家でのんびりしよう①

「ごっはん~♪ごっはん~♪」

 朝起きたらお腹が空いたと着替えてリビングに降りる

「姉君様、おはようございます。肉じゃがのご用意がありますが、朝食はそれでよろしいでしょうか?」

「おはよう。アイルさん。それでお願いします」

 リビングには昨日言っていたように既にマサくんはいなくて、逆にアインさんの部下のアイルさんがいて、お願いしたら五分もせずにホカホカご飯と油揚げとわかめ、豆腐のお味噌汁、肉じゃが、沢庵が並べられる

「いただきます」

 一人でのご飯は少し寂しいけど、アイルさんを誘うのは迷惑になるから一人で箸を動かす

 ほくほくのジャガイモは中までしっかりと汁がしみこんでいて、くたくたに煮込まれている玉ねぎはすごく甘くて、お肉と一緒に食べると本当に美味しかった

「ごちそうさまでした」

「姉君様、本日の予定はどうなさいますか?」

「今日はどこにも行く予定がないから、部屋で昨日マサくんが買ってくれた本を読んでようかなって思ってるから、用事があったら呼ぶし、呼んでね?」

「かしこまりました」

 部屋に戻ってたくさん揃えてある本の表紙を一通り見て、気になった物を手に取って開く

 久しぶりの日本語だらけの本に、少し手間取ったが母国語なのですぐにスルスルと読めるようになった

 集中して物語の世界に沈んでいたら、窓の外からヴェンと知らない犬の鳴き声が聞こえて来て、どうしたんだろうと窓から外を見ると、庭で小さな子犬がヴェンから逃げ回っていた

「ちょっ⁉」

 流石にこれはダメだろうと、慌てて階段を駆け下りて庭に出ると、逃げてた子犬が慌てて私の腕の中に飛び込んできた

 その勢いに後ろに倒れそうになるが、アイルさんが支えてくれて転ぶことは回避する

 お礼を言って腕の中の子犬を撫でながら、唸っているヴェンの頭を撫でて落ち着かせる

「ヴェン。ダメ、この子はただの子犬よ。威嚇しちゃダメ」

「くぅ~ん」

「そんな声出してもダメ。それで、君はどこの子なのかな?」

「失礼します」

 犬の言葉なんて分からないけど、背中を撫でてあげると気持ちよさそうな声をあげている。

 アイルさんがこの子の首輪を確認すると、迷子タグが付いていて住所を確認すると、そこに書かれていたのはすぐ近くだった

「それじゃあ君の家まで一緒に行こうか」

「姉君様。私たちが代わりに行きますので、姉君様はここに」

「この程度大丈夫。それにご近所づき合いは大切だからね」

 あと、完全にこの子アイルさんたちに怯えてるし……

「かしこまりました。では本日は日差しが強くなりそうですので、日傘を用意したしますね」

「ありがとう。あと帰ってきたら涼しい飲み物も飲みたいかな」

「ご帰宅までにはご用意しておきます」

 幸い今日着ている部屋着には外に出るのにも問題がなさそうな白のワンピースを着ていたから、アイルさんが日傘を持って来てくれるのに合わせて家を出て迷子タグに書かれている住所に向かう

 今のうちの家ほどじゃないけど、大きくてかわいいクリーム色の家だった

 ピンポンを鳴らそうとした時、そこから見える庭で草むしりをしている女性がいたから、声をかけることにした

「すみませーん。この子、うちの庭に入って来ちゃってたんですけど……」

「え……あっ! マノン。娘と散歩に行ってたはずなんですけど……すみません!」

「いえ、むしろうちにいる子がこの子を追いかけまわしちゃって、だいぶ怖い思いをさせちゃったみたいで、すみません」

「いえいえ。勝手にお宅の家に入ってしまったんでしたら警戒されてしょうがないですよ。むしろ娘が目を離しちゃったのが原因なんですし……」

 焦ったように子犬、マノンくん? を四十代後半かな? と思う程度の女性に受け取ってもらう。その時、走って来る足音と今にも泣きそうな大きな涙声が聞こえて来た

「おかあさぁ~ん!!! どうしようッ、マノンが、マノンがあぁぁぁぁ!!!!」

「こらッ! 愛優美あゆみ! マノンから目を話しちゃだめでしょッ!」

 栗色のふわふわな髪を揺らしている女の子が、同じ栗色の目に大粒の涙を溜め乍ら走って来ていた

 その子、この家の娘らしい愛優美ちゃんはどうやら散歩中に散歩紐が千切れて、そのまま走って居ちゃって追いかけたけど見失ってしまったらしい

「マノンを見つけてくださって本当にありがとうございます!!」

「いえいえ。偶然でしたし、むしろうちのヴェンが追いかけまわしてしまっていて……」

「そちらのお宅でも犬を飼っているんですか?」

「あ~、うん。まあ犬って言っていいかな?」

 フェンリルって犬って認識の範囲でいいよね? 決して猫系ではないし、狼系って犬で間違いないだろうし……

「犬と言って間違いないでしょう」

「だよね!」

 うんうん。ヴェンは犬。フェンリルは犬系統の種類…………うん!

「そうなんですね。私、動物が大好きで、今度失礼でなければお邪魔してもいいですか?」

「こら、愛優美! いきなり失礼でしょ」

「確かに失礼なこむ「もちろんいいですよ! むしろぜひ来てください。うちの子にもマノン君を追い回したことをお詫びさせたいですし」……姉君様」

 マサくんに相談もなく勝手にヴェンに合わせるって約束させちゃったことは謝るけど、流石にあんなに悲鳴上げなら逃げ回る姿を見ちゃったからには申し訳なくて仕方がないのッ

「いいんですか? あの、失礼では……」

「はい。庭までになってしまうと思いますけど、ペット同士を合わせるぐらいなら」

「やったー!」

 心配そうにこちらの様子を伺う母親と、全く気にした様子なく喜んでいる愛優美ちゃんに家の場所、と言っても其処から見える位置にあったから指をさして教えたらちょっと驚かれてしまった

 そういえばこの辺までは挨拶してなかったんだっけ

 突然来られるのはさすがにマズいと思うから、何時頃に会うかを決めてから家に帰った

 お願いしていた通り冷たい飲み物、冷やしたジュースぐらいかなって思ってたけど、アイルさん以外にも家には8人ぐらいアインさんの部下さんたちがいて、メロンソーダフロートを作っておいてくれた。

 アインさんの部下さんたち、ずっといろいろなこと出来るなって思ってたけど、まさかメロンソーダまで作ってくれるとは……冷たくて美味しー。また今度作ってもーらおう

「ありがとう。美味しかったよ。それじゃあしばらくヴェンと遊んでから部屋に戻るから、マサくんが帰って来るか、来客があったら呼んでね」

「「かしこまりました」」

 庭に降りると、遊んでもらえると察したのか私でも問題ない勢いですり寄って来たからわしゃわしゃと抱き着いて撫でまわす

「私の体力だとあんまり付き合ないかもしれないけど、今日は一緒に遊ぼうか」

「わんッ!」

 うん。嬉しそうに尻尾を振っている姿は完全に犬だね!

 昼食は片手で食べられる物にしてもらって、そのまま私の体力の限りヴェンと遊ぶと夕方あたりでもう疲れてくたくたになったから、今日の夕食は軽めにしてもらって、早めにお風呂に入って寝てしまうことにした

 でも、それまでマサくんは帰って来なかった……どうしたんだろう?

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