第7話 お友達にはなったけれど

詩ちゃんとお友達になったあの日から、お姉ちゃんは今まで通りに接してくれる様になった。

 本当に良かったのだけど、お姉ちゃんの情報網の凄さには、本当に驚かされてしまう。

 詩ちゃんと話して、家に帰るとお姉ちゃんから、やれば出来るじゃないと褒められてしまった。どうしてもう詩ちゃんと話せた事を知ってるの?

 そんな私の疑問には答えずに、これで姉妹でいられるわねと、嬉しそうな笑顔を見せてくれたのは、本当に嬉しいのだが、この時の私はお姉ちゃんの瞳の奥に隠された真意には気付く事が出来なかった。


浅川詩。一体どんな女の子なのかしら? 

 ちょっと興味が湧いてきたわねと、柚葉は怪しい笑みを浮かべながら、あの娘私のモデルにしたいわねと、浅川詩に興味を持ち始めていた。

 モデルにしたいもあるが、沙霧と詩が恋仲になる事は、どうしても許せないのだ。

 そうならない為にも、沙霧とは友達止まりで終わらせる必要がある。自分に興味を持たせなければいけない。

 さて先ずは接触しなくてはいけないわね。明日にでもと考えて、さすがにそれは早計ねと、少し位は沙霧に詩との時間を味わわせてあげたい。

 しかし、あの沙霧が友達を作るなんて嬉しいけれど、少し寂しい気持ちにもなってしまう。

 今日は久しぶりにいい絵が描けそうねと、沙霧に久しぶりにモデルをやりなさいと、そのまま部屋に連れて行く。


部屋に入るなり、制服のリボンに手を掛けて制服を脱ごうとする沙霧に、今日はそのままでいいのよと、今日は制服の沙霧を描きたいのと言われて、今日はヌードじゃないの? と沙霧は驚きの表情で柚葉を見る。

「沙霧の裸はお風呂で堪能させてもらうわ」

「お風呂って、一緒に入るの? 」

「あら、お姉ちゃんとは嫌かしら? それとも恥ずかしい? いつもヌードを披露してくれているのに」

 恥ずかしいと言えば恥ずかしい。ヌードモデルだって、毎回顔から火が出る程に恥ずかしいのだが、感情が顔に全く出ないので、きっとお姉ちゃんは気付いていないだろう。

「は、入ります。一緒に入りたいです」

 本当に素直で可愛いわねと、スケッチブックを出すと、制服姿の沙霧を描き始める。

 スケッチブックを置くと、そろそろお風呂に入りましょうかと、着替えの用意を始めるので、沙霧も一旦部屋に戻ると制服を脱いで、部屋着に着替えながら、今日のお姉ちゃん優しいと嬉しくて、つい微笑んでしまう。

 周りからは死の微笑みと言われてしまうので、人前では絶対に見せないのだが、部屋では漫画を読んだり、ゲームをしながら微笑む事は沙霧にだってあった。

 沙霧だって、雰囲気は暗いが普通の女の子。笑う事もあれば泣く事もあるのだ。ただ人前で感情を出さないと言うか、出せないだけで、色々な事に興味のある普通の女の子なのだ。

 その事を知っているのは、姉の柚葉だけで両親すら、沙霧がそんな女の子だとは気付いてはいなかった。


やっぱりお姉ちゃんって、凄く綺麗。自分なんかと違ってスタイルもいいし、お肌も本当に綺麗と実の姉につい見惚れてしまう。

「沙霧ちゃん、そんなに見つめてお姉ちゃんに触りたいのかしら? 」

「そ、それは……」

 触れてみたいとは正直思う。きっとスベスベで気持ちいいんだろうなと、そんな事を考えてしまうが、それを口に出す事は出来ない。

「触っていいのよ」

 えっ? と驚いている沙霧の手を自分の胸に持っていく柚葉に、沙霧は身体が硬直してしまった様に全く動けない。

「柔らかいでしょ? 触りたい時は言っていいのよ。沙霧ちゃんになら触らせてあげるから」

 言えば触らせてくれるの? 本当に? 一体何が起きているの? これは夢ですか?

 これも柚葉の作戦の一つである。沙霧が詩と友達以上の関係にならない様に、沙霧の心をしっかりと自分に向けておく為の作戦。

「お姉ちゃんも触っていいかしら? 」

 それは、さすがにと思ったが、自分は今お姉ちゃんのおっぱいに触れている。それなのに、自分のを触るのは駄目とは言えない。

「う、うん。いいよ」

 なら遠慮なくと柚葉は、沙霧の胸に触れる。

 何て柔らかくて気持ちいいのかしらと、柚葉は満面の笑みを浮かべながら、今日はこの辺にしとかないとねと、時間はいくらでもあるのだからと、沙霧ちゃんありがとうと、今日は一緒に寝ましょうと言うと湯船に浸かるので、沙霧もそのまま一緒に湯船に浸かると、勢いよく湯船からお湯が溢れた。


学校ではきっと会話はしてくれないだろうと、沙霧は教室に入ると、いつも通りに自分の席に向う途中に「沙霧おはよう」と詩に声を掛けられて、驚きから一瞬足が止まってしまう。

「お、おおおおはようございます」

 蚊の鳴くような声で返事すると、詩は嬉しそうに微笑んでくれた。

 ああ何て可愛いの詩ちゃんと、沙霧は真っ赤になりながらも、自分の席に着く。

「エロ娘、なんであんなのに挨拶してるの? 」

 詩の周りにいた生徒は驚きを隠せない様で、一様に死神と話して、気でもふれた? などと囁きあっている。

 そんな会話を聞いて、やっぱりそうだよねと、こんな私に挨拶するなんてと、予想通りの事が起きて、もしかしたら詩ちゃんも、自分みたいになるのではと心配していると、詩はあっさりとお友達だからと、お友達に挨拶するなんて普通でしょとあっさりと答えてから、再びゲームの話しをしだしたので、周りの生徒も何も言えずにいつも通りに詩の話しを聞きながら、だからそんな陵辱系のエロゲーなんて普通やらないからと、女子高生でやってるのあんたくらいよと笑い合っていた。

 そんな姿を見ながら、私ならゲームの話だって出来るのにと、詩とお友達になりたくて、恥ずかしいのを我慢して、未だにエロゲーを購入してプレイしているのだから、ある程度なら会話についていけるのにと、お友達になっただけで、それ以上前に踏み出せない自分が嫌になってしまう。

 嫌にもなるが、これが私だしお友達になれただけで十分だと、学校ではこれでいいのだと、放課後に家に帰ってから、詩にメールすればいいのだと、これは二人だけの秘密の会話なのだと、そう考えて鞄から本を出すと読み始めた。


そんな沙霧の様子を廊下から見ていた柚葉は、何をやってるのかと、少しイライラしていたが、下手に詩との仲が深まってしまっては困るので、これはこれでいいのかと、それよりも許せないのは沙霧のクラスメートである。

 何故沙霧を避けるのか、私の妹だとわかっているのなら、上辺でもいいから話し掛けたりしなさいよと、怒りが沸々とお腹の底から溢れ出して来て、柚葉は、他の生徒がいるのに、危うく思い切り壁を殴りそうになって、すんでで止めるとこれは沙霧の問題であって、下手にしゃしゃりでる問題じゃないわねと、下手に自分が出ても、問題は解決はしないのは目に見えている。

 柚葉の言う事なら、この学校の生徒なら間違いなく聞くだろう。しかしそれでは沙霧の為にはならない。

 沙霧は可愛い妹だが、このままでは沙霧の為にはならない。世の中に出れば嫌な事などいくらでもある。

 関わりたくない人間とも関わらない訳にはいかない。関わりたくないからと、関わらないでいれば今と同じで一人になる。

 学生なら、親が養ってくれるが大人になって社会人になれば、そう言う訳には行かないのが普通である。

 今のままでは、沙霧は社会に適合出来なくて、家に引き籠るか、最悪は自らと言う事だってあり得てしまう。

 そんな最悪な事にはなって欲しくないし、させたくもない。

 詩の時と同じ手を使ってもいいが、多分と言うか間違いなく失敗に終わる。詩一人ですら、失敗ギリギリで何とか成功したと言うのに、クラス全員と話せる様になりなさいなんて、間違いなく卒業しても不可能な案件である。

 取り敢えずは、沙霧が学校でも詩と話せる様になれば、それでいいでしょと、柚葉は自分の教室へと戻って行った。


詩とお友達にはなれたけど、学校では挨拶以外の会話は出来ていない。挨拶を会話と呼ぶのならで、呼ばないのであれば、会話すら成立していない状況で、ならメールとも考えたのだが、中々メールを送れずにいる。

 メールで何を話せばいいのか、全く思いつかないのだ。

 このままでは、上辺だけのお友達である。そんなのは嫌だ! と心が強く叫んでいるのに、叫んでいるのに、身体は動いてはくれない。

 沙霧は、ぬいぐるみを抱きしめながら、どうしたらいいんだろう? 

 私の高校生活は、結局はこんな感じで終わるのかな?

 そんな事を考えながら、ただぬいぐるみを抱きしめて、窓の外を暮れ行く風景をただぼんやりと眺めていた。

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