第15話 家族
3か月が過ぎた頃、私は体調がすぐれなかった。
もしかして妊娠?
私は検査薬を買って帰った。
「ただいま」
「おかえり」とトトが出てきた。
「あのね、私妊娠したかもしれないの」
トトが嬉しそうに
「そうじゃろう。毎晩愛し合った結果じゃ」
「トト!」
検査薬を使ったら陽性だった。
「アビ、話があるの」
「空、どうした?」
「私妊娠したの!」
と照れながら言った。
「空!私達の愛の結晶だな」
アビは喜んで私を抱きしめた。
「アビ、空、おめでとう」
トトが祝福してくれた。
明日アビと産婦人科へ行く事にした。
病院ではアビが目立っていた。
私は妊娠6週目に入っていた。つわりも出てくる時期らしい。今は大切な時期なので無理をしないように言われた。
自宅でトトが待っていた。
「トト、6週目だったよ。大切な時期なんだって」
「おお、そうか。どっちかな?楽しみじゃ」
「トト、気が早いよ!」
嬉しくて仕方ない様子だった。
アビは私が食べれそうな栄養を考えた食事に切り替えると張り切っていた。
なんだかみんな大袈裟だよ。
私は仕事もギリギリまでしたいし、家のことも手伝いたいけどアビが許してくれるかな?
私は妊娠4か月目に入った。安定期に入ったので気分が楽になった。
食欲が出始めて太るのが気になるが、
アビは勉強をして私の為にご飯作りに励んでいる。
トトは何やら知育玩具に興味があるらしい。
妊娠6か月になるとお腹が目立ってきた。
アビは心配して会社まで送り迎えをしてくれる。
妊娠8か月目に入った。お腹が重い。
アビはもう産休にして欲しいと言った。
トトも心配していた。
私は来週から1年間産休を取ることにした。
そして、予定日10日前。陣痛がきた。
アビは急いで病院へ運んでくれた。
アビは分娩室でずっと手を握ってくれていた。
私は無事に男の子を出産した。
私はアビ似の息子を抱いた。愛おしかった。
「ありがとう、空」
アビは泣きながら息子を抱いていた。
5日後私は退院して自宅へ戻った。
「ただいまー」
トトが待っていた。
「空、頑張ったな。ワシも安心したぞ」
「うん、ありがとう。トト名前決めてくれた?」
「もちろんじゃ。
「うん、いいかも!アビはどう思う?」
「その名にしよう」
「あなたは今日から陸よ!」
と私は息子に言った。陸は笑っていた。
アビは自分に名を付けてもらった時の事を思い出していた。あれから始まって今がある。空と出会えたことを心から感謝した。
トトが
「ほぉ、陸はママ似かパパ似かな?可愛いのう」
陸はトトを見て笑っていた。
アビはイクメンになっていた。私より子育てが上手だ。アビは陸をあやすのも、寝かせるのも上手。
私はオッパイをあげるぐらいである。
一カ月検診も異常なしで安心した。
アビもオッパイが欲しいと甘えてくる。陸が寝てからこっそり愛し合っている。なんだか陸と張り合っているみたいだ。
トトはまだ早いのに知育玩具を揃えていた。
「空、陸に早くこれで遊んで欲しいんじゃが」
「もうすぐだよ」
と私は答えた。
陸の成長は早い。あっという間に一年が経った。
私は仕事復帰して頑張っていた。
アビは陸の面倒を見ながら主夫をしてくれている。
トトは陸の友達になって一緒に遊んでくれている。
私は安心して仕事に専念できた。
2年後、私は学芸員の資格を取得した。
3年後、二回目の妊娠は双子だった!
二卵性の双子である。
私は無事出産して、男の子には
家族も増えて今は6人家族。
アビもすっかりお父さんだ。
トトは犬だが気分はおじいちゃんになっていた。
そして、結婚して12年が経った。
アビと私は36才になっていた。
陸は11才、海と愛は8才に成長していた。
トトはすっかり老犬になり、寝てる事が多くなってきた。
アビとトトは話していた。
「なぁ、アビ。ワシはもう人間界では長くない」
とトトは悲しく言った。
「ああ、トト。私達の青い石を使えば冥府に戻れるのではないか?」
「そうじゃのう。今ならまだワシにも戻れる力ぐらいは残っておる。だがここにも居たいのじゃ」
トトは悩んでいた。
「私はトトの判断に任せる」
「ワシが決めないとな」
と呟いた。
学校から帰って二人は騒いでいた。
「愛、アイツはダメだよ」と海が言った。
「何で。だってお手紙もらったし、いいでしょ」
愛は嬉しそうに言った。
「どうした?愛、手紙ってなんだ?」
アビが聞いた。
「うん、春に転校生してきた七瀬君からもらったの」
愛はニコニコしていた。
「愛、お父さんにお手紙見せてくれる?いい?」
とアビは優しく言った。
愛は頷くと手紙を渡した。
愛ちゃんへ
愛ちゃんが好きです。
付き合ってください。
七瀬
アビはびっくりした。七瀬って!あの交尾男?
それにまだ8才だぞ!なんでこんな事になった。
アビは頭を抱えた。
アビは愛に言った。
「愛は七瀬君の事は好きなのか?」
「まだ分からないよ」
と愛は口を尖らせた。
「じゃあ、まだ返事はしない方がいいな」
「ほら!お父さんだって僕と同じこと言ってる」
と海が口を出してきた。
「お母さんが帰ってきたら相談するから、愛はそれでいいかい?」
「うん」と頷いた。
アビはトトに相談した。
「トト、少しいいか?」
「どうしたのじゃ」
「愛がラブレターをもらって、その相手がたぶん交尾男の息子だと思うのだが、まだ8才だし。どうしたものか?」
「ワッハッハ、そんな事あるんじゃな!交尾男もなかなかやるのう。息子に託すとは根性あるではないか!」とトトは笑っていた。
「いや、笑い事ではないぞトト」
アビは真剣だった。
「まぁ、まだ幼いからな。そんなに悩まんでも大丈夫じゃ!愛は案外しっかり者じゃぞ」
とトトは答えた。
「ただいまー」
「ママおかえりなさい」
愛が抱きついてきた。
私は愛に頬擦りをしてチュッとした。
「おかえり、空」
アビが笑顔でキッチンに立っていた。
トトが来て
「愛が今日ラブレターをもらったんじゃ」
「え!ラブレター?誰から?」
私は驚いた。
「誰じゃと思う?聞いて驚くなよ!」
トトはじらす。
「誰?」
「交尾男の息子じゃよ!びっくりじゃろう」
「えっ!七瀬先輩の息子?」
私は先輩とは腐れ縁なんだと思った。
「アビも心配しておる」
「うん、後で先輩に連絡してみるね」
先輩、結婚して子供がいたんだ。
連絡したら聞いてみよう。
「ご飯だぞ」アビが声をかける。
みんな集まって「いただきます」
陸は部活と塾でいつもいない。
部活が終わるとアビがお弁当を作って車の移動中に食べて塾に行く毎日を送っている。
陸はアビにそっくりなのでなんせモテる。
同級生や下級生、お姉さんまでも。
私は愛よりも陸が心配である。
私は七瀬先輩に連絡した。
もう12年してないのか。
「お久しぶり、空ちゃん。元気にしてた?」
「お久しぶりです先輩。はい、元気ですよ」
「連絡してくれて嬉しいな。どうしたの?」
「先輩は変わらないですね。こちらにはいつ戻られたんですか?」
「ああ、4月に転勤で戻ってきたんだ。僕も結婚して男の子が一人いるんだよ!」
「そうですか。先輩、今幸せですか?」
「うん、どちらかというと幸せだよ」
「良かった。あのですね、先輩の息子さんがウチの娘にラブレターをくれた件でお電話しました」
「えっ!ラブレター?竜馬のヤツ」
先輩は少しびっくりした様子だった。
「それで、アビも心配してて先輩の方から息子さんに何か助言してもらえるとありがたいのですが」
私は低姿勢でお願いした。
「うん、こっちで何とかするから気にしないで。
イヤー、息子が迷惑かけてごめんね」
「いえ、大丈夫です。子供の事ですから」
「でもさ、僕の遺伝子が求めてたのかな?
空ちゃんの遺伝子を」
「先輩!やめて下さい。相変わらずですね」
「ではまた」
二人は笑って電話を切った。
私はアビに説明した。
アビは安心していたようだ。
一カ月が経った。
トトの様子が気になる。とても弱っている。
「トト、大丈夫?」
私は声をかける。
「大丈夫じゃ。もう老衰じゃな」
「魔法でどうにかならないの?」
「なればやっとるわい。冥府に帰る事も出来たのじゃが、ワシはここに残ったのじゃ!」
「じゃあ、トトはどこに行くの?」
「魂になるんじゃよ。直ぐに生まれ変わって空の所に行くかもしれんぞ!」
「本当?直ぐに来てよ。トト」
私は涙が止まらなかった。
「アビはいるか?」
トトはか細く言った。
「ああ」アビが答える。
「ワシはお前と相棒で良かったと思っておる。
こんな素晴らしい生き方ができて感謝しているぞ。ありがとう。また会えるその日まで」
トトは静かに息を引き取った。
体は灰となって消え、首輪だけが残っていた。
悲しみが降り注ぎ、私とアビはしばらく動けなかった。
一週間後。
七夕祭りで賑わっていた。
家族5人は浴衣を着て祭りに繰り出していた。
陸は女の子達に声をかけられていた。
海と愛は出店を巡っていた。
私とアビはのんびりベンチに座っていた。
「トトもお祭り好きだったね」
「ああ、そうだったな」
私は涙が出てきた。アビがハンカチで涙を拭いてくれる。
「ありがとう、アビ」
「私達も楽しもう」
私はアビと手を繋いで子供達の所へ歩き出した。
子供達も楽しんだようだ。
夜空の花火がやけに綺麗に見えた。
アビと私は七夕の続きをしていた。
願い事を短冊に書いて木につるした。
二人とも同じ願い事だった。
トトとずっと家族でいたい
一年後、家族でショッピングモールに来ていた。
愛はファッションに興味があり洋服やバッグを見ていた。
海はマンガが好きで本屋にずっといる。
陸は半年前くらいからピアノを弾くのが楽しいようで、ここのショッピングモールの大広場にもピアノが置いてある。
自由に弾けるので陸は喜んでいた。
陸はピアノを弾き始めた。パラパラと人が集まり出した。みんな陸の容姿とピアノの演奏でうっとりしていた。我が子ながらびっくりするくらいオーラがある。
そんな時、声が聞こえてきた。
「おい!ここじゃ!」
アビと私は顔を見合わせた。
「トト!」
私達は周りを見渡したがわからない。
ペットショップがあった。
アビと私はショップに入り小さい声で
「トト?どこ」と言って探した。
「ここじゃよ」と聞こえた。
見ると子供の黒いトイプードルだった。
「トトだよね?」「そうじゃ」
私達は即買いした。
「いやーこんな早く生まれ変わると思わんくてのう。ワシもびっくりじゃ!」
トトは変わらずジジイ言葉だった。
私は涙が止まらずアビに拭いてもらってた。
「仲が良いのう!ワシも幸せじゃ」
トトは笑っていた。
また、6人家族になった。
それから9年後。
私とアビは46才。陸は21才、海と愛は18才になっていた。
アビは子育ても一段落したので、自宅で料理教室を開いた。イケメン講師として有名になり料理本やテレビにまで出るようになっていた。
陸はずっとピアノに打ち込み音大へ通っている。
アビ同様、容姿が美しいので大学では有名だ。
陸は女の子よりピアノに夢中。コンクールで賞を取るぐらい頑張っている。
愛は彼氏とラブラブである。もちろん相手は竜馬君だ。一緒の大学に通っている。
海は何をしたいか決まらず、愛と同じ大学に通っている。だが最近気になる子がいるらしい。
愛からこっそり聞いた。
私とトトは縁側で寛いでいた。
「トト、私達がこんなに幸せになるって知ってたの?」
「ワシには未来は見えんぞ」
「本当?いつも先が見えてると思ってた」
「さて、どうじゃろな?」
「ワシはお前たちが幸せな姿を見るのが
幸せなのじゃ」
「生まれ変わってもアビとトトと私はまた家族だよね」
「きっとそうじゃな」
END
アヌビスの使い きんつば @ejiko
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