第5話

 それで街の中に入ったわけだが……。

 はてさて、どこへ向かおうか。生憎とこの街についての知識が俺には無い。文字とかに関しては読めるから看板とかで探すのもありだけど……不確かなやり方だから避けたくもある。


 人に聞く……は騙されそうだから無しかな。

 そしたら歩いて自力で探す……これが一番、簡単そうに思える。分からない時は足で探せ、これ鉄板の最善策ね。仕事とかで分からなくなったら初歩的な部分を考えてみる、そうすると意外に答えが見つかったりするもんだ。


 それで大通りを歩いているけども……お、アソコとかそれっぽいな。盾に二つの剣が重なっている看板、まぁ、原作を知っている身からしたら冒険者ギルドなのは分かっている。ただし、今は冒険者に興味が無い。


 レベル上げとかは薬術や鍛治術を学びながらでもできる。特に薬術が何とかなれば自分で薬草を取って、ポーションを作ってとかいう普通の人にはできない高利な金稼ぎができるからな。


 目指すは緑の液体が詰まった瓶が描かれた看板を飾る場所だ。今はそれ以外に興味は無い。という事で場所だけは頭の中に記憶して……後ろ髪を引かれる思いだけど我慢しないと……。


 それで我慢して探してみたわけだ。

 だけど……うーん、小一時間は大通りを歩いたが見付けられなかったな。となると、大通りじゃない場所に立地しているとかか。いやいやいや、それはそれで面倒だぞ。


 割と街は広いし、小道は薄暗い。

 下手に絡まれてしまったら……こちらとしても対抗しないといけなくなってしまう。でも、対抗したら兵士に捕まって全てがおじゃんになる。それだけは避けたい……となれば、選べる選択肢は一つだけか。


「それで戻ってきたのかよ」

「すみません、何も分からなくて」

「いや、いいよ。それで問題でも起こされた方が面倒だからな。……俺もサボれるし」


 最後の部分は聞かなかった事にしよう。

 小声だけど俺には聞こえちゃうんだよなぁ。でも、分かるよ。俺もスマホとかを見て仕事中でも休んでいたし。タバコ休憩が許されるのなら吸わない人にも同じだけの休憩時間があってもいいよな。


 だけど、現実は残酷だ。タバコは許されて、スマホは休憩時間にしろと言われる。それで他の部署の人間とかが俺の事を卑下するんだぜ。マジで意味が分からないだろ。文句を言っている暇があったら自分の仕事でもしていろって話しじゃん。


「大銅貨一枚で護衛をお願いしたいです」

「おー、太っ腹だな。乗ったぜ、俺が薬師ギルドまで連れて行ってやる!」


 ドンと強く胸を叩き……そして痛かったのか、大きな咳を続ける。なんというか、この人って面白い人間なんだな。取っ付きやすいというか、関わりやすいというか……どちらにせよ、最初に関われた人がこの人で良かった。


「俺の名前はグル、よろしく頼むぜ」

「よろしくお願いします、グルさん」

「よせやい、二十一だからさん付けされる理由なんて無いぜ。気軽にグルって呼んでくれ」


 そこまで言われるのなら……。

 まぁ、それでも多少は警戒をしておく。グルが本当は悪人で俺を嵌めようとしている可能性も少なからずあるからな。……ただ兵士をしているのに分かりやすく悪事を働くとは思えないから強く警戒はしていない。


「んじゃ、着いてきてくれ。大通りで近くまで来たら小道に入るからな」

「背後は任せてください」

「は、面白い返しをするじゃねぇか。後ろは任せたぜ」


 このノリの良さからして悪人では無い。

 恐らく悪人と言うよりはアホの子の方が近い気がする。……って、それは失礼だな。俺だって大した大学を出ていないんだからアホの子には変わりない。仲良くできそうなら仲良くするのが吉だ。


 先に小屋を出ていったグルの後ろを歩く。

 さすがに兵士が歩いているのが目立つからか、こちらを見る視線も多いけど……まぁ、問題は無いよな。見ている感じ嫌な視線と言うよりは、グルに対して好意的な視線を向けているように見えるし。


 大通りで中心地まで近付いて、その途中の横道に入って少し……そこでようやくグルが立ち止まった。小道というには少しだけ広くて明かりが行き届いていて……でも、その目の前には確かに俺の想像していた看板がある。


「ここが薬師ギルドだぜ。まぁ、分からない事だらけだと思うからな。さっさと入ろうぜ」

「え、ちょ!」


 すげー力だ……これが兵士なのか。

 ま、まぁ、俺もチートがあるわけですし、そのうちグルも越えられるとは思うけど……少しだけ怖くはあるな。でも、ここが変な場所では無いのは分かっているんだ。覚悟を決めよう。


「お、グルじゃないか」

「久し振りだな! 頼まれ事で来てやったぞ!」

「兵士になっても口調は変わらないな。……って、頼まれ事?」


 うげ、無理やり前に出された。

 オッサン……は、悪口か。えーと、髭の生えた中年の人と仲良さげに話していたわけだけど……一先ず、お辞儀だけしておくか。それと愛想笑い、これ意外と誰にでも通用するからな。笑わないよりは笑った方が印象が良い。


「コウと言います。薬術スキルを持っているので学ばせて貰いたいと思い、グルさんに頼んで連れてきてもらいました」

「ふーん、その若さの割にはスキルを持っているなんてな。普通はポーションとかを作っているうちに手に入れるはずだが」

「ギフテッドなんですよ。薬術と鍛治術を生まれながらにして持っていたんです」


 面倒な事はギフテッドって事にしておく。

 こう言っておけば大抵の事を解決できるって知っているからな。オッサンも納得したのか首を縦に振っているし……本当に良かった、原作通りで。

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元社畜の俺、異世界でも無事社畜になる〜きっと固有スキルの【ガチャ】が解決してくれる(はず)〜 張田ハリル@m9(^Д^)気分次第だぜ! @huury

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