記憶を失くした雷 2

帆尊歩

第1話 アナログ


「会議資料、出来たか?」

「なんとなく」

「なんとなく?まあいいや、見せてみろ」

「はい」

「前回と一緒じゃないか」

「いや、主任、数字は違いますから。会議が出来ればいいんでしょ」

「違うよ。ハードディスクから呼び出して数字変えただけだろ」

「でも前はこういうのはAIと言うのが全部やっていたんですよね。一緒でしょう」

「嫌、だからあの五年前の「神の雷」から世界は変わったんだ。AIはもちろんネットもなくなった。俺等はそういう世界で生きていくんだ。文章能力だって上げていかなきゃいけない」

「ああ、聞きますよね、今の子供たちは作文も書けないし、読書感想文も書けないんですよね」

「いや、お前だってそうだろう。まあ俺も人のことは言えないけれどな」


「アッお前等。手、開いているか」

「開いていませんよ。今会議資料の準備していたんですから。なあ」

「はい、課長こそ慌てふためいてどうしたんですか」

「議案三号のプレゼン動画が違っているんだよ。あと挿絵、おまえら手分けして確認してくれないか」

「今からですか。もう始まりますよ。ねえ主任」

「お前は、どうして焦っている課長の神経を逆なでするようなことを言うんだ」

「だって」

「課長承知しました。じゃあ私は動画のチェックをします。お前グラフと挿絵頼む」

「昔はこういう動画も挿絵もAIがしていたんですよね。今どうしているんですか?」

「外注のイラストテレーターに頼んでる」

「プロなのにこのクオリティーですか」

「しょうがないんだよ、こいつらも描いたことないんだから」

「ああ、そっちもAIだったんですね」

「お前は、口動かさず、手動かせ。課長が焦っているだろ」

「はーい」

「全く五年前の「神の雷」のせいで、こんなことになるとはな」

「ああ課長、今、俺等もその話をしていたんです。ね主任、具体的に何が違っていたんですか」

「全てだよ。たとえはばこういうプレゼン資料も全部AIが作っていた。グラフから写真から何から何まで、で承認するのもAIだ」

「じゃあ、俺等、何していたんですか。みんなAIがやっていたんなら。いや、課長に主任。顔見合わさないでくださいよ」

「ああ、悪い、会議まで時間ないぞ。まあいいや、今日の会議はこの資料でいい」


「ああ、君たちちょうどよかった。新製品のアンケート、全国の支社に出しておいてくれ」

「はい承知しました。主任、二人でやっておいて、来週くらいまでに」

「はい課長」

「いや、いや。ちょと待てよ課長。何、来週て。明後日の取締役会に提出するんだから。今すくだよ」

「部長。これから会議ですよ」

「課長、僕は急いでいるんだよ。会議まで三十分あるだろう」

「いえ、部長。「神の雷」以来、AIないんですよ。アンケート用紙を作成して、全国の支店にファックスで送って、集計するんですよ」

「ああ、そうか。と言いたいところだが。専務に約束したから、何とかしろ」

「ええー」


「主任、AIがあったときは出来たんですか?」

「それはお前。そもそもAIを使えば問題点の掘り出しもしてくれたから。アンケートなんかしなくても、それこそ今日の会議の前までに出せるんだよ」

「ああ」

「お前アンケート作れるか?」

「ひな形がハードディスクにあれば」

「いや、新製品だからないだろうな」

「じゃあ無理です」

「いや言い切るなよ」

「だって。作文も、読書感想文も書いたことないですよ」

「誰かいないのか」

「そこうるさいぞ」

「部長のご指摘どおり、うるさいぞ」

「なんで課長まで部長に追随するんですか」

「当然だろう。課長たる者、部長に忖度しなくてどうする」

「あっ、開きなおった」

「しいー。お前は上司たちの立場を考えろ」

「めんどくさいな、もう。あっ部長、AIが導入される前から、いる社員て誰かいませんか」

「はあ。ああ、そういうことか。そうだなー、あっ、窓際の戸山さんがいるぞ」

「部長、ありがとうございます。主任行きましょう」

「俺を巻き込むなよ」



「戸山さん。お願いが」

「なに?」

「新製品のアンケート用紙の作成と送付と集計お願いできませんか」

「なんで」

「みんなAIに頼りきっていたので。文章が書けないんです」

「全く今の若い者は。僕の若い頃は・・・」

「あっその話は、また」

「部長は、僕の後輩でね。僕が手とり足とり仕事を教えたんだよ・・・」

「いえ本当にその話はまた。今度こいつにこんこんと話してやってください」

「アッ主任、人を生け贄みたいに」

「生け贄?」

「アッいえ。ごめんなさい主任も謝って」

「いや、おまえだろ」

「仕方がないな。全く今の若い者はAIなんかに頼るから・・・」

「本当にその話は今度聞くので。お願いしますー」

「主任、AIの記憶喪失って、こんなことになるんですね」

「おまえは、ほんと他人事だな。ITがなくなった今、そんなんじゃ生きてゆけないぞ」

「はーい、頑張りまーす」

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記憶を失くした雷 2 帆尊歩 @hosonayumu

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