第8話 私って嫌な女の子?
周りからは、明るくてちょっとエッチ(かなりの間違い)な女の子で、見た目小学生で中身は秘密のロリっ娘キャラだと思われているが、本当は計算高い女の子なのかもしれない。
詩は、沙霧と友達になってから友達らしい事なんて、何一つしていない。
会話すら殆ど出来ていない状況で、挨拶程度で毎日終わっている。
それに対して罪悪感は多少はあるが、罪悪感以上に柚葉先輩とお近付きになれるのではと言う期待の方が遥かに大きいのだ。
中等部に入学してすぐに、柚葉先輩を知ってお近づきになりたいと思った。でも、先輩の周りにはいつも取り巻きの様な同級生がいて、後輩の私が先輩に近付くタイミングなんて、微塵もなかった。
何とかして先輩とお近付きになれないものかと、必死にない頭をフル回転させて考えたが、いい方法なんて何一つ思いつかなくて、結局柚葉先輩は中等部を卒業して、高等部に進学してしまった。
一年遅れで、高等部に入学したが、相変わらず先輩の側には、常に取り巻きがいて近付く事すら叶わない。
このままでは、先輩とお近付きになるどころか一言も会話しないままに、先輩は高等部を卒業してしまう。
そんなのは絶対に嫌だと、私の心が叫ぶがどうしようもなくて、先輩を諦めようと思ったその時にクラスメートから、沙霧の事を聞いた。
柚葉先輩の妹だと言う事を、私は沙霧の様子を毎日観察した。いつも俯いて、一人でいる女の子。根暗で、気弱で誰とも会話すらしない。
正直かなり難解なクエストだと思った。いつもやっているエロゲーなら、どんな難解なクエストでもいつも簡単に攻略出来るのに、沙霧と言う根暗少女とお友達になると言うクエストは、人生で一番と言っていい程に難解なクエストだった。
如月沙霧の存在を知ってから、何とか彼女と話してお友達にならなくてはと、そんなの超簡単なんですけどと、高を括っていたのだが、これって正直言って無理ゲーじゃないですか?
だって、彼女は他人を寄せ付けないオーラをめっちゃめっちゃ放っている。
こんなの私じゃなくても近づきたいとは、全く思わなくて当たり前だと、沙霧には申し訳ないが詩は絶対に無理でしょと、半ば諦めていた。
誰とでも仲良くなれて、友達になれて、周りから愛される女の子ですら、如月沙霧と言う女の子を攻略する事は非常に難しくて、それはいつも下から数えた方が早い位の成績である詩が、学年で一番になる事以上に、全国模試でトップクラスの成績を収めるのと同じ位に、非常に困難なクエストだと、今更ながらに詩は気付いて、これなら駄目元で直接柚葉先輩に、お友達になってくださいとお願いしに行った方が、何万倍も楽だったと後悔先に立たず状態である。
もう沙霧とお友達になるのは諦めて、柚葉先輩が一人になるタイミングで、先輩にアタックしようかなと考えながら、商店街を歩いていた。
最後は本屋さんで、百合本の新刊ないかな? と本屋に立ち寄った事が、正直功を奏したと詩はこの時程、自分で自分を褒めたいと思った事はない。
視線を感じて振り向くと、本棚の陰から何故か如月沙霧が、こちらをストーカーばりに覗き見しているではないか、これは千載一遇のチャンスとばかりに、詩は沙霧の方に行くと、彼女に声を掛けた。
やったーーーー! これで柚葉先輩に近づく可能性がグッと高まったと、沙霧と別れた後にガッツポーズを思い切りして、周りから白い目で見られてしまったが、今の詩にはそんな事は関係なかった。
ただ柚葉とお近付きになれるチャンスが、今までの何倍も、何十倍も、いや下手したら何百倍も高まった事の方が、詩には嬉しかったので、夕暮れの商店街を鼻歌を歌いながら、自宅へと帰宅する詩がいた。
そんな詩の心を、当然沙霧は知る事もなく詩とお友達になれた事が嬉しくて、柚葉との約束を守れた事が嬉しくて、詩が自分を利用しようとしていたなんて、全く気付かなかった。
折角沙霧と言う柚葉に一番近い女の子と、柚葉の妹とお友達になったと言うのに、この体たらくはなんだと、詩は自分に対して激しい怒りを覚えながらも、先ずは妹の沙霧から攻略しなくてはと、珍しくノートを広げて、沙霧攻略大作戦を熟考し始めたのだが、所詮は詩の頭脳である。
エロゲーならまだしも、今まで自分で努力しなくくても、周りから人が寄ってきて、いつの間にかお友達になってを繰り返していたから、自然と詩の周りには、沢山のお友達がいた。
そんな何の苦労もせずに、お友達が出来る体質の詩には、自分からお友達を作ると言う事が苦手になっていた事に、詩自身気付いていなかったのだ。
沙霧攻略大作戦と書かれたノートには、何も書かれてはいない。考え始めてから、もう数日経っていると言うのに、白紙のノートを見て大きな溜息を吐きながらも、諦める訳にはいかない。
憧れの柚葉先輩とお近付きになって、出来るなら恋仲なんてなれたら、もう夢見心地で柚葉先輩になら、全てを見せられる。
全てを捧げてもいい。ファーストキスだって、それ以上だって、きっと捧げられる。
捧げられるよね?
私の柚葉先輩への気持ちは、恋心なんだろうか? それともただの憧れなんだろうか?
憧れで唇も身体も捧げられるのだろうか? 中には興味があると言う理由で、キスだって処女だって捨てられる女の子がいる事も知ってるし、その人の考えだから否定する気もない。
私自身、ファーストキスにも処女を失う事にも恐れはない。夢見る女の子なら、ロマンティックな雰囲気で、ファーストキスとか初めてとか考えるのかもしれないが、残念な事にエロゲーが大好きな私には、そんな感情は微塵も無くなってしまったと言うか、元々なかったのかもしれない。
そんな事を考えている場合ではなかったと、今は柚葉先輩より沙霧の事だ。
彼女とはお友達になったのだから、先ずは毎日会話をする事から始めたい。
会話をするなんて、友達だから当たり前だし気を使う事でもない筈なのに、どうして沙霧が相手となるとまともに話せないのか? 私ってこんなにも臆病だったのかな?
私は、沙霧を利用しているのに、そんな私はきっと嫌な女の子だ。
もし沙霧に沙霧を利用していたのだと、柚葉先輩とお近付きになりたいが為に、貴女とお友達になりましたとバレたら、きっと彼女はとても悲しむだろう。
沙霧の悲しむ顔は出来れば見たくない。
自分でもわからないけど、偶に沙霧が柚葉先輩に見えてしまうから、沙霧が悲しむ顔は柚葉先輩の悲しむ顔。沙霧の泣き顔は柚葉先輩の泣き顔に映ってしまうから、だからなのか詩は沙霧を悲しませない為には、上手く沙霧とも友達でいないといけない。
考えれば考える程に頭が痛くなって、考えるのが苦痛になって、もうなる様になればいいと詩は考える事をやめてしまった。
そんな私って、やっぱり嫌な女の子ですか?
私は、どうしたらいいですか?
友達は沢山いる筈なのに、こう言う時に相談出来る友達って、考えてみたら一人も居ない。
そりゃそうだよね。だって、こんなに悩んだ事ないし、誰かに相談する程悩んだ事なんて、一度もなかったのだから、私って自分が思っている以上に能天気な女の子だったんだと、本気で悩んで初めて気づいたのだった。
君になりたい 椿 セシル @tsubakikanon
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