第6話超積極的

「ローズ様!」


 大会は無事幕を閉じた。閉会式が終わる頃には空は茜色に染まっている。

 一人、寮への帰路についていると、後ろから声を掛けられた。

 振り返るとそこにはトロフィーと優勝商品を抱え、背に布に包まれたあの武器を背負ったイリスが駆け寄ってきていた。

 赤い日を浴びてこちらに近づいてくるイリスが綺麗で、少し見とれてしまったのは内緒。

 どきっとしてしまったのがバレないように呼吸を整えてから、華麗に声を掛ける。


「あら、イリス。優勝おめでとう。」

「ありがとうございます。僕の戦う姿、見ていただけましたか?」

「ええ、バッチリ見たわよ。」


 そう言うとイリスは誇らしそうに笑う。きっとこれから、学園中から注目されるのね。強くてかっこいい、聖女の血を継ぐ者として。

 イリスはゲームで見ていた攻略対象達に劣らない、いやルートによっては国を、世界を救う主人公。これからイリスがどう行動するかはわからないけれど、その秘めた力を振るえば良くも悪くも、大きな出来事が起こるのでしょう。

 武術大会で優勝したとなれば、学園外からも注目されるに違いないわ。


「あなたって強いのね、また皆に囲まれちゃいそう。」

「あはは、がっつかれるのは得意じゃないんですけどね……」


 苦笑いをするイリスを見て、なんだか、守ってあげたい、みたいな気持ちが湧いてくる。これは何?母性ならぬ姉性?


「ま、まあ、嫌ならはっきり断るとか、先生に言うとかするのよ?」


 あ、なんだかついおせっかいな事を言ってしまった。でもイリスは、そんな私の思いを知ってか知らずか嬉しそうな笑みを浮かべる。


「もちろんです、そのくらいは自分で対処しますよ。ありがとうございます、ローズ様。」

「そ、そうよね、そのくらいイリスならどうってことないわよね。」


 私がフォローを入れる必要なんてないわよね。と心の中で呟いて、実感していくイリスの特異さに少し寂しさを覚えた。


「それで、あの……ローズ様。」

「な、なぁに?」


 イリスは改まって言う。


「今度の学園祭のパーティー、僕にエスコートさせてくれませんか?」

「えっ……ええ!?」


 今度の学園祭と言えば、何ヶ月も先のイベントじゃない!ゲームじゃ確か、開催一ヶ月前くらいに好感度の高いキャラから誘われるはずよ?ちょっと早すぎるし、しかも主人公自ら誘うなんて……この世界のイリスは随分と積極的なのね……?

 っていやいや、誘う先が私でいいのかしら?


「パーティーはまだ先だし……その、それまでに一緒に出たいという人ができるとは考えなかったの……?」


 そう伝えると、イリスは首を振るった。


「今日ローズ様が応援に来てくださったのを見て、決めたのです。僕は、貴女以外と出るつもりはありません。」


 真剣な顔で言われてしまえば、わけもわからず心がどきどきして、頭が混乱する。

 ……これってつまり、イリスが私を恋愛対象として見ているということ?そうじゃないとわざわざエスコートしたいなんて本人に言うはずがないし、いくら今まで冒険をしてきたイリスといえどパーティーのエスコートをする意味はわかっているはず。

 本気にしていいのかしら?

 頭の中で思考が巡って、何だか自分が告白でもされたかのような錯覚に陥る。


「返事は今じゃなくても大丈夫です。考えておいてください、ローズ様。」


 そう言ってはにかむイリスの笑顔が眩しい。この表情はヒロインじゃない。イリスは、ヒーローなんだ。







 部屋のふかふかのベッドに寝転がると、イリスの言葉が何度も頭をぐるぐる回る。私以外と出ない、そうイリスは言った。

 そんなことってあるのかしら?だって、この世界はあくまでゲームの世界で……乙女ゲームでライバルと主人公が結ばれるなんて事はないはずで……

 ダメね、主人公があんなにゲームと違っているのに、この世界をゲームと同じだと勘違いするなんて。

 イリスが考えて、イリス自身の気持ちで私を誘ってくれたのだから、私もゲームのシナリオじゃなくて、私自身がどうしたいかを考えないと。

 まず断ったら、イリスは攻略対象とパーティーに参加するはずよね?

 とりあえず今回のイメージトレーニングではレオと出ることにしておいて、レオに手を引かれるパーティードレス姿のイリスを…………


『イリス、その服も良く似合っているよ。』

『ありがとうございます、レオ先輩。先輩もとっても綺麗です……』


 BLか?


 イリスのドレス姿が想像できなくて、脳内だとジャケット姿になってしって、ただの銀髪イケメン×金髪イケメンの図が思い浮かんでしまったわ。

 でも別にレオに嫉妬はしないわね。むしろこの光景を見れるものなら見てみたいわ。ネタにするようで悪いけどその、面白いし。


 じゃあ今度は私がエスコートされた時の事を考えましょう。

 イリスが私の手を取って、『僕と踊ってくれませんか?』と微笑んでくる……イリスは身体能力が高いから、ダンスもきっとお手の物で……


『ローズ様、僕に貴女の時間をいただけませんか。』


 と自然に手を取って言うイリスが思い浮かんでくると、なんだか段々恥ずかしくなるわ。

 ……恥ずかしくなるって事は、私、イリスをそういう目で見れるのかしら。

 前世じゃ彼氏なんてできなかったから、自分が体験している恋愛?がなんだか新鮮で……必要以上にドキドキするわ。

 何度も何度もそれで良いのか考えて、何度も深呼吸して、ドキドキするのを繰り返してからようやく、私はイリスの誘いに応える事にした。

 次会ったときには、また今みたいにドキドキしちゃうのかしら。それを思うと少し……気恥ずかしいわね。

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ライバル令嬢に転生しましたが、主人公が思ってたのと違う。 @Iwannacry

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