レジェンド オブ サブミッション

三毛猫みゃー

魔法少女マジカルリリー爆誕

 われの目の前には一人の少女が息を荒げている。

 見た目は15歳くらいだろうか、上が黒で下が白のツートン柄で腰辺りから一本スリットの入ったワンピースのような服装を着ている、チラリとスリット部分から見える中は黒のスパッツのようだ。


 一方我の姿だが白とピンクで彩られたこちらはどこからどう見ても魔法少女と言える服装となっている。ただしそれを着ている我自信が厚い筋肉の外装で覆われたどこかの世紀末覇者のような出で立ちでなければだが。


 先程まで目の前の少女は我に対して打撃技やサブミッションを仕掛けようと奮闘していたが、我の肉体マジカルバリアーを貫き骨どころか外皮にすらダメージを与えることは叶わなかった。


 しばらく待つと息を整えなおした少女が腰を落とし我の脚を刈るために走り出す。既に目からはハイライトが消え絶望に彩られているというのに向かってくる。もうよかろう、ここらで引導を渡してやるのも情けであろう。我は腕を組み天地合一の技にて迎え撃つ。


 我は少女が脚に抱きつこうとするタイミングで飛び上がり、我の脚を掴みそこね倒れた少女の正中線の更に真ん中の背中に片足立ちで降り立つ。それだけで少女の体は頭と四肢以外動けなくなる。


 天地合一の技、これは自らの身体を天と地を繋ぎ合わせる一本の柱に見立てる不動の技である。


「サブミッション帝国四天王の一人ヒメスキーよ、今楽にしてやろう」


 我の口からはこの身に適した野太い声が出る。そして我は両手をつなぎ合わせハートの形を作りながら魔法のコトバを紡ぎ出す。


リリカルリリーが刈る


「や、やめろ」


マジカル本気(マジ)で刈る


「やめてくれ」


イレイス消え失せろ


「私の恨みを」


ハート我が慈悲の心と共に


「消さないで……」


ビームデストロイ


 われが呪文を唱え終えると、ヒメスキーに向けていたハート型に組まれた両手からピンク色の光が飛び出し我が足元でもがいているヒメスキーに当たる。光があたった事によりヒメスキーは「あ”ーーー」と叫びながら光の粒子となり空気に溶けるように消えていった。あとに残るのはどす黒く染まった手のひら大の丸い玉、それが1つ空中に留まっている。


 ヒメスキーは消えたわけでも死んだわけでもない、ただサブミッション帝国に関するすべてを忘れ、今でも眠り続けている本来の肉体へ魂が戻ったのだ。我はその玉を右手で無造作につかむ、その事により我の中にヒメスキーと呼ばれた少女の恨みや無念そしてそうなった経緯が流れ込んできた。


「毎度のことながら胸糞悪いのもだな」


 我はその黒き玉を持つ右手を振り上げ力を溜める、肉体マジカルパワーにより筋肉が膨張する、目標は元来恨みが向かうべき相手、そこに向かい狙いを定め呪文を唱える。


「マジカルスマッシュ」


 そして我は手に持つ黒き玉を全力で目標に向け投擲した。障害物を透過しながら黒き玉は飛んでいく、あの玉は狙い通り対象へと届くだろう。


 そして我は構えを解き残心を取る。


「やったねマジカルリリー、これでサブミッション帝国四天王も残り二人だよ」


「そうか、では戻るとしよう」


 我はいきなり現れた謎生物を掴むと地上からビルの屋上へと飛び上がりセーフハウスへ向かう。


「そんな乱暴に扱わないでよ」


 謎生物が何か言っているが無視だ、そして我はセーフハウスに入り込み変身を解く。我の体が光に包まれ光が収まると我の本来の姿が現れる。その姿とは見た目10歳くらいの薄いピンク色の髪を持つどこからどう見ても小学生くらいの少女だった。


 ピンク色の髪色だがこの世界では違和感はない、青やら赤やら色々な髪色の人物が普通にその辺りを歩いている、むしろ馴染みの深い黒や金に茶色の髪の方が珍しいくらいだ。


 我は手をグーパーグーパーという動きを何度か繰り返して慣れ親しんだ体の感触を確かめる。

 さてこの少女こそ今の我の本来の姿である、名前は百合宮ゆりのみやリリィ、数日前に11歳となったばかりのれっきとした小学5年生だ。


 大きなお友達諸兄はもうお気づきだろう、我は転生者であるそれも赤ん坊として転生した。そして今いる世界が魔法少女プリピュアの世界だと、そして我自信がそのプリピュアの主人公のリリィだという事を知ったのは約半年前である。


 切っ掛けは眼の前にいる謎生物が突然現れ「僕と契約して魔法少女となり悪のサブミッション帝国を倒してよ」とのたまったからである。現れると同時に我の拳は自然と振り抜かれ壁に汚いシミを作ったのは言うまでもない。結局世界の強制力には抗えず我は魔法少女マジカルリリーとなったのだ。



 突然私は目を覚ました、うまく体が動かない、そしてここがどこかもわからない、わかるのは姫須希依ひめすきいと言う自分の名前と15歳という年齢だけだった。真っ白な天井を眺めているとここが病院なのがなんとなくわかった、腕には点滴がされ口には酸素マスクのようなものがされているようだ。


 うまく働かない頭でこういう時はナースコールをしたらいいのかなと思っていると部屋のスライドドアが開く音が聞こえた、そちらに顔を向けると驚いた表情の看護師さんが見えた。そして看護師さんはベッドの横に来るとナースコールを押し話しかけてくる。


「姫須さん、大丈夫ですか」と優しく声をかけてくれた。


 それに答えようとするもうまく声が出せない、開いた口からは酸素マスクが邪魔でうまく声が出せなかった。それに気づいた看護師さんが計器をチェックした後に酸素マスクを取ってくれた。


「あの、私は?」


 自分のものとは思えないほど掠れた声がでた。


「今は何も考えなくていいわ、ゆっくりでいいからね」


 少しするとお医者様と看護師さんが部屋に入ってきて、軽く検診をされた。目覚めたその日はそのまま休むことになり、翌日から少しずつ動かない体のリハビリが始まった、私は半年間寝たきりだったようだ。


 目覚めてから三ヶ月経った、辛いリハビリも終わり体力も回復し普通に歩くことも食事を摂ることも出来るようになった、そんな私も明日退院となっている。


 リハビリが始まりなんとか松葉杖で移動出来るくらいに回復した頃には、自分の今の事情を知ることが出来た。私が眠る原因となった事件の詳細をしった当初は泣くことしか出来ず、どうして目を覚ましてしまったのだろうとか目覚めず死んだほうが良かったと、そんなことばかり考えていた。


 そんな私が立ち直り今のように前向きに至る切っ掛けは、たまたま通りかかったロビーで映されていたテレビのニュースだった。私や両親を含む多くの人が死傷した事件、それを実行した大量殺人の犯人が数ヶ月に渡り謎の奇病による激痛を味わった上に亡くなったとテレビに映し出されたからだった。


 元々凶悪犯として異例の速さで死刑宣告を受けていた犯人、そいつが苦痛のなか死んだ、その情報を詳しくネットで調べた、詳細を知った時私は涙を流しながら狂ったように笑っていた、自分の手で殺したかった相手が死んだ、それも謎の激痛を長い期間味わいながら死んだ。


 その時私の脳裏にはいわおの様な肉体に、ひらひらの付いた魔法少女のような格好をした男の姿を幻視し、私はその男に自然と「ありがとう」と呟いていた。



 我は現在、小学5年生として家で宿題をしながら過去に思いを馳せていた、そうそれは我がこの世界で赤子それも女として生まれる前のことである。


 我は物心がついた幼き頃より闘争の毎日を過ごしていた、日々戦いだった同じくらいの年の子供と戦い、年の上の者と戦い、いつしか大人とも戦い勝利を積み重ねていった。記憶のある限り負けた覚えはなかった。幼子が少年となり、少年が青年となる頃には里どころか周辺地域で最強の名をほしいままにしていた。


 そして我は旅に出る事にした、地方をそして国をまたぎ武者修行の旅だ、行く先々で闘争は続いた、強者を名乗るものと出逢えば戦い、戦争にも幾度も参加した。


 旅の途中では剛の者とも戦った、柔の者とも戦った、闘将を名乗る者とも戦った、そのどれにも勝利を収めそして我の中でも最強と言える闘神と戦った。闘神との戦いは一週間にも及んだ、そして最後に立っていたのは我だった、そして闘神を倒したことにより我は新たな闘神として神となった。


 神となってからも闘争は続いた、同じ様に神を名乗る者と戦い続けた、そして気づけば戦う相手がいなくなっていた。それからは退屈な日々が続いた、たまに我に挑んでく者もいたが我が望む闘争を得ることは出来なかった。


 我は神になったことにより年を経る事はなくなった、100年過ぎた頃にはその世界から別の世界へと闘争を求めるようになった。幾十幾百の世界を渡っただろうか、どの世界にも我を満足させる者はいなかった。そして我は最後に渡った無の世界で眠ることにした、いつか我と真に闘える者が現れるまで……。



 そして気がつけば赤子として、それも女として生まれていた。それが今の我、百合宮ゆりのみやリリィである。


 最初は戸惑った、今まで培った肉体と似ても似つかぬ体に、そしていくら鍛えても筋肉の付かない肉体に、されど培った技術までは消えることはなかった。我は親や周りの者達にナイショで修業を続けた。


 最初の世界では闘争以外の趣味として我がのめり込んだのが漫画やアニメであった。世界を渡るという発想や手段もそれらから得た知識を試したことにより実現できた、さすが人類の生み出した叡智の数々である。


 そして我はこの世界で謎の生物と出会い、それが切っ掛けでこの世界が魔法少プリティピュアの世界だということを知ることになる。なぜそうなったのかはわからない、この世界で死ねば我はどうなるかもわからない、だが元々飽いて眠りについた身である、この世界で朽ちるのも一興だと思い至った。


 それにこの謎生物、名をオマルと言ったか。


「オマルじゃなくてオマールだよ、いい加減覚えてくれないかな」


「我の思考を読むか、まだまだ修行が足りぬと言うことかオマルよ」


「だからオマールだって、それに思考を読むも何も君と僕は契約を結んでいるんだよ、その契約がなければこの僕でも君の思考は覗けないよ」


「そんなものか、それなら仕方ない、それより我とオマルの契約は叶うのであろうな」


「だから……、はぁもうオマルでいいよ。君との契約は今準備を進めているよ、マルチバースを経由して君の元の肉体を呼び出し、さらなる上位の闘争の世界へ行く事だったね。大丈夫、既に君の肉体は見つけた。後は僕との契約を履行してもらうだけだよ」


「なら良い、我が悪のサブミッション帝国とやらを滅ぼしてやろう」


「いや、まって、滅ぼすじゃなくてね、魔法で浄化してほしいだけなんだよ」


「ふむ、そうであったか? まあ良い残りの四天王と女帝を倒せばよいのだろう」


「うん、それが済んだら君の願いは叶えられるよ」


 そうこれこそ我が、魔法少女マジカルリリーとして戦う理由である。


「それにしてもあの姿はどうにかならぬものか、魔法少女に変身まではよい、されどなぜあの姿なのだ?」


「魔法少女と言うのは変身した者の願いや願望により変身後の姿が決まるんだ、君の場合は元来の君の存在が異常すぎてああなってしまったんだ、あれはもう僕にもどうにも出来ないよ」


「ふ、む、元の肉体を取り戻したときの予行練習が出来ると思えば悪いことでもないか」


 オマルと会話をしながら宿題を終わらせる、そして忘れないうちに宿題をランドセルに入れ明日使う教科書とノートも入れる。我はこの勉強というものを好んでいる、最初の世界ではただひたすら闘争の日々で勉学というものをまともにしたことがなかった。他世界の言語理解は神となったときに得た権能でどうにでもなったのだがな。


 そして明日の準備も済んだタイミングで階下より母親の呼ぶ声が聞こえた。


「リリィ、お風呂湧いたからはいちゃって、お風呂上がったらごはんにするからね」


「はーい、お風呂先に入っちゃうねお母さんいつもありがとうね」


 我はこの姿相応に可愛らしい声で返事をし着替えを持ってお風呂へと向かう、この体になってからお風呂というものが好きになった。昔は大体水を浴びるだけだったのだが、赤子の頃沐浴を体験した事によりお風呂というものに魅了された。


 この世界には風呂を超える温泉というものが存在しているようだ、いつの日かそれも堪能したいものだ。そしてきっと他の世界にも温泉というものがあるのだろう元の姿に戻り上位世界では闘争以外に温泉を堪能するのが今から楽しみである。


 お風呂を終え夕飯をいただき、母と父と会話を楽しむ、なんと平和な時間であろうか。闘争のない世界も存外心地良いものなのだと我はこの体になったことにより初めて知ることが出来た。このような平和な世界を脅かすサブミッション帝国は、必ず浄化してみせると我は新たに決意した。



 そして時は進み、四天王のすべてを浄化したマジカルリリーの目の前にはサブミッション帝国女帝であるキルラが立っている。


 女帝キルラは黒一色に染められたドレスを纏っている、一方マジカルリリーの姿も様変わりしていた。


 四天王を倒すことによりマジカルエネルギーが増大しその結果マジカルリリーはエターナルリリーとなった。それによりピンクで彩られていた魔法少女のようだった衣装は純白のドレスに変わりその背からは純白の翼が広がっている。


「貴様が我が帝国を滅ぼすマジカルリリー……いや、エターナルリリーか、なんともおぞましい筋肉の化け物がいたものだな」


「我が願いのため貴様を倒させてもらう、既に言葉で語る時間は終わったかかってくるがいい」


「ああ、そうだな戦いに言葉は不要、我が全力を持って貴様を打ち倒し真なる帝国を蘇らせて見せる」


 エターナルリリーと女帝キルラはそれぞれ構える、相手は最恐のサブミッション使いである、この者ならエターナルリリーの肉体マジカルバリアーを貫き、骨をも折ることが出来るであろう。


「我が技は至高にて我がサブミッションに敵う者なし関節技こそ王者の技よ、さあ我れと貴様の全身にして全霊の肉体言語を持ちて存分に語り合おうぞ!」


「その意気やよし、闘神と呼ばれし我が全力の肉体言語にて答えてやろう」


 マジカルパワーやマジカルバリアなど無粋なものは使われない、技と技、力と力の応酬がここに始まる、最後に立っているのはどちらか神ですら答えの出ない最終決戦がここに始まった。


ED3 永遠なる闘争エターナルバトルEND


おしまい

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