第14話 再会
もう、5年が経っていた。
私は卒業して、学芸員になるため博物館で働いている。仕事は大変だが楽しい事もあるのでやり甲斐はある。
大学に行っていた時よりずっと充実していた。
七瀬先輩とはあの時以来会っていない。
たまに電話では話すが私が会うことを拒否しているので先輩も無理強いはしない。
博物館でイベントをするので企画会議や展示物設置などで慌ただしい日々を送っていた。
疲れて戻ると家の明かりがついている。
私はまさか!
急いで駆け出し玄関を開けた。
「アビ!、トト!」と叫んだ。
そこには黒いプードルのトトと愛しいアビが立っていた。
私は足の力が抜けて座り込んで、今まで我慢していたものが一気に涙となって溢れ出した。
アビが優しく抱きかかえて運んでくれる。
ああ、懐かしいアビの匂い。やっぱり心地良い。
「アビ、トトおかえりなさい」
私は泣きながら言った。
「空、元気じゃったか?なんか女らしくなって色気出てるぞ!立派な蝶に変身したな」
トトは嬉しそうに言った。
「トトは相変わらずエロジジイだね」
「空、長い間待たせて悪かった。寂しい思いをさせたな。会いたかった」
アビは私を力強く抱きしめ熱いキスを交わした。
「アビ、愛してる」
「ああ、私もだ。愛してる」
「お二人さん、続きは別の場所で頼むぞ」
トトはいつも通り茶化す。
「さあ、お腹も空いたしみんなでご飯じゃ」
「いただきます」
アビの料理は美味しい。幸せだ。
「アビ、凄く美味しいよ。ありがとう」
私は笑顔が溢れた。
「久しぶりだから心配したが、美味くて良かった」
アビも笑顔だった。
「空、ワシの部屋綺麗にしてくれてすまんな」
「いつでも帰ってきていいように、毎日掃除をしてたんだから」私は自慢げに言った。
「ほぉ、やれば出来るではないか」
トトはニヤリとした。
「あと私、博物館に勤務してるの。学芸員になりたいから勉強しながら頑張ってる」
「凄いじゃないか!空も頑張ってたんじゃな」
トトは嬉しそうに言った。
「アビは人間になったの?」
「ああ、人間だ」
アビは笑顔で言った。
「これからは空とずっと一緒だ。家族になるんだ」
「うん!私の家族」
私はアビに抱きついた。
私はトトとアビに今までの出来事を話した。
トトからはアビの試練の話を聞かされた。
みんな苦しみを乗り越えて頑張ったね。
3人は心から今の幸せに感謝した。
「ワシはもう休む。二人は楽しむといいぞ」
とニヤニヤして部屋に入った。
私とアビは二人でまったりしていた。
「アビ、私達のベッド新しくしたの!あと少し模様替えもしてスッキリしたんだ」
アビは私を抱きかかえてベッドへ運んでくれた。
「空、この大きなベッドで一人。寂しくなかったか?」
とアビは私を抱っこしたまま言った。
「寂しい日はアビを思い出して我慢したよ」
「空、以前よりずっと素敵になった。大人になったんだな」
アビと私はゆっくり唇を重ね合わせた。
二人は互いを確かめ合うように激しく愛し合った。気づけば朝だった。
アビはまだ欲しているように私を愛撫している。
私はアビの匂いに包まれて幸せである。
「アビ、朝だよ」
「あともう少しだけ空を感じたい」
アビはギリギリまで私を愛してくれた。
結局、私はほとんど寝ないまま仕事に行く事になってしまった。「自業自得である」とトトに言われそう。
なんとか仕事を終わらせて、げっそりして帰ってきた。
「ただいま」
「おかえり」とアビが迎えてくれた。
「空、ごめん。無理させてしまった。空に夢中になりすぎてすまん」
とアビが謝ってくれた。
「うん、いいの。嬉しかったから」
アビは笑顔になっていた。
「なんじゃ、仲が良いのう。思いやりを忘れんようにするのが仲良しの秘訣じゃ」
「先にお風呂いいかな?」
疲れた体を癒したかった。
「行っておいで」
アビが言った。
お風呂は最高!疲れが取れる。
髪を乾かして食卓へ向かう。
今日は私の大好きなカツ丼である。
「アビ、覚えててくれたの!嬉しい」
「とても美味しい。元気でるよ」
と私は頬張りながら言った。
アビは笑っていた。
私は片付けをしていた。
「空はアビと結婚はせんのか?」
トトが聞いてきた。
「結婚したいよ!アビは喜んでくれるかな?」
「もちろんじゃ!アビもしたいと思っておる」
「今度こそ先輩も諦めてくれるよね」
「交尾男か?まだ空を追っかけてたか。まさかアイツと交尾してないじゃろうな?」
「トト!怒るよ!私はアビ一筋なんだから」
「そりゃ、失礼しました」
トトはそそくさと部屋に戻った。
お風呂上がりのアビがきた。
私の腰に手を回しキスをする。
「ねぇ、アビ。結婚したい?」
「ああ」
アビは微笑んだ。
「私明日は仕事お休みだから、一緒に婚姻届出しに行こうよ」
「空はそれでいいのか?」
とアビが聞いてきた。
「それがいいの!」
と答えた。
晴天な朝だった。気持ちがいい。
スッキリ目覚めた。
昨日の事を反省して、アビは程よく愛してくれた。
「空、朝じゃぞ」
トトが入ってきた。
「トト、おはよう」
「おはようさん」
アビが朝食を準備していた。
「アビ、おはよう」
「おはよう、空」
3人で楽しく食事をした。
「ほれ、婚姻届を用意しておいたぞ。保証人はワシの名を書いておいた」
「トト、さすがー。準備がいいね。ありがとう」
私達は早速、婚姻届に記入して役所へ提出した。
トトが魔法でいろいろ準備してくれたおかげで
スムーズに受理された。
帰りは商店街に寄った。
「あら、空ちゃん!久しぶりだね」
「一緒にいる人は彼氏かい?」
とお店のおばちゃんが聞いていた。
「うん、私の夫です。これからは夫が買い物にくると思うので、よろしくお願いします」
と私は挨拶した。
「まぁ、ご主人!イケメンね。こちらこそよろしくね。今日はサービスしちゃうよ」
と言われてたくさん野菜を買ってしまった。
アビは笑っていた。
自宅に戻った。
トトが待っていた。
「上手くいったかな?」
「うん、直ぐに受理されたよ。トトのお陰。ありがとう」
「そうであろう」と自慢げに見えた。
「結婚のお祝いにワシから指輪をプレゼントじゃ」
とトトは言った。
「トト、指輪って!」
「ワシが作った指輪じゃよ。仲良く暮らしていけるように指輪には魔法の刻印がしてある。実はワシにもあるんじゃ。ほれ」
とトトは言って指輪を渡してくれた。
「トト、ありがとう!」
私は感動していた。
「お二人さん!指輪の交換じゃ!」
「ではアビ。あなたは空を妻としいかなる時も妻を愛し、敬い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすと誓いますか?」
「はい、誓います」
「では空。あなたはアビを夫としいかなる時も夫を愛し、敬い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすと誓いますか?」
「はい、誓います」
アビと私は互いに指輪を交換して誓いのキスをした。
二人は晴れて夫婦となった。
「ワシのも頼む」
とトトの自家製首輪が置いてあった。
トトには二人で首輪をしてあげた。
「やっと家族になれたね!」
3人で抱き合って喜んだ。
翌日、私は職場に結婚した事を報告した。
「青山さん、ご主人が見えてますよ」
と受付の方に言われて向かった。
アビが笑顔で手を振っていた。
「アビ、どうしたの?」
「空、お弁当忘れたから届けにきた」
「ごめん。わざわざありがとう」
「大丈夫だ」
「気をつけて帰ってね」
私は手を振って見送った。
「へぇ凄いイケメン。青山さんのご主人なんだって!」
「私もあんなイケメンと結婚したーい」
「アンタは無理っしょ」
「酷い!いつか王子様が迎えにくるんだから」
「いくつでそんな事言ってるの?現実を見なさい」
と受付女子が話していた。
アビは自慢の夫なのだ。
私は叔母にも電話で結婚した事を伝えた。
とても喜んでくれた。
一カ月が経った。
博物館のイベントが終了したので、有給を使って一週間お休みにした。
今日からアビとトトとゆっくりできる。
久しぶりにワクワクした休日だった。
トトは日向ぼっこ。
アビはトレーニング中。
私はトトと一緒に縁側で読書をしていた。
インターホンが鳴った。
七瀬先輩だった。
「空ちゃん!結婚したって!本当?」
先輩は血相を変えて言った。
「先輩、いきなり来てなんですか?本当ですけど」
「嘘だよね。なんで僕に相談してくれないの」
泣きそうな顔をしていた。
「まあ、中にどうぞ」
私は先輩を家に招き入れた。
ソファに座っているが落ち着きない先輩。
トトが来て
「おっ!交尾男!久しぶりじゃな、元気そうでなによりじゃ」
と言っていた。
先輩には吠えてると認識されている。
「空ちゃん、犬飼ったんだね」
「うん、トトって言うの」
「先輩の事好きみたいよ」
と私が言うと
「ワシは好きじゃない」
とトトは言っていた。
「そうかな?さっきから僕見て吠えてるからな」
と怖がっていた。
「空ちゃんのご主人は?」
「居るよ。呼んでくるね」
私はアビを呼んだ。
アビはトレーニング中だったので上半身裸でタオルで汗を拭きながら出てきた。
「私の夫のアビです」
と私は紹介した。
「あ、あの空ちゃんとは同じ大学で一緒だった七瀬といいます」
緊張して挨拶していた。
「アビだ。よろしく」
「外国の方ですか?イケメンですね。それに良い身体ですし僕はかなわないや」
先輩は愛想笑いをしていた。
何となく嫌な空気が流れている。
「先輩、私これからトトの散歩に出るので一緒にどうですか?」
と私は声をかけた。
「そうだね。アビさん、お邪魔しました」
と言って一緒に外に出た。
「ワシは散歩嫌いじゃ!ワシを巻き込むな!」
トトは怒っていた。
「空ちゃんの待ってた人ってアビさん?」
「そうだよ」
「そっかあ、僕じゃ太刀打ちできないな」
私は無言だった。
「あーあ、空ちゃんは何で僕を選んでくれなかったのさ。もう勝手に結婚しちゃうし。僕立ち直れるかな?」
と先輩は溜め息をついた。
「私は先輩の気持ちには応えられない。だけど先輩には幸せになってほしいです」
と答えた。
沈黙が流れた。
「ありがとう、空ちゃん。幸せかぁ。そうだね僕も頑張るわ」
と先輩は手を振って帰って行った。
「アイツも納得したじゃろう。空はモテるのう」
トトは言った。
「トトの意地悪。先輩に早く彼女見つかるといいな」
「帰ろうか。アビ待ってるし」
「そうじゃな」
トトと私は自宅に戻った。
アビが心配そうにしていた。
「アビ、心配いらんぞ。空はアイツにきちんと伝えたから大丈夫じゃ」
「そうか」
アビの元気がない。
「アビ、ごめん」
私は謝った。
「すまん、もう大丈夫だ」
と買い物に出掛けてしまった。
「トト、アビ怒ったのかな?」
「単なるやきもちであろう」
「アビにやきもち焼かれるなんて嬉しいな」
と私は顔を赤らめた。
「空!今日はアビを労ってあげなさい」
とニヤッとした。
「トト!エロジジイになってるよ」
二人は笑った。
私はお風呂に入って部屋に入るとアビが不機嫌のまま座っていた。
「アビ、今日の事怒ってる?」
「いや、大丈夫だ」
「どうしたの?」
と覗き込む。
アビはいきなり私を抱きしめた。
「空、私だけだぞ」
「うん、私もアビだけだよ」
アビは自分の物だと言わんばかりに私を荒々しく抱いた。私は悶えながらアビのやきもちがたまらなく嬉しかった。
アビは私の身体を優しく隅々まで愛してくれる。アビの匂いが好き。朝の日差しがカーテンの脇から差し込んでいた。
「アビまた朝になっちゃった」
「ああ、すまん、また夢中になりすぎた」
「大丈夫だよ。休みだから」
「空、もう少しだけ」
「うん、私も」
アビは私を丹念に愛してくれた。
トトが
「おーい!朝じゃよ」
とドア越しに叫んでいた。
「トト、ごめん。今降りるね」
と私は言った。
「ワシお腹が空いてたまらん」
と不満そうだった。
「ごめんトト。ちょっと取り込んでて。今アビが作ってくれるから」
私は謝った。
「アツアツ過ぎだぞ。ワシでも呆れるアツさじゃ。
まっ!今のうちに楽しむといい。子供でも出来たらそんな事言ってられないからのう」
と意味深に言った。
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