第10話 失敗作の処分法《前編》
そして造った施設を使用して研究を始めて1年ほど経つ、すると必然と言うべきだが失敗作も出てくる。特に薬品などは想定よりも効果が弱い物や強い物、または予定と違う効果の物が出来るようになっていた。
まぁ…薬品段階なら専用の処理室を作っているから、そこで基本焼却処分している。
問題なのは薬品を使ってしまった動植物の処分だ。
「ま~ためんどうな事になったなぁ…」
『本当にね~』
俺とティスの目の前にあるのは、その実験の結果生じた産物だ。
『ギィィィィィィイィィィィイイイイィィ‼‼』
ドーン‼
元は植物のはずなのに甲高い鳴き声のような音を出し、隔離部屋の壁を煩いほどに強化された枝で殴っている。
殴っているという表現になる理由は簡単だ。何が作用したのか、目の前の失敗作は何故か巨大な人型の樹の化物に変化してしまった。いや。マジで何がどうしてこうなったんだろう?好奇心で追加した薬品のどれかが悪かったとは思うんだが、どれだか分らん。
『遺伝子成長薬を追加したのがいけなかったと思うねぇ~あれのせいで無駄に進化が促進してしまった』
「いやいや、だったらお前の追加した【他生物の遺伝子情報】ダメだろ?何の意味があるんだよ」
『ちゃんと意味がある!なんてことあるわけないよね~そんなことわかりきっているだろう?』
どこか小馬鹿にしてくるような笑みを浮かべるティスには2年経ってもイラつくが、一々起こったところで意味がない事も理解している。
まぁ、だからと言ってイラつくものはどうしようもないので隠すようなこともしない。どうせ俺が起こったところで気にする奴でもないしな。
「ひらきなおっても誤魔化せねぇからな?」
『だったら君はどうなんだい?理由は~?』
「そんなの決まってんだろ?」
「『面白そうだから』」
「以外にない」
『だよねぇ~』
そう言ってついティスに向かって軽く笑みを向けている事を自覚する。
結局は似た者同士だから嫌いになりきれない、ってことも怒れない原因なのかもな。
とか考えている間にも失敗作は暴れ続け、隔離部屋を破壊しようとしていた。
「にしても、今回の奴は凶暴だな…なんの生き物の遺伝子情報を入れたんだ?」
『確か…タコかイカだったはずだね~』
「…なぜ、その選択を…」
『いや、枝とかが広がっている所を見ててね。なんかタコみたいだな~と思ったからだねぇ~!』
「まぁ…その連想をする気持ちは分からなくはない」
丸く膨らむような気を見ると確かにタコに見えなくはないと思う。
いや、でもタコの遺伝子情報だけで何で凶暴性が増したのかはよく分からないな。タコって詳しくはないけど獲物以外にはあまり襲い掛かるような生物ってイメージが無い。
「タコって、こんなに凶暴だったか?」
『さぁ~?そこは私も知らないからねぇ…他の薬品とかと何かが作用したんじゃないかね~』
「そんなところか…っと、それよりもいい加減に処分方法決めないとな。こんかいは何処にする?」
『普通に処分するんじゃ、面白くないからねぇ~‼』
そう言って俺とティスは世界地図を表示させる。
もうこの段階まで来たのを誰かが見てたらわかるだろうが、外に放出するのだ。もちろん無策に放出するわけではないので安心してほしい‼って俺は誰に話してるんだよ。
『なにを1人で忙しく顔をうごかしているんだい?頭に不調でも出たのかな??私が見てあげ「絶対にやめろ!」…そこまで強く拒否しなくてもいいと思うんだけどねぇ…』
「どうせ、ついでに~!とか言って変な改造を施すだろうが」
『……それで何処にするか候補はあるのかな?』
「この野郎…ついに否定すらしなくなりやがった」
何かにつけて俺を改造しようとするティスとは似たようなやり取りを、この2年だけでも数十回は確実にやってきた。だからかティスはついに取り繕う事すら止めて、否定はもちろん形だけの謝罪もしなくなった。
まぁ…本人に止めるつもりがない事はわかっているので俺も気にしなくはなってきているが、それでも改造だけは絶対に拒否だ!ティスに自由に改造などさせたら、人間的な部分など完全に残らない気がするからな。
ただ今は関係ない事も事実なので、説教は後にして目の前の議題に戻る事にした。
「最近は日本の関東によく放出していたし、外国か他の地方ってところだな」
『つまり関東除外ってこと以外は何も決まっていないんだね?』
「そうとも言う!海外もいいとは思うけど、そっちには処理屋の手配がまだ間に合ってないところも多いんだよな…」
『あぁ…そう言えばまだ選定していなかったね~』
「さすがに全世界の人間の選考は半年そこらじゃ終わらないから、こればっかりはしかたないけどな…」
悩んでも仕方のない事なのは間違いないのだが、もっと早く終わらせることはできないかと考えてしまう。
だが現在の世界人口は約78億人だとかだ。
その中から俺達の求める基準の人間を各国で最低1~10人は見つけようと思うとどうしても時間が足りない。国によって人口の数も違うし、なにより人数が多くても基準を満たす者がいない場合もあった。
今の作業を始めてまだ半年、更に他の事の方が優先だからな。
最近やっと日本で全地域に1~5人ほど確保できたけど、外国だと大きな国で全体的に10人ちょっと、他の国だとまだ査定中がほとんどで処理屋がいない。
なので対象だけなら数国、その中で問題なく処理できる者がいる場所だけが今回の対象となる。
『これの処理って考えると、5か所くらいかね?』
「そんなところだな理想は周囲に被害が少ない広い土地の所けど、日本だと少ないんだよな…」
『そこを考えると他の国の方がよさそうだが、あっちはあっちで気が付かれるまでに時間が掛かりそうだしね~』
日本は狭いのが問題だが、他の国は広すぎるのが問題ってちょうどいい国土の国無いかな。と言うのは贅沢なうえに失礼な話か、こう…国土全体に適度に人口が分散していて均等な感じだと嬉しい。なんて個人の意見でしかないからな。
「結局は最低限の被害に収めるように細工するしかないか…」
『それで、結局何処にするのかね~?分からないと細工のしようがないよ??』
「わかってる。一先ず今日の所は日本でいいだろ、場所はどこかの廃工場だな…これでいいか」
集まっている情報の中にあった1つの廃工場。
場所は関東の少し田舎よりの場所にあって、周囲にも民家はほぼないような場所だ。それでも人目もあるのですぐに発見されるだろうし、本当に最悪の場合は俺達で情報をリークすればいい。
あんまりやりたくない最後の手段だけどな。
下手に自作自演の発見報告なんてすると勘のいい奴は気が付き始めるし、陰謀論なんかが好きな奴等はこぞって話題にあげるだろうことは想像できるからな。
なんて考えている間に、ティスは次の準備を進めていた。
『場所も決まったのなら、私の方から周辺への思考誘導を開始しておこうか』
「頼む、こっちは放出に向けて準備を始める」
『わかったよ~では、また後でねぇ~』
そう言ってティスは姿を消して実験室には俺1人になる。
「まずは暴れるのやめさせないとな…」
【中和鎮静剤を投入します】
コンソールを操作すると人間の女性のような声が聞こえ、暴れている植物の部屋に大量の緑色の霧状の物が投入される。
その霧に触れた失敗作は振り払うように暴れていたが徐々に大人しくなり、数分後には全く動かなくなった。
あの霧は薬品全般への中和効果を持つ【万能中和剤】と俺が勝手に呼んでいる物だ。現在のところ地球の薬剤なら大半の物が完全に中和できているので効果は絶大と言っていいだろう。
さらに生物や植物などに使用すると細胞の働きを鎮静させることができるのだ。
なので、こうして失敗作が暴れたりした時にはよく使用している。
「これでひとまずは良いとして、後は適当な性格を…」
動かなくしてからは演出のための小細工の時間だ。
いくつか種類を用意している性格モジュールの中から、よさげな物を選んで流し込む。
例えば今回の奴には傲慢な自尊心の強いタイプの性格だな。
この性格モジュールを流し込まれた物は、例え生物でなくとも言語を交わすことが可能となる。なので今回の奴は凶暴で暴れてばかり、そこに傲慢な性格にしてやれば死ぬほど嫌われるタイプの奴になるのではないかと思うんだよ。
そうすれば処理屋の連中も気持ちよく倒せるだろうしな。
「あとは植物状態でただ暴れてもつまらないから、適当なデフォルトの造形データを合わせて外見情報を…」
合わせて外見も整える。
これは遺伝子に『元々そう言う見た目だったよ~』と記憶させ、外からある程度形を整えて固定してやるだけだ。念のためナノマシンなどを使用して変な反応が起きないように抑制、不足している物質の外部からの投与、まだ切れないように抑制剤も随時追加だ。
処理屋に向かわせるまでにこれらを終わらせる必要が…
「………めんどくせぇ!!!!!」
果てしなくめんどくさい!必要な作業だってのはわかってるんだよ。
すでに何度となくやってきている事ではあるんだけれど、最初は面白かったよ?ゲームのキャラクリしてる感じに近かったからな。しかも悪役を自分で好きに創れるとか新鮮だったからな。
でも、やる事が多すぎるし計算が面倒なんだよ。
遺伝子変更で起きるリスクをなくすために必要なナノマシンと薬品などの必要量のリスト化、変更する人格モジュールの内容作成、外観を統一感持たせながらオリジナル感を持たせるなどなど…もう本当にこまごまとしたことが多すぎて疲れる。
「はぁ……ま、面白い物を見るためだから頑張るかぁ…」
本当にめんどくさくて仕方がないけれど、なんとか実現した処理方法は我慢してやるだけの価値があるほど面白い。
だから何とか、本当にっ!何とかかろうじて頑張る事が出来ている。
「今日の晩飯、少し豪華なのにしようかな…豪褒美に」
そうやって適当に今日の晩飯の内容なんかを考えながら作業を進め、昼過ぎにはすべての準備が完了した。
同時にティスも戻ってきた。ニヤニヤと楽しそうに笑みを浮かべているのが癪に障るが、もう気にならなくなっている事を自覚して少し嫌になる。
『思考誘導終わったよ~』
「それじゃ…転送するか。処理屋への情報伝達頼む」
『そちらもすでに問題なく準備できているよ』
「じゃ、始めるとするか」
もう事前にやるべきことは終わった。
あとは転送してしまえば俺やティスが直接何かする必要はもうない。
「さぁ…後は楽しませてもらおう」
マッドサイエンティストの継承者!退屈は大っ嫌い‼ ナイム @goahiodeh7283hs
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