第2話 明日香の道1

ここは四国のある山奥。

清らかな川が流れ、小鳥は鳴き、虫が飛び交い、魚が跳ねる地域に暮らす辰彦はニホンカワウソである。

彼は巧みに魚を捕らえると岸に上がる。

薮から彼の妻である雪が現れる。

「お疲れ様です」

「ただいま……」

辰彦は何故か浮かない顔をしている。

「どうしたの?」

「最近魚が減っている」

数週間前から人間が山の麓で都市計画の一環として大規模なニュータウンを建設している。

辰彦はいずれこの場所も人間に奪われるのでないかと心配していた。

「あなたは警戒しすぎよ」

「……だといいが」

茂みから兄竜と妹の明日香が飛び出す。

「パパ!」

明日香は二匹に駆け寄る。

「竜っ!明日香と塒で待ってなさいって言ったわよね」

「だって明日香の奴が」

辰彦は竜と明日香に魚をやる。

明日香は魚を掴む。

「明日香!これは父さんと母さんのだろう」

「気にするな。それより夕方の会議に行って来る」

辰彦は山の動物たちが集まる会議場に向かう。

「あら、いらっしゃい」

ツキノワグマのツキさんはこの山一帯を管理するリーダーだ。

「けっ、まだ生きてたんかい」

ニホンイタチの源は麓近くにあるゴミ集積場で見つけた酒の味を覚え、今や酔っ払い親となった。

「源さん、この山に生きる者たちは皆仲間なのよ」

「けっ」

「皆に集まってもらったのは近々人間たちがニュータウンを建設するって話を隣山のカラスさんから聞いたの」

それに皆は騒ぎ立て戸惑う。

「それでカラスさんと相談して隣山に住めるように頼んだわ。引っ越しは早めにお願いね」

辰彦は家族のもとに戻ると雪にそのことを話し、今後のことを考えて就寝に入る。

明朝突然の地響きに彼らは目を覚まし、起き上がる。

辰彦は皆を避難させようとしたが土砂に巻き込まれてしまう。

「パパ!ママ!お兄ちゃん!」

明日香は下流域まで流されるといきなり尾を掴まれ、持ち上げられる。

「こりゃあカワウソじゃねぇ?」

「ニホンカワウソか!」

「まさか」

人間たちは明日香を取り囲む。

明日香は気を取り戻すも怖くて何もできない。

するとぬかんだ地面から辰彦が現れ、明日香の掴んでいる腕に噛みつく。

「いって!」

「パパ!」

辰彦は明日香を持ち上げると近くを流れる河に投げる。

「明日香!生きるんだ」

「パパ!」

その時。

銃声が鳴り、辰彦の身体から血渋きが上がる。


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