第12話 異種族初恋談

 両隣が一瞬固まったように感じた。

 「えええ?初恋……?やだあ、そんな大昔ぃ」

 って喜んで話そうとしている葵くん。あ、君はこういう話はタブーじゃないんだね。そうか、本橋さんたちは従兄弟だもの。知っているかもね。

 「……俺は小3だったかな。担任教師だったから」

 「えっ」三人の声と視線が一斉に本橋さんに注がれる。

 「和兄、初耳よアタシ!詳しく詳しく!」

  葵くんが身を乗り出して来た。ちょっ、と近いんですが!

 「掘り下げるほどの話じゃ……葵くんはどうなの。俺は基くんかと踏んでたんだけど」

 「やめてください」

 「ちょっと、やめてよ!」

 基くんにも聞こえていたらしい。同時にこんなのはシュミじゃない、とハモる。息ピッタリだ。

 真奈美さんがバナナジュースを吹き出しそうになり、かろうじて止めることが出来た。

 「うんうん、そんな話あったよね!杉崎の方で二人が一緒にカミングアウトした時にさ、皆が二人がデキてるもんだと誤解してから納得したって聞いたもん。オヤジが話してた!」

 オヤジって……。

 「真奈美ちゃん、和三かずみおじさんのことをオヤジって……」

 「そうよまなみん。仮にも女子高生がオヤジなんて……思い当たるだけにダメよ?」

 思い当たる?葵くん、意味深だな……。

 「だってウチの父親ってさ、『タヌキ親父』なんだもん。ねえ、それよりさ、葵くんはいつだったの?」

 「ええ、だからアタシはぁ……んふ」

 上を向いて考えている葵くんは可愛いな、とつい見つめてしまった。横に立っている基くんが微笑んでいるけど僕のことではないと思いたい……。

 「あのねえ、彼はとっても渋くってぇ、格好良くってぇ、スポーツマンでぇ、背が高くってぇ……普段はおとなしいくせに試合が始まるとね……別人疑惑が芽生えてしまうほどギラギラってなってねえ……」

 「うっわ目がハートマーク!てか、何歳だったの?彼って……やっぱ男か……」

 葵くんの好みって、そんなに格好良い人なのか、と少なからず衝撃を受けた僕。真奈美さんは何を聞きだしたいのだろう。

 「何歳?確か小5か6くらいだったと思うけど。ねえねえ、センセは?いくつの時だったの?どんなかただったの?」

 ギク、とする僕。そうだよね……この流れからすると、基くんも僕も白状しないとならないかな……。

 僕は諦めた。ここではさらけ出してもいいかな、と感じる。うん、いいや。

 「僕は……ゲイだと自覚したのが遅くて。高校生になってからでした」

 「じゃあ初恋は高校時代ですか?」

 基くんが口を挟む。

 「ねね、どんなかた?」

 「同級生とか?」

 両隣から質問されてしまった。え、それも答えなくちゃいけないかな……そうしたら、ターゲットが自ずとこの中では葵くんみたいな人に絞られてしまうよ。ゲイの中にも異種族のように好みが分かれるものなあ……。濁さなくては。

 「えーと、その、初恋と呼ぶべきか否かちょっとばかり疑問が残りますが、大学生になってからでした。とても優しく僕の話を良く聞いてくれたり、相談に乗ってくれたり……とにかく包み込んでくれるような……暖かな人で……し……」

 ハッ、と気付いたら、僕の顔が火照って真っ赤になっていて……皆さんがニマニマと笑っていた。何、何かおかしいこと、言った?

 「センセ、可愛いわぁ。とても素敵なかたでしたのね?幸せそうなお顔でしたよぅ」

 それは……客商売の玄人プロだったから当然な訳だけど、僕は救われたのです。当時はのぼせ上がって舞い上がって幸せの絶頂期ってこんなに感じ?とふわふわしていて……今思えば、人生の絶頂期があの時期かというのって……なんだか虚しいな。

 「幸せ……だったんです。当時はね」

 「当時は、ですか……」

 基くんが何かを察したように繰り返す。この人は口数が少ない。でも、ちゃんと人の話に耳を傾けて、要所要所で応えてくれる。葵くんとは正反対だから、バランスが取れていて余計に居心地が良いのかな。うん、良いコンビだよね。羨ましい。

 「基くんは?本橋こっちの方には初恋談とかは流れて来なかったよね、真奈美ちゃん?」

 本橋さんが愉しそうに問う。彼女はうーん、なんか大失恋したとかしないとかは聞こえて来たかな、と呟いた。

 ヤケに静まり返っているな、と今更ながら気付く僕。チラ、と後ろを盗み見ると……失恋慰め会の3人が、背後に立っていたのだ!

 「!」振り向かずに視線を前に戻したけれど、その前に3人のうちのひとりと目が合ってしまった。

 「あ、どぞどぞ、先を続けて下さい。僕らは居ないものと思って?」

 そんな無茶な。 本橋さんは黙ってしまった。

 彼らは基くんに皿やプレートを返すと、ロックで焼酎を頼んだ。

 片や葵くんは、何かを言いたくてうずうずとしているのが丸わかりだ。

 基くんがそこを見逃すハズはない。

 「余計な話をしたら向こう1年間はお前の給料は無いと思えよ、いいな、宣言したからな」

 と、厨房?キッチン?に入って行った。

  「やあねぇ~ヒトをお喋り雀みたいに~!チッ」

 最後の舌打ちで本気度が知れるというもの。皆が笑い合った。

 「うーん、やっぱ小学生から大学生までと初恋って次期は人によるんだね。ありがとです。なんでを聞いたかというとね、自分はまだ初恋って知らないからなんですよ」

 真奈美さんが真剣な表情で言い放つ.

 ……あれ、皆さんのリアクションが何もない。

 ……皆さん、知っていたのか?

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時が経てば 永盛愛美 @manami27100594

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