ケニアの王
さやか
第1話 ウルフとルナの放浪1
甲斐犬のウルフとキャバリアのルナはとある清流に来ていた。
ルナ「水が綺麗だし、美味しいね」
ウルフ「いいから早く飲め」
ルナ「何よっ!別に急ぎじゃないでしょ!」
ルナはウルフに水をぶっかける。
ウルフ「お前の相手なんかしねぇよ」
ルナ「酷い言い草ね」
ウルフは何かを察する。
ルナ「どうしたの?」
ウルフ「そこにいろ」
ウルフは岩上によじ登ると辺りを警戒する。
彼の目の前で岩陰に隠れる2匹の幼い兄妹犬がいる。
ルナ「子供?まさかっアンタの仔!」
ウルフ「そんな訳ねぇだろう」
ルナは2匹に歩み寄る。
兄「来るな!」
ルナ「大丈夫よ。あの犬は顔は怖いけど優しいわ」
兄「お前らレイジの仲間じゃないのか?」
ウルフ「レイジ?」
ルナ「私たちは愛の逃避行中の者よ」
ウルフ「ちげぇよ」
妹「お兄ちゃん、大丈夫?」
兄「詩音は来るな」
ウルフ「お前の顔を見てビビってるじゃん」
ルナ「失礼ね!」
ルナはウルフに噛み付く。
兄はこの2匹に敵意はなさそうだと安心する。
兄「お前らに詩音を頼む」
兄はそう言うとその場を離れる。
ルナ「はい?」
詩音「お兄ちゃん?」
ウルフはすかさず兄を捕らえようとするも小さな穴に潜り込んでしまい、姿を見せることはなかった。
詩音「お兄ちゃん、どこに行くの!」
詩音は泣き喚く。
ウルフ「おい、この穴はどこに通じてる?」
しかし、詩音は泣き喚くばかりで答えようとしない。
ルナ「泣くのも無理ないわよ」
ウルフ「ルナはその仔の傍にいろ」
ウルフはその場から走っていく。
ルナ「もうせっかちなんだから!」
ルナは詩音を暫く宥める。
詩音「ごめんなさい……私、パパもママも皆殺されたの」
ルナ「殺されたってレイジって奴に?」
詩音「私たちが住んでた所にそいつらが現れて私とお兄ちゃん以外……ぐすっ」
ルナはウルフの身を心配する。
兄ザックは穴から這い出たところでレイジの部下たちに捕らわれてレイジのもとに連れ戻されていた。
レイジ「ガキが逃げ切れるとでも思ったか?」
ザック「うっせぇ、オレが大きかったらお前らなんか殺してやる!」
レイジはザックを掴み掛かると首を傷つけて投げ飛ばされる。
モブ「バカか!レイジさんはタイリクオオカミの血を引いてるんだから勝てるはずがないだろう」
周りはザックを嘲笑う。
近くの木影からウルフはその様子を伺っている。
トリガー「レイジ」
レイジより一回り大きいマスチフが現れる。
レイジ「起こしたか?」
トリガー「退屈だ。クマでも狩らねば退屈すぎてしょうがない」
レイジ「そう言うなよ。ジャックとか言う奴の群れがここを通るらしいから女がいりゃ強奪しょうぜ」
トリガー「このガキの家族には心底がっかりしたよ」
トリガーはザックを掴むと未発見の古墳だろうか?
その中に放り投げる。
そこでザックが目にしたのは家族や仲間の屍である。
ザック「父さん……母さん…うわぁぁぁ!」
ザックは泣き喚く。
トリガー「ゴミはすぐに始末しろ」
ウルフはタイミングを見計らっていた。
その頃。
ルナは詩音を連れて近所に住んでいる知り合いの土佐犬のおばちゃんラムさんを訪れていた。
ラム「あら、可愛いお嬢ちゃんね」
ルナ「ラムさんに迷惑だけど暫く詩音ちゃんの面倒を見てくれないかしら?」
ラム「幸い今は飼い主たちが出かけてるから今なら大丈夫よ。お嬢ちゃんもルナちゃんも可愛いからすぐに飼い主が見つかるわ」
ルナ「私はウルフのものよ」
ラム「恋は盲目ね」
詩音「飼い主?」
ルナ「私たち犬は本来人間に飼われる存在なのよ」
詩音「お姉ちゃんもそうなの?」
ルナ「以前はね。でも彼と出会って厳しい野犬生活を満喫しているの」
ラム「その彼はどうしたの?」
ルナ「多分詩音ちゃんのお兄ちゃんを連れ戻しに行ったと思うわ。レイジって奴に捕まってなきゃいいけど」
?「レイジって盗賊レイジのことか?」
隣家で飼われているイングリッシュスパニエルのアッシュが声をかけてきた。
ラム「何か知ってるの?」
アッシュ「アレは遥か大陸からやって来た盗賊団の首領で女を強奪する極悪犬だ」
ルナ「何でって!」
ルナは居ても立っても居られなかった。
ラム「待ちな」
ラムは首輪を外し、頑丈な鉄の扉を器用に開け放す。
アッシュ「おい!」
ラム「詩音ちゃん、そのレイジって奴の居場所は分かるかい?」
詩音「何となくは……」
ラム「そうかい」
アッシュ「ババァが行ったところで殺されるだけだぞ」
ラム「口だけのアンタに言われたくはないわよ」
その一方。ウルフは古墳内でザックと再び対面する。
ウルフ「ここから逃げるぞ」
ザック「……」
ウルフ「お前にはまだ家族がいるはずだ」
ザックは詩音の顔を思い出すと奮い立つ。
ザック「詩音、お兄ちゃんが守ってあげる!」
2匹は古墳の外に出るとレイジたちに取り囲まれていた。
レイジ「どこの馬の骨かは知らねぇが、殺してやるよ」
その時、ザックはレイジに飛びかかる。
ウルフ「よせ!」
ウルフはザックを救おうとしたが、レイジはザックの頚動脈を斬り裂き、血飛沫をあげる。
ウルフ「小僧!」
トリガー「他所の心配しとらんで自分の心配をせぇ」
トリガーはウルフに踊りかかる。
しかし、ウルフはトリガーの攻撃をかわしてザックを掴み上げると身軽な身体能力を活かして囲いから逃げ出す。
レイジ「捕まえろ!」
ウルフ「小僧。お前を死なせる訳にいかん!」
レイジ「トリガー、二手に分かれて挟み撃ちだ」
トリガー「うっす!」
トリガーたち数匹は林の中を突き進んでいくと目の前にラムが現れる。
トリガー「ババァがそこをどけよ」
ラム「口の利き方に気をつけな」
ラムはトリガーをいとも簡単に捕らえると地面に叩きつける。
モブ「トリガーさん!」
ラムは部下たちを自分に近づけさせないようトリガーを振り回す。
ラム「女だと思ってナメるんじゃないわよ!」
ラムはトリガーを投げ飛ばす。
トリガーは木に頭をぶつけ、気を失う。
モブ「トリガーさん〜!」
モブ「貴様〜!」
ラム「あたしを女だと思って油断したのがいけないわね」
ラムは一向に退く気配を見せずに相手を睨む。
部下たちはその迫力に躊躇してしまう。
ラム「いつまでもブラブラしてんじゃないわよ!」
レイジはウルフを追いかけて岩山に辿り着く。
レイジ「臆病者がどこいった!」
ウルフ「どちらが臆病か?」
既に背後にウルフが身構えていた。
レイジ「何!」
ウルフ「小悪党は死んでいろ」
ウルフは走り出すとそのままレイジを斬り裂き、致命傷を負わせる。
レイジ「ぐわぁ」
モブ「ボス!」
ウルフはレイジの最期を見届けると彼らから姿を眩ます。
後日。
ウルフとルナはこの地を後にし、再び放浪の旅に出る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます