宿望したルキウス
ばしらん
プロローグ
2031年 3月11日 宮城県某所
当時小学5年生だった源大輝はいつも通りの日常を送っていた。この日は終業式で、学校は早く終わり、自宅ではなく隣町にある祖父祖母の家にお世話になることになっていた。午前中には学校を出て、祖父のお迎えで下校した。
午後3時42分
祖父の畑仕事を手伝った後、大輝は習っていた剣道の自主練習をしようと竹刀袋を手に近くの公園に向かった。公園の前の通りに着いた時、大輝は道の真ん中で身を伏せた。地震が起きたのだ。しかもかなり大きい。大輝が伏せたのは立っていられなかったからというのもあった。その後、風がだんだん強く吹いた。周囲の家の窓が次々割れ、人々の悲鳴が止まなくなった。一瞬、大輝は頭痛に襲われた。何か言葉が浮かんだような、何か情景が浮かんだような、不思議な感覚だった。そして、世界は光に包まれた。次の瞬間、大輝の目の前には見たこともないような、いつも遊んでいたRPGのような世界が広がっていた。あり得ないことが起こった。大輝の座り込んでいた地面はコンクリートと乾いた土の大地の2つに分かれ、前方には怪しげな樹海が、後方には電柱といつも見ていた現代日本の住宅街があった。なにが起こった?目の前には公園があったはず。大輝は何が何だかわからなかった。
午後3時48分28秒 世界の一部が闇に沈んだ
そしてこれ以降、大輝が家族に会うことはなかった。
2035年3月11日 福島県会津若松市
あの事件から丁度4年が経った。俺、源大輝は中学を卒業した。
あの事件は「魔の侵食」と呼ばれるようになった。世界が光に包まれ、多くの地域が闇に落ちた。
闇に落ちた地域の生態系や文化形態はどうやらこの世界とは全く異なっているらしい。ヒトは存在せず、異形の存在である、魔物や魔族が支配している。
人類は当初、そんな異形の存在との対話を図っていた。しかし、それは失敗に終わる。魔族の王が会談にて日本の総理大臣を殺害したのだ。
魔族の王は「我々は意図してこの地に降り立った。我々の目的は貴様らの土地とその全てを支配することである。我々は武力をもって侵略を進めるつもりである。死にたくなかったら大人しく我の支配下に落ちるのだな!」と高らかに宣言した。
日本はこの宣言に対抗すべく多くの案を実行した。侵略に対しては自衛隊も動いた。魔物の兵には銃などの武力も有効だった。しかし問題は魔術によるバリアだった。銃などの武力はこのバリアを前にすると無力というほかなかったのだ。
この現実から国は「魔に打ち勝つ者」であると言い伝えられた「勇者」を生み出すために、国立明開大学を設立した。大学とは言いながらも試験に合格した者であれば年齢を問わず入学が出来るこの学校では、勇者を生み出すため、日本の兵士たちが命をかけて手に入れた情報を使って魔術や戦闘術、闇の地についての知識を生徒たちに身につけさせる。こうして勇者となった者たちを中心に魔王軍の侵略に対抗しようとしている。
俺は魔の侵食の後すぐに宮城県から福島県に祖父祖母と共に引っ越した。そう、俺が家族と共に住んでいた街もまた闇に包まれてしまったのだ。家族は未だ見つかっていない。情報すら無い。
俺は家族を見つけ、救いたい。またあの日常を取り戻したい。
そのために俺は、勇者になるんだ。
2035年 4月4日 源大輝は国立明開大学に入学する。
ここから、勇者の卵たちの物語が始まる。
宿望したルキウス ばしらん @bashirable
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