この世界を知る②
姉ちゃんがまだ眠っている、空が暗い時間にアインザックを連れて家を出る
予めリトルエンジェルバードを通して今日向こうに訪問するという連絡はして、近くの公園で会う話はしてある
俺がいない間の姉ちゃんが心配だけど、アインザックの部下をいつもより多めにゲートから出してあるし、他の自然に溶け込む様な従魔たちも三桁近く出してある。
「ヴェントゥス。何かあったら必ず俺に連絡するんだぞ。そして姉ちゃんを命に代えても守れ」
何より俺の最高戦力の一体であるヴェントゥスも庭にいる
いざとなったら俺もアインザックの時空魔法で戻ってくればいい
そう自分に言い聞かせて漸く家を出る。もたもたして姉ちゃんに気づかれてしまったら大変だ
「あ! 優良さーん。ここです!」
まだ少しくらい公園のベンチで、リトルエンジェルバードを肩に、足をぶらぶらとさせている彩仍を見つけて声をかけると、元気よく大きな声で俺たちの方に大きく手を振って来た
「ああ。彩乃。あと今早朝だから、大きい声は近所迷惑だと思うから、もう少し声量を下げた方が良いと思う」
「あ。確かにそうですね。それで、その人って……」
「向こうから連れて来た俺の従者的な存在だ。一応こちらの世界の実力者たちの元に行くんだ、これくらいの警戒はさせてもらう」
「あー、まあそうですねよ。それに私も上司と一緒に来てますし」
そう言って不思議そうにアインザックを見ていた目線を、こんな朝早くの公園の横に不自然に止まっている車の方に目を向ける
俺も目線だけでそっちを見ると呆れたような顔をしている、年上そうな赤い髪をした女性がいた。恐らく彼女が彩仍の上司だろう
なかなか話が進まない様子に痺れを切らしたのか、車を降りてこちらに向かってくる
「茉莉。おしゃべりが長過ぎよ、何のためにこんな朝早くに来てもらったと思ってるんだい」
「あッ! 先輩すみません……」
「君もすまない。茉莉の上司の
「それは構わない。それに俺からしてもこんなところでするような話だとは思わないしな」
むしろ変な話を聞かれて、近所でこんな話をして、俺や姉ちゃんに変な噂でも経ったら嫌だし……
全員で大人しく車に乗り、情報守護の観点から俺とアインザックは目隠しをされたが、アインザックはそもそも視覚にそこまで頼らなくても問題がない種族だから意味なんて無いが
彼らと簡単な雑談をして、大体一時間ぐらいだろうか、車は止まり俺は乙葉が、アインザックは彩仍が手を引いて、建物の中に入っていく
右右左……あ、左だから戻った。ワザと遠回りしているのか?
しばらく彷徨い終わってからどこかしらの部屋に入ったらしいところで目隠しが外された
「ぴゅー」
そこから見えた景色に思わず俺は口笛を吹いた。部屋全体にむき出しのコンピューターが並んでいて、所々でホログラムの様なもの越しに連絡を取り合っている、非常に近未来的だ
「ここは見てもいいのか?」
「ええ。ここは見られたところで、恐らく理解は出来ないと思うからね」
まあ、確かにそうだ。聞き耳を立てて聞こえる範囲の物はこっちに詳しくなく、スパイでもない俺からすれば、何の価値もないものたちだ
「警察って聞いてたが、これじゃあまるでラボだな」
「それもあながち間違ってないわよ。ここは主に水ノ部と風ノ部が使用している場所だからね。実働部隊の光ノ部と火ノ部が主にいるのはこことは全く違う様子なのよ」
へー。こないだの彩仍の話と併せて考えると、風ノ部とやらは恐らく情報収集や解析、記録などをやってるんだろう。それに近いことを水ノ部とやらもやっているという事か? ……まあいい、そのことに関してはこの後説明されるだろう
乙葉たちについて部屋の奥の方にある部屋に入ると、そこには水色の髪に白衣を着て、眼鏡をかけている成人前後だろう男と、そいつと話し合っている高身長に、ふわふわな亜麻色の長い髪に大きな濃い紫色の目をしている女がいた
この女胸デカいな……
思わずD以上はあるであろう開けた服から見える胸に目が行ってしまうのは、まあ俺も男ってことで……
「やあ君がテイマーの異世界帰り君か。初めまして、私は異界警察光ノ部、副部長のシャーロット・カーネリアンだ。多忙な総部長の代わりに私が君の対応をさせてもらうよ」
「
女、カーネリアンの言葉になんかさっきの部屋には姉ちゃん連れてきたら凄いはしゃぎそうだと思ったが、出来るだけ知られたくないと頭を振って考えを飛ばす
「へー。珍しいね、異世界帰りは基本自分の力に慢心して、誇示しようとする人が多いが、君の姉は逆なんだね」
「まあ姉ちゃんは完全に向こうに連れていかれただけの被害者何で」
もし予定通り今の俺の体、つまりゲームのデータを姉ちゃんに渡していて、姉ちゃんがこの力を持っていたとしても、俺のような使い方や誇示するようなことはしないだろうな
「なるほどね、君だけでなく君の姉にも興味が出て来たけど……流石に私だって命は惜しいのでね」
話しの主軸が姉ちゃんに行きかけていたから戻すためも含めて睨みつけると、カーネリアンは降参と言うように両手を上げる
「まあここからは簡単な話だ。君は相当異世界で力を付けて帰って来ているようだから、異界警察に入ってもらう。一応君に拒否権はあるが、その場合君たち姉弟は一生監視下に置かれながらの生活になってしまう。脅しのようになるが、現状私たちにはこれしか方法が無くてね、悪く思わないでくれよ」
「まあそれは良いですけど。戻ってきたは良いけどこっちでの仕事を見つけないといけないって思ってたんで。一応聞きますけど、ちゃんと仕事っていう扱いですよね?」
「それはもちろんさ。異界警察は立派な警察組織の一つだ。実力さえあればかなり稼ぐことができると保証しよう」
まあアインザックの部下たちをバイトとかで働かせることも可能だけど、姉ちゃんにバレたら怒られるだろうし、異界警察にも警戒する必要があるから正規ルートで働く方が良いだろう
「それで、具体的に俺はどんな仕事をすればいいんですか?」
「そうだね。君は見た限り相当実力があると分かる。君は相当な数と契約している優秀なテイマーらしいしから、本来は風ノ部に所属するところだが、実力としては火ノ部でも十分やって行けるだろうし……」
決めかねているように顎に手を当てて考え込んでいるカーネリアンは、隣で何も言わずに聞いていた水色髪の男に目線を向けた
「アジェント、君はどっちの方が良いと思うかい」
「俺に話しを振るな。俺は忙しい部長の代わりに報告をしに来ただけだ。だが……」
眼鏡の奥の細い目で俺をねっとりとしたような視線で見て来る
「彼の実力なら、火ノ部が妥当だろう。だが、火ノ部が必要な場面は四六時中と言う訳じゃない。他の火ノ部と同じように、風ノ部と兼任したらどうだ?」
「そうだね。君がそれで問題ないならそれがいいだろう。どうだい?」
いや、どうっていう前に……
「俺は“ひのぶ”やら“かぜのぶ”やらが何をしている部署か知らない以上決めかねないですよ」
そういうと忘れてたというように全員こっちを見て来て思わずため息をつく
乙葉が部屋の隅に置いてあったホワイトボードを出してきて『風ノ部』『水ノ部』『光ノ部』『火ノ部』と少し間を開けて書いた
「風ノ部は私と茉莉のいる部署だ。言ってしまえば偵察兵で、稀に開く異世界との入口出口、私たちの様な異世界帰りと迷い込んでくる異世界人、迷い人と呼んでいるんだが彼らの発見と保護、無所属の異世界帰りの監視などが主な仕事だ。異世界で斥候をやって居たり、テイマーがつくことが多いな」
「所属している人の数も一番多くて、その分担当区域のパトロールや雑用とかを任されているだけって人も多いんですけどね」
苦笑いを浮かべる彩仍に風ノ部と言うところに書き足した乙葉は顔をそむけたから、間違っていないんだろう
それにカーネリアンは盛大に笑い、乙葉の手からペンを奪いとるとアジェントと呼ばれた水色の髪の男にペンを向けた。それで意味を理解したのかため息をついてそのペンを受け取った男は水ノ部と書かれているところに書き足す
「俺のいる水ノ部は風ノ部が見つけて来た、紛れ込んでくる異世界産の魔法や魔道具等の物を回収や解析、戦闘後の後処理などしている。ここに来るまでのラボやいた人はほぼ水ノ部の人間だ」
なるほど……もし姉ちゃんが所属するならたぶんここだな。むしろ姉ちゃんがいたら無双できるだろう
「異世界では魔法職や錬金術師だったものが多いな。逆に依頼があれば魔道具などを製作することもあるが、どんなものなのかと、使用用途を上と水ノ部の部長に報告する必要がある。一応言っておくと、お前らが異世界から持って帰って来た魔道具などはお前らの所有物と言う扱いだが、一度こちらで全て検査して、登録してもらうことになる」
「それは別にいいですけど、危ないものを持ち込んでいた場合は?」
「常用しているとかでない限りは、本人の許可を取って使用に許可が必要になる封印を施す。本当にマズそうなものはこちらで預からせてもらうが、そこまでの物はほとんどないな。魔王の魔剣とかなら話は別だが」
そんな分かりやすくやべぇもんなんて持ってこねぇよ。たとえ持ってたとしても向こうに置いてくるわ
向こうから持ってきた魔道具を頭に思い浮かべて、特に問題はないだろうと後日リストを作って渡すと伝えた
アイテムボックスを持っていることに驚かれたが、代表的な異世界転生系の力だし、警察が出来るぐらいの異世界からの帰還者がいるほどなんだから一定数いるらしい
そこまで説明したらこれで満足かと言うようにペンをカーネリアンに渡すと、満足そうにそのペンを貰うと光ノ部と書かれているところに書きだす
「私のいる光ノ部は水ノ部と似ていて、風ノ部が見つけて来た、紛れ込んでくる異世界産の魔法や魔道具等の物の中でもやばい物を浄化や、怪我人なんかの治療。それと異世界帰りの社会復帰のサポートや迷い人のこっちで生活のサポートをしてるのが主な仕事だね。仕事の傾向から元聖職者や精霊契約者などがつくことが多いかな。君たち姉弟の手続きとかもこっちが担当するから、後日私の部下を家に向かわせるよ。茉莉から聞いた話からある程度はどうにか出来ているようだけど、親御さんたちへの手続きとも必要なんでね」
「……両親はいません。俺らが異世界に行くよりもだいぶ前に鬼籍に」
「…………それは悪かったね」
「いえ。もう心の整理はできてますし、今は親戚の人のもとに身を寄せてますんで」
……嘘をつくときは、本当のことを混ぜるといい
両親が転移(転生)前に死んだのは本当。心の整理ができているのも本当。親戚のもとに身を寄せているは嘘。親戚ということにしている人たちと俺たちとは、本当は何の関係もない
「……こんど久しぶりに姉ちゃんと元気な姿を見せるつもりだ」
「そうか。それじゃあ私たちはそのあとに伺わせてもらうよ」
光ノ部と書かれているところに書き終えたら、次に火ノ部と書かれているころに続けて書く
「ここは行ってしまえば実働部隊の実力者集団だな。実力さえあれば犯罪以外なら異世界でどんな動きをしていてもここに就くことができる。仕事は犯罪を犯した異世界帰りの捕縛や迷い込んできた異世界人が暴れたときとかの対処をするのが仕事だね。ただその分危険性が高い。まあ異世界帰りや迷い人の母数もそこまでいないから、手が空くことも多くてほかの部と兼任していることが多いな」
つまり火ノ部と風ノ部に推薦されているって頃は、今の段階でも実力を認めてもらっているって判断してもいいんだろうな。まあ当然だが
「なるほど。確かに俺の得意分野から風ノ部と火ノ部の兼任があっているってことか……」
「そういうことだ。もちろん希望があれば他の部に行ってもらってもかまわないが」
「いえ。特に反論はないですね。探索は得意だし、実力者だっていう自信もある」
「ヒュー。かなりの自信家だね、嫌いじゃないけど。あ、あと君が茉莉にテイムした鳥を渡していたことなんだけど……」
カーネリアンに名指しされた瞬間彩乃はビクリと肩を震わせた
「この子が勝手に他人のテイムした動物を此処に連れて来るのは情報の保護のために避けるべきことだったんだけどね。そのせいでこの子怒られちゃって」
「それは……配慮に欠けてすまない」
「い、いえ! 本来は事前に教えてもらっていることなのに、ピーちゃんが可愛くて忘れちゃっていた私が悪いんです!」
だから勝手に名前を付けるな。まあいいけど……
役目が終わったて本来なら回収するべきなんだろうけど、ずいぶんと名残惜しそうにしていたからもうしばらくやることにした
幸い説教だけでよかったらしく、少々申し訳ないとは思ったがそれ以上の話はなかった
「さて、それじゃあ次は君のお姉さんの話だ」
「……姉ちゃんにはあんまりここのことを知られたくないんだが……」
「別に絶対に巻き込むっていうじゃなしではないさ。幸い君がここに入るから彼女がよほどの力を持っていない限りは大丈夫さ」
「……なら、余計姉ちゃんには関係ない話だと思いますよ。姉ちゃんはあの世界のせいで、鑑定以外のことはほとんどできなくなってしまっているんで」
「……ッ。申し訳ないが、詳しく教えてほしい」
「姉ちゃんは、向こうに召喚されたときに特化体質っていう、一つのスキルだけには最初から強い状態になる代わりに、他のスキルは手に入らない。そのせいで一人じゃまともに生きることすらできない、そんな体質にされました」
本当に忌々しいと同時に、俺と姉ちゃんを断ち切ることができなくした枷
「なるほどね。確かに君が過保護になるのも納得だ。でも、それなら水ノ部に最適な能力だと思うけど……そう睨まないでくれよ、君が嫌だというのならこれ以上は言わないから」
本当に頼むから余計なことを吹き込まないでほしい
「だからじいちゃんたちの元から離れたんだ。今は俺がテイムした一見人間になれるやつらと一緒に暮らせばいいから……」
本当は赤の他人と一緒に暮らしたくないだけだけど……
「わかった。その辺のサポートをするのも私たちの仕事だ。手助けが必要な際は遠慮なく私たち光ノ部の者に行ってくれ」
「ああ、その際はお願いします」
「じゃあ優良君の所属は決定として、今日は大まかな見学と行こうか。今日の帰りは遅くなると思うけど大丈夫かい」
「ええ」
姉ちゃんにはアインザックを通して伝えればいいし……あ、でも使い魔との連絡は出来ても姉ちゃんと会話はできないから、今度携帯でも買うか
契約者は……今度挨拶するときに親戚ってことにしてる人に頼むか
そのまま見学させてもらったけど、まさか夜までかかるとは思わなかった……姉ちゃん寝ちゃっただろうな
異世界帰還~暗躍してくれる仲間がいるので、私は寝ます~ @kanamon510
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