―09― 帰宅
カラオケを一人で抜けた後、俺は拓也には謝罪のメッセージを送った。
それから帰り道、俺は色々と考え事をしていた。
結局、俺はどうしたいんだろうか?
香澄のことは間違いなく好きだ。
けれど、香澄は結衣と関係を築いて欲しいという気持ちも嘘ではない。
この矛盾した二つの感情を抱えながら、俺はこれからどうすべきなんだろうか。
ふと、空を見上げると大雨が降っていた。
傘を用意してなかったな、と思いつつ近くのコンビニに駆け込む。しばらくコンビニで雨がやまないか待っていたが、ますます雨が強くなるばかりでやみそうになかった。
仕方なくコンビニで傘を購入して、俺は帰路についた。
「随分と遅かったわね」
マンションの扉に前に香澄が立っていた。
マジかよ、と思いつつ、彼女の制服が濡れていることに気がつく。雨の中、ここまで走ってきたようだ。
「連絡くれたら急いで帰ったんだが」
そう言いつつ扉を開ける。
彼女はなにも応えなかった。彼女は不機嫌なままらしい。
「ひとまず、これ使えよ。シャワーも浴びるか?」
タオルを手渡しつつそう口にする。彼女はコクリと頷いた。
彼女がシャワーを浴びている間、夕飯の準備をしつつ考える。
このまま香澄が不機嫌なままなのは色々と居心地が悪い。どうにか改善したいがどうすればいいかわからない。
原因は、俺が音羽結衣に関心を抱いたせいだ。とはいえ、あれは恋愛感情なんかでは決してなく、百合豚として二人の会話も悶えていただけである。とはいえ、こんなこと説明できるわけがないし。なんて言い訳しようか。
あと、他の女子とカラオケに行ったことも謝ったほうがいいよな。
「あら、もしかしてハルが夕飯を作っているの?」
「あぁ、そうだよ」と、声のした方に振り返る。
「おい、なんだその格好は……!?」
思わず叫んでしまった。
というのも、香澄がシャツ一枚だけで立っていたからである。そうシャツ一枚だけで下にはなにもはいていない。俺のシャツを来ているおかげか、ブカブカなためきわどいところは見えないが、それでも危ういことには変わらなかった。
「彼シャツというのをやってみたのだけど、どうかしたのかしら?」
香澄はにんまりとした笑みを浮かべていた。
この表情は全部わかっているのに、あえて知らないフリをしているのだ。
「もう少し品性のある格好をだな」
「品性って、彼氏の前なんだから私がどんな格好しようとも勝手じゃない? それともお子様なハルにはこの格好でさえ刺激が強いのかしら」
言いながら、彼女はシャツの裾を掴んで上にあげようとする。もう少しめくられたら、見てはいけないものが見えてしまいそうだ。
「そんなにガン見して、あなたって本当に変態さんね」
耳元でボソリと呟かれる。うぅ……どうやらガン見しているのがバレバレだったようだ。でも、仕方が無いだろ。見てはいけないものがあと少しで見えそうだったんだから!
「ふふッ、顔を真っ赤にしちゃって。かわいいんだから。これだから、あなたをからかうのはやめられないわね」
そう言って、香澄はスカートの袖を離す。そのことに俺は内心がっかりしてしまった。
どうやら俺は香澄の手のひらだったらしい。
「そういえば、ハルって料理ができたのね」
「まぁ簡単な料理しかできないがな」
前世で一人暮らしをしていたときの経験を活かせば、簡単な料理ぐらい作ることができる。今作っているのは野菜炒めだ。
「香澄も食べていくだろ。もう遅い時間だし」
「そうね。いただけるなら、うれしいけど」
そう言って、香澄は手持ち無沙汰だからかそわそわしながら立っていた。手伝おうかどうか悩んでいるんだろう。
「座って待っていてもいいんだぞ」
「それだと、なんだか悪い気がして」
「だったら、そこの戸棚から皿を出してくれ」
「わかったわ」
それからフライパンで炒めた野菜炒めをお皿にのせていく。あとは茶碗にご飯をよそう。茶碗は一人分しかなかったため、香澄の分はタッパで代用することにした。そして、ローテーブルの上に料理を運ぶ。
「いただきます」
対面に座っている香澄がそう言って、割り箸で食べ始めた。
「あら、おいしいわね」
「それならよかった」
マズいと思われないか心配だったため杞憂だったことに内心ほっとする。
「でも、なんだか複雑ね。彼氏が自分より料理ができるというのは」
「いや、この前香澄が作ってくれた料理おいしかったぞ」
「だったらいいのだけど。どっちにしろもっと精進しなくてはね」
どうやら香澄の料理への意識を火を付けてしまったらしい。
「そういえば機嫌直ったんだな。その、帰ってきたとき機嫌悪かっただろ」
香澄とのやりとりで忘れそうになっていたが、香澄は俺が音羽結衣と会話して以降、ずっと不機嫌だったのだ。
「あぁ、気を悪くしたなら謝る。けど、不機嫌だったのはあなたのせいではないの。その、家で親と喧嘩して」
俯きがちにそう告げる。
そうか、だから香澄は連絡もせずに俺の家の前で立っていたのか。
「じゃあ、俺が音羽さんを見てニヤニヤしていた件はもう許してくれたってことでいいか?」
「それは許してない」
キッと香澄は表情を引き締めてそう告げる。どうやらそう簡単にはいかないようだ。
「まぁ、ハルが浮気性なのは知っているんだけどね」
「そ、そうなのか……」
「正直、ハルが浮気するのは時間の問題かもと思っているし」
確かに、俺――小田切春樹が女にだらしないのは百合漫画『恋してやまない』で散々語られていたことだ。香澄にそう言われても仕方がない。
「じゃあ、仮に俺が浮気しても許してくれるのか?」
「絶対許さない」
即答だった。しかも目が怖い。
あれ~? おかしいなぁ。漫画では、小田切春樹がどれだけ浮気しても香澄は気にしてない風だったのに。
「そういえば、カラオケに行ったみたいだけど、他の女に色目なんて使ってないでしょうね?」
ギクッッ!! だ、大丈夫だよな……。女の子とカラオケに行ったことは本当だが、特になにもなかった。
「そ、そんなことするわけないじゃないか……」
ヤバい、緊張でしゃべりが噛み噛みになってしまった。
「そう、明日あなたの友達に確認するわね。確か、田中くんだっけ」
よしっ、後で拓也に誤魔化すように連絡しておこう。
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【あとがき】
新連載はじめました!
こちらもよろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/my/works/16817330658459064340
『アイドル売りしてたポーション中毒者、我慢できなくてラリってるところを配信したら、なぜかバズってしまう』
「俺も混ぜてよ〜」と百合の間に挟まろうとして成敗される男に転生した俺は、尊き百合を守るべく全力でヒロインに嫌われようとするも、なぜかヒロインに好かれてしまう 北川ニキタ @kamon
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