後編

 思い出したくない過去。目を逸らしたい過去。無かった事にしたい過去……でも、許されない。

 胸に刻まなくてはいけない過去、受け入れないといけない過去、忘れてはいけない過去……でも、思い出す度に苦しくなる。


「戦吾には……わからないよ」


 僕は尻餅をついたまま、捻り出すような声でそう呟いた。


「あ?」

「好きで好きで堪らない人と2度と会えない……一緒に笑う事も、感謝する事も、謝る事も出来ない」

「……」

「ましてや僕が殺したようなものなんだぞ、だから忘れたい……けど、忘れちゃいけないんだ」


 僕は俯いたまま、戦吾にそう告げた。

 自分を正当化したい訳ではないけど、僕には僕なりの葛藤があるという事を戦吾にわかってほしかったのだ。


「大切なものを失った気持ちと、偽物とはいえ大切なものが帰ってきた事の嬉しさが、戦吾にはわかる訳無いだろ!?」

「ツナにはツナなりの葛藤があるのは勿論わかってるつもりだ、寧ろ無いと困る! だがな……ツナがそう言うなら、俺だって言わせてもらうぞ」

「な、何を……?」

「——お前に、好きな人を親友に奪われた気持ちと、好きな人を親友に託した虚しさが理解出来んのかよ」

「え……?」


 戦吾が僕に言い放った言葉。

 その言葉から察するに、戦吾も茅縁の事が好きだったのだろうか……しかもそれを“親友”に託した、って事は。


「俺と茅縁は、幼稚園の時から一緒……いわゆる幼馴染って奴だった。ツナと出会ったのは小学5年の時だったか」

「う、うん……ツナってニックネームを決めたのも茅縁だった」

「当時、ツナにちょっと嫉妬してた……俺は未だ苗字呼びなのに、お前は出会って数日でニックネーム呼びなんてな」

「……」

「——中1ん時に茅縁から恋愛相談持ちかけられた時は、めちゃくちゃ複雑な気持ちだったぜ。良く捉えりゃ、恋愛相談されるほど俺は茅縁に信頼されてたって事だが……向けられたいのは信頼じゃねぇんだよ……!」

「戦吾……」

「それから数週間後くらい経ってから学校の外でお前達と遊ぶ機会が露骨に減って、なんとなくお前らが付き合ったんだって察した……なぁ、一つだけ教えてくれ。どっちが告ったんだ」

「……茅縁」

「——やっぱそうだったかー、そうか……ラブコメのハブられ役ってこういう気持ちなんだな……」

「ごめん」

「良いんだ別に。もう恋は諦めたからな、だから逆にお前達を応援する事にしたんだ」

「……そんな、そうだったんだ」


 確かに、戦吾は僕達が付き合い始めてから僕達と絡む事は滅多に無くなった。いつも外に出て他の友達と遊んでた。お陰で僕達は2人の時間が出来てたけど、全部戦吾の“応援”によるものだったなんて。


「だからこそ、俺はお前が許せねえ。なぁ、顔が同じだったら誰でもいいのかよ!?」


 戦吾はずっと内に溜めていたものを吐き出すようにそう言い放つと、僕の胸ぐらを掴んでぐいっと持ち上げた。


「それは……」

「お前は茅縁じゃなくて、茅縁を完璧に……いや、お前自身にとっての理想を演じてくれる郁弥が好きなんじゃねえのか!?」

「そ、そんな訳……!」

「辛い過去を忘れたいからって偽物の理想に甘える事が、茅縁との日々を……茅縁の死を侮辱してるとは思わねぇのかよ!? 言っとくが俺から見る茅縁の演技、全然似てねーからな!? 大体、付き合ってた時に一度でも茅縁に人前で抱きつかれた事あんのか!?」

「ある訳ないだろ! その時の僕達はまだ……あっ」


 戦吾に言われ、僕はある事に気付いた。

 確かに戦吾の言う通り、茅縁は人前で僕に抱きつくような事はしなかった。それどころか、手を繋ぐ事すら無かったのだ。にも関わらず、僕はその何気ない動作に何の違和感も感じずそれらの行動を受け入れてしまっていた。


「茅縁と一番距離が近かったツナが、こんな事にも気付けないほど盲目的になるなんてな……俺が尾行してなけりゃヤバい事になってたかもな」

「尾行って……もしかして僕達の事をずっと見てたの!?」

「初日のお前らがバスに乗るまでだけどな」

「——僕、と話してくる」


 僕はまるで覚悟を決めたようにそう言うと、そのまま戦吾を横切って走り出した。

 いや“覚悟を決めた”というのはあながち間違いじゃないのかもしれない。茅縁を演じる郁弥を“郁弥”として接する事は、僕にとってはある種の決別……つまり、過去に決着をつけるようなものなのである。辛いけど決して忘れてはいけない過去。だからこそ、受け入れて前に進まなければいけない。


「……こんな良いヤツ、俺以外に居ねえぞ?」


 戦吾は走る僕の背中を見つめながら、そう呟いた。その声は勿論、僕には届いていない。



 僕は制服のまま、茅縁……いや、郁弥の待つ地雷系喫茶へやってきた。そこにはいつものように女の子らしい服装を身に纏った郁弥の姿があった。


「あ、ツナくん! 今日は制服なんだね、言ってくれれば私も制服着てきたのにー」


 郁弥は女の子らしい口調と仕草で僕にそう言う。改めて彼を男と認識した上で聞くと、中々に……言葉を選ばずに言ってしまうと、気色悪く感じてしまう。


「茅縁……いや、郁弥」

「——ん」


 僕が彼の名前を呼んだ途端、郁弥は何故か少しだけ嬉しそうに口角を上げて微笑んだ。


「単刀直入に言うと、この関係を止めよう」

「……なんで?」

「茅縁はもうこの世には居ない。僕は自分の事ばかり考えて、君に茅縁を演じてもらって未練を解消してた……でもそれは、こんな僕を好きで居てくれた茅縁に対する侮辱だってわかったんだ。だから終わりにしたいんだ、この理想的だけど……結局、偽物に過ぎない関係を」

「そっか……君がそう言うなら、もう茅縁を演じるのをやめるよ」


 郁弥は、意外にもあっさりとそれを承諾した。チンピラから助けてくれたお礼というだけで僕の我儘に付き合ってくれたのだ、僕は郁弥に感謝を伝えようとした……その時だった。


「——だから、次はボク自身だね」

「え?」

「茅縁を演じるのをやめてほしいって事はさ、今度はボク自身を愛してくれるって事でしょ?」

「な、何を言ってるんだよ、男同士で愛なんておかしいよ」

「ふーん……茅縁を演じてた時のボクとは随分仲良くしてたのに、となると嫌悪するなんて……それはボクが“男”だからかな?」

「っ……」


 脅すような、光の無い真っ黒の瞳で僕を見つめながらそう言う郁弥の問いに、僕は恐る恐る頷く。途端、郁弥の表情から少し浮かべていた笑みが無くなった……まるで僕に失望したかのように。

 そして僕の手を掴んで引き摺り込むように地雷系喫茶の店内へと引っ張っていった。


「な、何するんだよ……!?」


 郁弥は僕を地雷系喫茶の個室に連れてくると、ソファに突き飛ばしてきた。幸いソファはふかふかしていたため痛みは無かったが、何だか嫌な予感がしていた。

 すると郁弥は動かないようになのか僕の肩をガッチリと掴むと、そのまま顔を近付けてきた。止まる気配は無く、そろそろお互いの唇が当たってしまうまでの距離まで近づいてくると、僕は郁弥を引き剥がそうと自分が出せる力全てを出して郁弥の身体を押し返して抵抗する。すると郁弥は意外にもすぐ離れてくれた。それに加え、僕の抵抗に対してもまんざらでもなさそうであった。


「——なんで……男ってだけでダメなのかな?」

「えっ……」

「ボクが男だって知らない時はみんな持て囃すのに……男だってわかった瞬間“気色悪い”だとか“キモい”だとか“変”だとか、ひどい時は“よくも騙したな”だとか“裏切り者”だとか言うんだ。何をしてほしいのかとか、どんなのが理想なのかとか男の気持ちが理解出来るボクなら相手にとって完璧な恋人になれるのに、何でみんなボクが男というだけで毛嫌いするんだよ……ボクだって男の子として生まれたかった訳じゃないのに!!」

「郁弥……」


 郁弥は怒っているような悲しんでいるような表情で僕にそう叫んだ。

 きっと、これは郁弥の心の奥底からの本音なのだろう。郁弥の心はわからないけど確かに見た目と声は完全に女の子で、寧ろ間違っているのは性別の方だと思える。


「——そんな中、君と戦吾だけはボクが男だとわかってもなお普通に接してくれた」

「それは……」

「もちろんボクが君の元カノとそっくりっていう理由付きだけどさ。でも嬉しかったんだ……だからボクと普通に話せる貴重な存在である君達を離したくなかった。だから君の元カノを演じてまで関係を繋ごうとしたんだ」

「そう、だったんだ……」

「でも茅縁として君と接していく内に、段々と“ボク自身”を好きになってほしくなっちゃったんだ。ボクって案外、すぐ人の事を好きになっちゃうタイプで、恋愛下手なんだね」


 暗い雰囲気を紛らわすかのように、自虐を言うように郁弥は笑った。

 郁弥は見た目と性別が合っておらず、男というだけで多くの人間から蔑まれてきた過去を持っているのだろう。それでもなお女であろうとする彼に、僕は何をいえば良いのかわからなかった。無い訳ではないけど“諦めて性別を受け入れた方が良いのでは?”とか、彼の求めていない事ばかりだった。


「ボクはどんな形でも良いから、誰かに愛されたい。友達なんていた事ないし、唯一の家族の兄さんも……」

「兄が居るんだ」

「うん。でも兄さんはナンバーワンホストでいつも女と接してて忙しいから、女には飢えてないんだ」

「……」

「だからまがい物のボクの事なんて見向きもしないんだ……本物の女を知ってるから」


 郁弥の過去は僕が思っていたよりも遥かに冷たく寂しいものであった。

 唯一の家族、という事は郁弥に両親は居ない……友達は出来たとしても素性を明かせば離れられ、恐らく同じお腹から生まれてきた兄にすら見向きもされないなんて。郁弥が誰かを愛し、誰かに愛されたい……にも関わらず最初に性別を明かしてしまうのは、容姿とは異なる性別ですら受け入れてくれる……そんな寛大な心の持ち主の温かさを知りたいからなのだろう。


「——じゃあ、僕と友達になろうよ」

「いいよ……え?」


 僕の要求に、郁弥は一瞬承諾した後に疑問符を浮かべた。

 もはや僕からの要求なら何でも了承するつもりなんじゃないだろうか。それだけ郁弥にとって僕という存在は貴重で手放したくない存在だということか。


「別に無理して恋人になる必要なんてないよ。僕と茅縁だって出会った日から恋人って訳じゃない、まずは友達からなんだよ」

「友、達……」

「うん。流石に恋人は難しいけど、友達としてなら僕も抵抗無いしさ」

「ボクが……友達……」


 まるで聞き慣れない単語を言うように郁弥は“友達”という言葉を呟き続ける。その瞳からは涙が浮かび、やがて頬を伝っていった。

 これは嬉し涙だと、僕は信じたい。


「……いいの?」

「さっきまで無理矢理恋人になろうとしてた人が何言ってるのさ、大体僕が言い出したんだぞ? 良いに決まってるじゃないか」

「……本当に良いの? 後悔しない? 避けない? 嫌わない?」

「それは君の今後次第だけど……少なくとも郁弥が男だからって理由で避けたり嫌ったりなんてしないよ、絶対に」


 僕はそう言うと郁弥は無言で寄りかかってきて、両腕で優しく包み込むように僕の身体をホールドする。


「……うん……ありがと」


 郁弥は耳元で、僕に囁くようにそう告げた。

 自分で言い出しておきながら、茅縁としてではなく郁弥という少し変わってる人として接していくのは違和感が拭えないとは思うし、正直恋仲に発展する事も無いけれど、そんなこんなで僕達は改めてとしてリスタートする事になった。


 ——が、その後……僕達が笑い合う事は無かった。



「……んで、あれから郁弥とは会ってんのか?」


 一般人に親しまれているファストフード店にて、戦吾はポテトをつまみながら僕にそう言った。


「あれから全然会ってないんだよね」


 あの日から数週間……郁弥は僕の前からめっきり姿を消してしまった。改めて友達として僕達と接するのが恥ずかしいのだろう……と思いたいけど、にしたって数週間は長過ぎる。


「地雷系喫茶に居んじゃねーの?」

「急に辞めちゃったんだって」

「えぇ? でもツナから友達になろうって言われた時は嬉しそうだったんだろ?」

「僕がそう捉えてるだけだけど……少なくともあの表情は嫌がってるって感じじゃなかった」

「両親が転勤したとかは?」

「郁弥に両親は居ないみたい。一応兄が居るみたいだけど……ん?」


 自分でそう発言したその時、窓の外にある二人組が視界に入った。

 片方はまるで有名人の変装のように黒マスクと眼鏡をしている長身の男性。もう片方は女の子らしく可愛らしい格好をして幸せそうに笑う——郁弥の姿。


「戦吾、後ろ!」

「ん? あ、郁弥じゃねあれ!?」

「行こう!」

「お、おう」


 僕達は郁弥を追うべく急いでファストフード店を飛び出そうとする。


「お客様ー、お会計忘れてますよー」

「戦吾おねがい!」

「ちょお前ふざけんじゃねぇ! これで見失ったら許さねえからな!」


 そう言って即座に財布を取り出す戦吾を置いて、僕はファストフード店を飛び出して郁弥を追いかけた。

 平日の昼とも夕方ともいえない微妙な時間帯にも関わらず、外は人混みと煩い広告で溢れかえっている。そんな中、僕は郁弥の背中を発見すると、人を掻き分けて郁弥の元へ急いだ。


「郁弥!!」

「……ん?」

「っ!?」


 僕に名前を呼ばれ、郁弥はゆっくりとした動きで振り返る。久々に見る顔だが、最後に見た時とは明らかに“何か”が違っていた。目に光は無く、ニヤニヤと口角が上がっているのに笑っていないような……不気味な表情をしていた。まるでそういう仮面を着けられているかのようだ。


「オイ、誰だアイツ。お前に友達なんて居ない筈だろ……の筈だろ」


 郁弥の隣にいる長身の男は、僕を睨みつけながらそんな事を言った。


「うん……もちろんだよ兄さん」

って……あなたが郁弥の」

「何処の誰だか知らないが、オレの郁弥に指一本触れてみろ……何が何でも殺す」

「こ、殺すって……」


 まるで僕を憎んでいるような郁弥の兄の言葉。

 しかし、郁弥は“兄には見向きもされない”って言ってた。だが今の状況を見ると、郁弥は兄に過剰なまでに大切にされているように見える。郁弥も兄の二の腕にピッタリとくっついて、まるで互いに愛し合っているカップルのように見える。


「何があったの、郁弥……?」

「ん〜? 見てわかるでしょ、ボクは兄さんに愛されるようになったんだ……女に飽きた兄さんは、愛の矛先をボクに変えてくれたってだけ」

「う、うん……そうなんだ……」


 僕は目の前の光景とその事実に、ただ頷く事しか出来なかった。

 確かに言葉だけ聞けば、それは良い事に聞こえるのかもしれないが、僕はどうしてもそうは思えなかったのだ。しかしそれを郁弥の兄の前で指摘する勇気が、僕には無かった。


「やっと追いついたぜ……ん、これはどういう状況だ?」

「また知らないヤツが来やがった……お前ら、ガキのくせにオレ達の兄弟の愛を邪魔する気か」

「兄弟愛ねぇ……そんなに郁弥が大切なら、ちゃんと気遣ってやれよ」

「あ……? 何抜かしてんだお前」

「——郁弥の身体から見え隠れしてる、痣と絆創膏は何だって言ってんだよ」


 戦吾が指摘した“痣と絆創膏”。それは僕が勇気が無くて言い出せなかった事だった。

 これだけ大切にしてるのに、兄は郁弥の身体に大量にある痣と絆創膏には一切触れなかった。それはつまり、それらは兄によるものだと推測できた。


「——あ? オレの愛し方にいちゃもん付ける気かよ」

「おいおい、明らかアウトなのに正当化する気かよ」

「郁弥はオレだけのもんだ……どう扱おうがオレの勝手だろうが。そうだろ、郁弥?」

「うん……これが兄さんの愛し方なら、ボクは受け入れるよ……寧ろもっともっともーっと愛してほしい……!」

「……」


 兄からの狂った愛と、愛を渇望しすぎるあまりどんな愛も受け入れてしまうどころか更に求める郁弥に、どんな相手だろうとバッサリと言い返せる戦吾も、その狂気さに絶句して何も言えなくなってしまっていた。

 言わされている訳でもなく、心の底からの郁弥の本音。幸せそうに笑い、兄からの愛を求める。


「もういいか。オレ達はお前らに時間を使ってる余裕は無いんだよ……行くぞ郁弥」

「うん、兄さん……」


 そう言うと郁弥とその兄は手を繋いで、人混みに紛れて何処かへ行ってしまった。数秒もすれば、二人の背中はどれなのか一切わからなくなった。

 本人が拒んでいるのならあの手を容赦なく引っ張ってこちら側に引き戻せたけど、受け入れているどころか寧ろ更に求めてしまっている。本人を助けたくても、それは本人の意思を曲げる事になる。僕達の意見を押し付ける事になる。

 ——ああ、待って。いかないで。


「……まぁ、本人が幸せならそれで、いいんじゃねーかな……」


 気まずい空気の中、最初に口を開いたのはやはり戦吾だった。


「でもこうしてる間にも、郁弥は新しい傷をつけられてるかもしれないって思うと……」

「側から見りゃ暴力だが、本人達からすればそれは愛の在り方って事なんだろうな」

「で、でもさ……」

「残念ながら、俺達にはどうする事も出来ねーよ。さっき思い知っただろ」

「……」


 戦吾のやるせない言葉に、僕は渋々頷く事しか出来なかった。


 これからって時に、突然現れた人に全てを奪われてしまったかのような気分だった。でもこれはきっと、過去に戦吾も同じ思いをしたのだろう。今回と前では状況が異なるけれど、それでも奪った人に託すという思いは……こんなにも辛いものだったなんて。


「——ごめん、戦吾」

「何で俺に謝る? 一番辛えのはツナだろ」

「……なんとなく」

「まさか茅縁の件と重ねてんじゃねーだろうな」

「……」

「ばかやろー、そん時と今は全然状況が違うじゃねーか。俺が託せたのは、相手がツナだったからだぜ? もし郁弥の兄みてーなヤツが茅縁の相手だったら殴り飛ばしてでも茅縁を引き戻すぜ俺は」

「……そっか」

「安心しろ、ツナは何も悪かねーよ」


 戦吾は強がるように笑って、僕の肩に手をポンと乗せた。その後、僕達は一言も会話をせずに家へ帰っていった。

 家で何かをしている時、お風呂に入っている時、寝る時……“もしかしたら今、郁弥が殴られているのかもしれない”と思うと、居ても立っても居られなくなる。でも何も出来ない。

 そんなやるせなさが、ずっと僕の心を引き摺った。


 ——そして数日後……僕達は茅縁の時と同じく、郁弥と2度と会う事が出来なくなった。

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REVIVE! 〜元カノと瓜二つな君を、僕は好きになれない〜 枝乃チマ @EdaPINAPOP

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