六話 小さな嫉妬
「イルちゃん、このでっかいの何?」
「列車だ。これで移動するんだ」
「ほえー」
間抜けな声を出して車体を見上げている。
当初、宿からは歩きで行こうかと思っていたが、美羅が居てはそれも難しい。故に列車で行くことにした。少々値は張るが。
「どうやって動いてるの?」
そこまでは知らん。専門分野じゃない。
「ふーん」
「ほら、乗るぞ」
「はーい」
万が一、美羅が九尾だとバレては不味い、と本人の希望と私の判断で個室を取った。ここならば、気を抜いて本性が出ても何とでもなる。
仮に何かの拍子に見られても、あれ?幻覚?程度で終わるだろう。
「おぉ〜、ふかふか〜!」
やはり子どもは子どもだな。くだらない事ではしゃいでいる。
(美羅相手だと笑うんだよね……なんか悔しいや)
「どうした、ハイセ」
「なんでもないよ」
何も無くはないだろう、何故そんなに拗ねているんだ?
「美羅にはよく笑うよね……」
「……………………嫉妬か?」
何を驚いている。自覚が無かったのか?
目玉が零れ落ちないか、心配なるほどに見開いている。
「そう、だね」
やや間はあったものの、頷いた。まるで、からくり人形のように。
「だって、君、笑わないから……誰に対しても、何に対しても」
そう……か?確かに笑うことは少ないが、まったく笑わないという事は無いはず。
「不敵な笑みなら見たことあるけどさ」
「不敵?」
「稽古の時とか」
「あぁ……」
それについては完全に無自覚だな。
というか、戦闘中に笑顔を意識する奴はいないんじゃないか?
──シャクシャクシャクシャク。
話に飽きた美羅が林檎を齧り始めた。うさぎにしなくても良いのか?
「別にいいよ。お喋りしてて」
気遣いが出来るんだな。良い子だ。ぽふぽふ頭を叩く。
「ほら……笑った」
大人気ない嫉妬だな……子どもに嫉妬してどうする。それにお前、私よりも年上だろう。
「関係ないと思う……」
窓枠に肘をついて溜息を零した。
そういうもの、なの、か……?分からん。疑問はそのままに、ヨウムが持たせてくれた弁当を食べることにした。
とある生真面目軍人の慕情 瑠璃宮 櫻羅 @rurimiya
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