あたしたちは雷
西しまこ
第1話
あたしの指先からパチパチパチと電気がほとばしった。
まずいまずい。うっかり家電を壊さないように気をつけなくちゃ。自分で充電出来るのは便利だけど、ちょっと間違えると、壊しちゃうんだよね。
あたしは記憶を失くした
「サリ」
愛しい声があたしを呼ぶ。
「シュウジ」あたしはシュウジに飛びついた。シュウジ、大好き。
「サリ、どうしたの? また何か壊した?」
「ううん、壊してないよ!」
「そう? まあ、サリが怪我していないなら、いいんだけどね」
シュウジはあたしにキスをする。あたしもキスを返す。
シュウジがあたしを抱きしめる。あたしも力を込める。
「ねえ。どこまで僕についてきてくれる?」
「どこまでも」
シュウジは記憶を失くしたい雷。あたしは記憶を失くして、記憶が戻ってしまった雷。
あたしたちは実験動物だ。
雷ZEROと雷TWO。それがあたしたちの呼び名。ゼロとツゥーなんて、つまらないから、あたしたちはお互いに名前をつけた。シュウジとサリ。
あたしたちは来る日も来る日も実験をさせられていた。つらかった。雷ONEは欠番だ。いつかの実験で死んでしまったから。そしてあたしも、あるとき実験で記憶を失った。そして、雷の力さえ失われたかのように見えた。
あたしはゴミみたいに棄てられそうになった。雷でいることだけが存在意義だったから。
そこをたすけてくれたのが、シュウジだ。彼は雷の力で、施設を大破させ、あたしを連れて逃げてくれた。もしシュウジがいなかったら、あたしは生きてはいなかった。
「サリ、サリ。目を覚まして。お願いだから。……僕のことを思い出して?」
シュウジの涙が頬にいくつもいくつも落ちた。やわらかい唇を唇に感じた。
そのとき、思い出した。
このひとはシュウジ。すぐに泣くから、あたしが守ってあげなくちゃいけないの。
「シュウジ」
あたしは手を伸ばして、シュウジの頬に触れた。
「泣かないで、シュウジ。あたし、思い出したから」
「サリ。死んだかと思ったよ」
シュウジに抱きしめられる。
「シュウジがたすけてくれたの?」
シュウジは答える代わりに力を込めた。
「これからはふたりで生きていこう。組織から逃げて」
「うん。あたしたち、雷だから大丈夫よ」
あたしの雷のピンクの光とシュウジの雷の青い光が合わさって、紫色の雷の光になる。
「僕、ほんとうは雷だってこと、忘れたい」
「忘れたら、あたしが守ってあげるよ」
あたしは笑って言う。
あたしたちは雷。その力ゆえ、追われ、しかしその力で敵を倒す。
あたしはもう二度度記憶を失くさない。生きるために。
了
一話完結です。
星で評価していただけると嬉しいです。
☆これまでのショートショート☆
◎ショートショート(1)
https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000
◎ショートショート(2)
https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330655210643549
あたしたちは雷 西しまこ @nishi-shima
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます