美しい絵
あの日から私は週末になると美術館へ通っている。
今日もいつものように懐中時計をもらい、歩いていこうとしたらおじいさんが、
「この美術館にだいぶん慣れてきたんじゃな
いかい?
見ているだけというのも飽きてくるだ
ろう。
絵を手にとって、
と言ってくれたのだ。
「いいんですか?
ありがとうございます!」
そう言って気になっていた絵へと走っていきソッと壁からはずす。
本当に美しい。
優しく絵に
感じた。
一度絵から手を離し、もう一度
すると、手が絵の中に入っていく。
私は驚いて壁へと戻した。
『もしかして…絵の中に入れるの?』
こわばった顔で
気がつくとそこは、一面のお花畑でパステルカラーの優しい色が広がっていた。
空も周りの木々も優しく私を包んでくれてい るようなそんな温かみを感じる。
しばらく散歩して絵の中を
時計の鳴る音が聞こえてきたので私は薄っすら見えている現実世界への出口に向かっていき外に出た。
本当になんて素敵な美術館なんだろう。
絵に
絵に入れることが分かってから宇宙であったりちょっと不思議な国であったり、色んな世界を旅して周った。
『さて、今日はどの絵にしようかな』
悩んでいると この美術館には珍しい昔ながらの商店街が描かれている絵を見つけた。
『こんな絵、飾ってあったけ?』
不思議に思いながらもなぜだか分からないがひどく
私はその絵の中へ入っていった。
買い物バッグを手に親子や主婦達が品物を見たりお店の人と話したりしている様子を見ながらしばらく歩いた。
すると見覚えのある店が目に飛び込んできた。
「あれは…
小学生の頃に通ってた駄菓子屋だ!」
走っていって中を
「おばあちゃん!」
私は思わず声をかけた。
すると、おばあちゃんはゆっくり顔を向けて
ニッコリと笑いながら
「あらあら。
久し振りねぇ。
まあ、大きくなって」
覚えていてくれたことが嬉しくてしばらく
おばあちゃんと昔の話をした。
「他のお店にも行って顔を出してごらん。
みんなビックリするよ。
こんな立派になった姿見たら」
「うん!そうする」
私は子供の頃に母と一緒に買い物に行っていたお店を次々とまわった。
魚屋のおじちゃん、八百屋の夫婦、
今はない子供時代の商店街が懐かしくてたまらない。
話はつきることがなかった。
すると、かすかに時計の鳴る音が聞こえてきたのだ。
私は慌てて出口へと向かう。
でも、走っても走っても出口は見えない。
どうやら自分でも気づかないうちに遠くまで来てしまったようだ。
『あった!』
向こう側に受付に座るおじいさんの姿が
見えた。
いつものように外の世界へ飛び込んだ。
だが…はね返されてしまった。
慌てて出口を触ってみると向こう側へ行くことはできず、半透明な壁が立ちふさがっている。
私はおじいさんへ向かって叫ぶ。
「おじいさん!おじいさん!」
でも、その声は届かない。
何度も何度も壁を叩きながら叫ぶが、おじいさんには聞こえていないようだった。
ふと、足元に落ちている懐中時計を見ると
一時間を過ぎてしまっている。
『この美術館の規則は、一時間
戻ってくること』
頭の中にその言葉が響いた。
『一時間を過ぎたら絵の世界から出られないってことだったの?
どうしよう…』
途方に暮れて後ろを振り返るが、さっきまで
カタン。
何かが落ちる音が美術館に響く。
受付のおじいさんは椅子から腰を上げ、
音のした方へと向かっていった。
商店街が
一枚の絵と懐中時計だ。
その絵は、背景が紫色のグラデーションになっていて金色の蝶が金の
おじいさんは、両手で優しく絵を拾いその
美しい絵画を草原の部屋へと飾った。
落ちていた懐中時計を片手に受付へ戻って
いく。
椅子に座り何事もなかったかのように時計を元の位置に戻した。
よく見ると受付の奥の方にいつのものな
のか黄ばんだポスターが貼ってあるのが見
える。
『
この美術館は美しい心が飾ってあります。
選ばれた貴方は心の美しい人です。
この美術館はどこかにひっそりと存在しているそうだ。
幻の美術館 梅田 乙矢 @otoya_umeda
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます