異世界学園ものかと思いきや、冒頭の大事件によって、学園どころか国から逃げる羽目になる主人公たちです。しかし、あまり悲壮感はなく、不思議で便利なキッチンカーとともに、さまざまな地を巡り、多くの人々に出会い、強くなりながら目的地へと一歩一歩足を進める物語です。
異世界の大陸の空気を感じながら、まっすぐな性格の主人公たちが旅路の中で少しずつ確実に成長していく様子は、とても心地よい読書体験でした。
出会う大人たちもまた、手助けしすぎることなく、カイルとシャルロットの二人をおおらかに守り育てます。戦いながらの旅にも関わらず、どこか安心して読めたのは、憩いのキッチンカーと頼もしい大人たちの存在があったからでしょうか。
世界観を同一にする作品も発表されているので、まだこの世界の空気を味わえるのが嬉しいです。
――というのが、私にとっての本作でした(ひとこと紹介からの続き)。
呪いのドラゴンロードの襲撃によって崩壊し、貴族狩りが始まった祖国エフタルから、魔術師にしてエフタル貴族レーヴァテイン家の息女たる少女シャルロットと共に旅立った少年カイル。
森を抜け、水辺を後にし、港町を越えて砂漠の帝国――そして迷宮の都市へ。
行く先々で人々との出会い、新しい経験を重ねながら――時に旅の仲間を加え、キッチンカーで各地を渡り歩く少年少女の旅路は、作中世界の広がりを感じさせ、のみならず「旅する楽しさ」を想起させ、私にとって心地よく読み進められる物語でした。
主人公である彼ら彼女らの旅を通して、読み手である私達も見知らぬ世界、見知らぬ土地を旅して、そして知ってゆく。これは「異世界ファンタジー」の醍醐味と言うべきひとつであると私などは思うのですが、いかがでしょうか。
「旅する物語」を好まれる方、どうぞお手に取ってみてください。
余談ながら本作、紹介文にも記載ある通り同作者氏の「灰色の第四王女」と世界観・時系列を共有する作品となっています。
今回レビューを書くにあたって、いくつかの確認のため拾い読みみたいなことをしていたのですが、あるシーンで「ああ、ここはあそこからこう繋がっているのか」と気づいたところがあり、今になって新鮮な驚きを味わえました。
同一の下地を共有する作品なればこそのものですが、こうした読書体験というのもまたよいものですね。