本当に愛しいと思う気持ちを抱けたのは、ここにいるお前達が毎日毎日健気にむけてくれた剥き出しの心のお陰だって思う。皆の笑い声、泣き声、言い争う声、励まし合う声、全てがいつの間にか心に蓄積されていた何重もの不必要なフィルターを破壊してくれた。日和が答辞で言ってたみたいに、何か特別大きな出来事1つで変わったわけじゃなくて、日々の小さな蓄積が、少しずつ変えてくれた。この歳で、人を想う気持ちを学んで、その心に素直に従えるしなやかさを、少しは備えられるようになった。全部、皆と出会えたから得られた。先生は、高級車に乗ったり、豪華な旅行をしたり、高級ブランドに身を包んだり、大きな家に住んだり、そういう生活とはきっと一生無縁の人生を送ると思う。だけど、それで何かが足りないと思う気持ちとも、一生無縁の人生を送ると思う。教師として、生徒という世界の宝石のような存在に、出逢い続けられる、素晴らしく充実した人生を歩めるとこの3年で学ばせて貰ったから」


 涙で光り輝く生徒の瞳の奥に、未来がある。未来を見据えるこのエナジー全開の若さは宝石そのものだ。大人が、大事にしないといけない、宝石。


「先生は、皆から贅沢の意味も教わった。心が満たされること、愛して、愛されること、これ以上のものは何も意味がない、愛しいと思える存在を慈しむ事が出来る環境そのものが、贅沢だって知った。生徒達を何度も理解出来ないと思った事もあるし、それをジェネレーションギャップとかジェンダーの差異で片付けようとしていた節もあったけど、そうじゃない。どのジェネレーションでも、ジェンダーでもナショナリティでも人は深い部分で繋がれる。それを皆が身を挺して教えてくれた。教員って仕事は、教える以上に教わることの多い、最高の仕事だと今この瞬間本心から思ってる。ありがとう」


 繰り返し口にする有難うに、生徒達は小さな声で有難うと返してくれた。涙腺が保たなそうで、必死に言えるうちに言葉を繰り出した。


「お前達一人一人、これから向かう先で楽しいことや嬉しい事が沢山待ってる。でも、全てが上手く行く訳じゃない。辛い時も、どうしようもない気持ちになる時も、きっとある。だけどその時、無理にすぐ立ち上がらなくても良いって覚えておいて欲しい。どれだけ折れても良い。どれだけ迷っても良い。泣きたいだけ泣いて、悔しがるだけ悔しがって、ぶっ倒れて、これ以上腐っていられないって思うまでとことん落ちても良い。それで茫然自失になった時、必ずここでの3年間はそこから這い上がる力をお前達の中に植え付けてくれてると、ジョーと同様、先生も信じてるから。だから、何があっても最後は立ち上がれる力がある自分を、信じて欲しい。この場所が皆の心の拠り所になって、無限の可能性がある世界に、突き進み続けられること、ずっと、永遠に先生は願ってます。卒業おめでとう。大八木が言ったみたいに、また4年後皆で会える機会があるかどうかの保証はないから、これからの謝恩会、これが人生最後の祭りだって思うぐらいの勢いで、思いっきり楽しんでけよ? Are you guys ready to party?? (騒ぐ準備出来てるか?)」


 湿っぽくならない為に声を張ると、生徒達は半泣きながら最高の笑顔で「YEAH!!」と弾けそうな声で返事をした。皆が騒ぐ中、卒業証書を一人一人渡さないといけないので、証書を受け取った生徒から教室を出るよう促した。始めに青木の名前を呼ぶと、青木の目は充血していたが、大人になったその笑顔はやはり眩しかった。


「青木翔、先生はお前にいうことは何もない」


「はぁぁぁ??最後ぐらい、何か言えよ、逆に!」


 青木の言葉に生徒が大きな声で笑いながら机を叩いているので、青木を力強く抱き寄せて背中を叩いて耳元で伝えた。


「Thanks. このクラスは、お前が居なかったらこんなに纏まらなかったと思う。You always bring out the best in other people. (お前はいつも人のいい所を引き出す力がある)大学行っても絶対変わるなよ?」


 青木が俺の腕の中で、初めてボロボロに泣いた。驚いたが、その感情を隠さない素直で純粋な部分は、初めから変わらない。すぐ熱くなり、すぐ喧嘩を売って、正義感の塊で、本当は誰より友達想い。愛しいと思い、背中を摩ると、青木は震える声で「先生も…老け過ぎるなよ、ひよが可哀想だから」と言うので、思いっきり笑ってしまうと、青木は照れた顔で舌を出した後、俺の背中を叩いて教室を出て行った。証書を入れた筒にはカードも入れている。帰った時に、読んでくれたら嬉しいと思いながら、次々に生徒の名前を呼んでは証書を渡し、教室には猪田先生と日和しか居なくなった。猪田先生は、俺に気を遣ってその場を去ろうとするので、それを止めた。


「猪田先生、俺は教師として日和をここから出したいから、居て下さい」


「…分かりました」


 日和は泣き腫らした顔で、荷物をまとめて俺の前にゆっくり歩いてきた。廊下に出た生徒達はそのまま下で待つ保護者の元に行ったのだろうと思っていたが、廊下で全員、この様子を密かに携帯で撮っていたと、謝恩会の時に知った。

 日和が俺の前に立つと、3年前の入学式の日を思い出した。体格から性格、全部大人になった。自立した、大人に。


「日和英人、初志貫徹か、凄いな」


「えへへ」


 つられて笑いそうになったが、最後ぐらい真面目に教師をしようと思い話しを続けた。


「3年間、本当に血の滲む努力してるお前に、先生は凄く励まされて、後押しされた。自分も頑張ろうと思える力を分けて貰った。有難う」


 日和は目に涙を溜めて、小さく「有難う御座います」と言うと、咄嗟に溢れる涙を手で拭った。


「アメリカの大学は、ここでの3年の努力以上の努力を要することになると思う。だけど、先生はお前なら絶対に卒業出来ると信じてるから、その信じられないぐらいの底力を発揮して目一杯、吸収したいことを吸収してこい」


「…はい!」


 証書の入った筒を渡すと、日和を静かにハグし耳元で伝えた。


「3年、約束通り時間をくれて有難う。お前が、俺の生徒で良かった。卒業おめでとう」


 日和は俺の腕を掴んで静かに泣いた。その姿は、自分が人生を共に歩む予定の男というよりは、やはり生徒そのものだった。卒業するという大きな達成感に、この学舎を去る寂しさに、感情を全て揺さぶられている。泣く日和に、猪田先生がティッシュを渡すと、日和は鼻を噛んでから、猪田先生に丁寧なお辞儀をした。


「有難う御座いました。猪田先生がこの学校に来た時、僕は状況が掴めなくてあまり嬉しくなかったけど、猪田先生と最後の二学期間、この学校で共に過ごせて本当に良かったです。猪田先生が、この学校に来て下さったから、この学校はこれからきっともっと素晴らしくなると思います。今度の新入生が羨ましい位です」


 日和の言葉に猪田先生が涙を一粒流し「有難う」と言うと、日和は俺に向き直って言った。


「優月先生、押しても押しても倒れないでいて下さって有難う御座いました。先生が言った通り、この時期しかない大事なこと、沢山見つけられました。本当に、沢山」


「ん。その中で最も大事なお前の仲間達、きっと外で待ってるだろうから、行ってきなさい」


 日和の後ろに周り、肩を背後から押すと、日和がこちらに背を向けたまま言った。


「先生、この教室出たら、本当に僕は生徒じゃなくなります。そしたら、僕は先生のこと、何て呼んだら良いですか?」


「あははは、何とでも。あ、青木みたいにおっさんって呼ぶのだけは禁止な?」


「あははは!そんな事言う訳ないです!じゃあ、考えておきます」


「ご自由にどうぞ。ほら、あんま友達待たせるなって」


 保護者と生徒達は毎年下で写真撮影を続けているので、肩を更に押すと、日和がドアに手を掛けてから呟いた。


「This is it... (これで終わりかぁ…)」


「Yes, this is it. (ん、以上)お前の高校生活、最後の教室。振り返るなよ、そのまま出て、皆に合流するように」


 最後の生徒を教室から出す時の感情は、心の大事な部分を全て持って行かれるようだった。異常なぐらいに胸が苦しい。その痛みに胸元を手で抑えている自分は見られたくないので、強引に足の止まっている日和を出そうとすると、日和はやはり俺に背を向けたまま言った。


「僕、この瞬間を待ってたし、先生の生徒じゃなくなったら、先生との未来が開けるって思ってたけど、このドア出るの、勇気が要ります」


「…何で?」


「先生を一人の人として好きなのは変わらないけど、僕、思ったよりも、先生を先生として本当に尊敬してて、先生を先生として大好きだったから…先生の生徒でいられなくなるのが、寂しい」


 胸に当てていた手が震えた。それは俺も同じだからだ。日和を一人の人間として特別に見ていたが、それ以上に、やはり一人の生徒として大事に想ってきた。その大事な生徒が、この教室を出て行く。残されるのは、空になる教室と来週から何事もなかったように4月に入学してくる生徒のために、新たな生活の構築を始めないといけない現実。寂しいと言う気持ちは、お互い同じだ。


「…生徒と教師の関係は、一過性だと思ってたけど、今はそうじゃないと思う。一度俺の生徒になった生徒は、永遠に俺の生徒。俺は、一生お前を生徒だと思ってるから。ここを出て、この教室に2度と戻らなくても、先生は日和の先生だ。忘れないで欲しい。先生も、忘れないから。生徒全員」


 覚えていて欲しいと貪欲に思えるほどに愛情を持った相手、生徒が生徒でなくなっても、やはり生徒に変わりはないと思う気持ちを伝えると、日和はドアを引きながら振り返った。川のように流れる涙の下にある笑顔、担任としてこの教室から出て行く最後の生徒は、満面の笑みで言った。


「やっぱり、ここ出ても、僕、先生って呼び続けますね。僕の先生は、やっぱり先生だから!」


「外では辞めてな?警察呼ばれたら困るから」


 泣きたくないので冗談めかして答えると、日和が笑って言った。


「警察呼ばれたら、この人僕の夫ですって言うから大丈夫です!先生、次の授業は何ですか?スピーキングですか?」


 笑って揶揄うような質問をする日和に、笑いで返そうと思い最高に下品な返事をした。


「Are you fucking kidding me? Of course, it's RSHE! You gotta learn a lot, you know.(冗談だろ?勿論性教育に決まってんだろ?お前、学ぶ事だらけだからな?)」


 猪田先生が小さな悲鳴をあげるので「I'm just kidding!!!(ジョークですって)」と言い訳をすると、日和がドアから叫んだ。


「Yeeeeees!!! I can't wait!!!! (やった!!待ちきれないっ!!)」


 日和の底抜けに明るいふざけた返事に、猪田先生が大声で笑うので、もう一度訂正を入れる為に強調した。


「It was just a fucking joke!!!(冗談だってば!)」


 最後の生徒、日和が大騒ぎをしながらドアを出た後、この俺の下品な冗談は、謝恩会で散々弄られる羽目になった。教師として生徒を教室から出すには、いささか向かないセクハラ発言をした自分自身を暫く呪ったのは言うまでもないが、最後が笑いなら、それで良いのかも知れない。


 高校生活、最後の笑いは、きっとこの先に続く未来に更なる笑顔を運んでくれる。何故なら全ての物事には終わりがあるが、それが笑顔で締め括られたなら、次の一歩に涙を持ち越ししないで済むから。

 彼らの高校時代、俺と彼らの高校時代、その締めが笑顔であった奇跡を、アルバムの最後に写真に収め、それぞれの道に出て、未来を迎えに行こう。この特別な時代を鎧にし、明日を夢見て、些細な日々を大事にしながら先へ。


               ーFINー


P.S. 長い間有難う御座いました。後日談はHPに掲載します。I hope you enjoyed the story! Thanks for your patience!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高校時代 ゆう @rocknbook

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る