第9話 2年の変化
そしてティスと別れたあの日から2年の月日が流れた。
もし俺達を見ていて急に時間が飛んで驚く者も居るかもしれないが、そんなものだと諦めろ。
代わりに2年の間に起きた事を大まかに説明しよう。
まず現在の俺は親との約束である目標の高校に入学を果たして2年生まで進級している。友人関係は特に可もなく不可もなくだな。
何かの物語のように絶世の美少女と知り合いに⁉みたいなことはなく退屈なまでの日常だ。一応は美少女はいるらしいが興味もないので名前も知らない。
部活も美術部に所属はしているが完全な幽霊部員だ。
ちなみに高校に進学すると同時に1人暮らしを始めた。
理由としては高校合格と同じくして、両親に栄転が決まって急に海外へ行くことが決まってしまったのだ。まぁ…ようするに実家暮らしだと動きにくいからティスと協力して、ちょっと細工したんだけどな。
そして俺は『せっかく合格したのにもったいない』と言って1人暮らしを許可してもらった。もちろん理由の補填として親の出世による給与の大幅アップも後押ししたのは間違いない。
生活費は基本は仕送りでバイトは禁止されてはいないけど、夜はダメだと言われているので土日のみしか働けない。もちろん最近の少子高齢化で若い働き手の欲しい世の中なら採用されはすると思うが、それだと自由な時間が減ってしまうので本命の退屈撲滅が怠ってはいけない。
という事で、バイトはしていないが遊びには十分な資金は存在する。
2年前に資金運用して増やすようティスに頼んだあれは、すでに数十倍では効かないレベルで増えていた。
ティス曰く『私以上に数値の変化を正確に予測できる存在が地球に居るとでも?』だそうだ。
確かにティス自身が天才という事もあるが、電子生命となっている今は研究施設内の現在でいう量子コンピューター、それ以上の性能を持つ機械を自分の体かのように自由に使える。それを使って世界中の金の動きを演算して取引しているのだ。
もはや一種のチートである。
それでも当初の予想をはるかに上回る資金を獲得できたのは間違いないので文句は言わない事にした。実際問題として別に違法な操作などはしていないから文句も何もないのだが、単純に予測演算による結果に過ぎないからな。
この方法がバレれば新たに違法とされる可能性は高いけど、現代の技術で発見する事は不可能だからな。
そして予定よりも半年以上早く資金が集まったことで俺達は予定を少し繰り上げた。まず最初にしたの表向き代表役の人造生命『日村 奈々』の経歴の偽装を終わらせ、ちょっとした会社を起業した。
業務内容としては人工栽培の食品生産と研究という事にしてある。
現代だと少なくない挑戦である事もあって、大きく注目されることなく起業は成功。会社の場所は山奥の廃校になった小学校を購入して土地と建物を確保、実際に働く社員として極貧状態になっている研究所などから買収や懐柔で増やした。
特に今回は植物系の学者に限定して、今後の食糧問題解決の為!と言ったような言葉も使って集めた。
そこから半年が更に経過すると人工栽培の野菜の安定供給ができるほどになった。味すら追及して作るように言ったし、数人にはこっそり眠っている内に植物系の知識を断片的に強制インストールさせたので現代では思いつかないようなアイディアが次々に出てきた結果とも言える。
おかげで数量限定ではあるが高級店などに卸しており、そこそこの収益を達成した。だが変に目立ちすぎても良くないので事業拡大などは『最適な土地が見つからない』など色々な理由を用意して遅らせている。
正直、下手に手広くやって利益を出すためにやっているわけではないから今の規模でも困らないのだ。
むしろ短期間で大規模に事業拡大などしてしまっては目立ちすぎる。
今やっている会社は結局のところは隠れ蓑でしかない。
想定よりも上手くいきすぎて、すでにかなり目立ってしまっている。
と言うか、奈々の年齢を見た目的に違和感のない24歳としたことで、若き事業家!などと雑誌などに載ってしまってからテレビなどからも取材の申し入れが数件だが来ていた。
今のところは『予定がいっぱいで取材に応じる余裕はない!』と言っているが、正直いつまでもつのか分かったものじゃない。
だから本当に忙しくなるように今度は海辺に海産物の養殖研究施設を建設予定だ。土地の選定や周辺の自治体への根回し、どのような海産物を養殖するかなどを調べるために奈々は日本各地の海辺の街々を廻り、時には小さな孤島になどにも行って東京に居るのは一か月の内で1週間ほどしかないほどになっている。
人造生命なので月に数回ほど機械に入って調整する事で疲労の蓄積も、多少の病気や怪我も完治する。なので動けているが常人なら、すでに体調に変調をきたすレベルの労働をさせてしまっている。
ちょっと申し訳なく思っていたのだけど、久々に会った時に仕事減らすか?って聞いたら。
『いえ、お気になさらないでください!主様方のお役に立てる事が幸せなのです‼』
なんて満面の笑顔で言われては引き下がるしかなかった。
しかし急な不調などがあっては調整も間に合わないので、折衷案として定期的に休暇として月に2日ほど調整を受けるように言うことができた。ちなみに何故に2日なのかと言うと、これ以上の日数はどんなに言っても泣きそうな顔で拒否された。
あんな表情を女性にされると弱いんだよな…知らない奴なら気にならないけど、ここまで接してると情もわいてくる。
なので、この要望だけは何とか飲んでもらった。
そしてここまではあくまでも2年の間に合った表に影響のある工作の数々だ。
俺とティスの本来の目的『退屈の撲滅』のために本当に力を入れて行ってきたのは、奈々に任せている企業の地下だ。
田舎に在ったティスの研究室はそのまま保全し続けて、その地下に新たに研究施設を建設した。ただ現代技術では俺やティスの求める設備なんて作れるわけもないし、なにより下手に現代社会にも被害が出るかもしれない研究内容を人に知られるわけにはいかないからな。
「今日は、この前の続きだな」
そして今日も学校から帰ると自分の部屋にクローゼットに偽装してある転送装置に乗って、地下の研究施設へ直接向かう。研究施設が出来てからは毎日のように通っている。
『そうだねぇ~と言うか、甲…君も学業とよく両立させて毎日のように続けられるね~』
そんな俺を見て後ろから急に現れたティスが感心したような、どこか呆れているような感じで笑みを浮かべていた。
「毎日同じことを言う、ティスの方に俺は驚きだよ。っと、この変化は良いんじゃないか?」
『どれどれ、私にも見せてほしいね~』
いつも繰り返ししている会話には俺もティスも興味は薄く、目の前の実験中の機械の反応の方にそろって移る。
現在やっているのは上の会社でやっているような食品だけではなく、あらゆる植物への成長誘発剤だ。元々はティスの時代には在った薬品だが現代の空気や気温や植物に適応して、更には現代にある素材で作れるようにと開発を進めている。
「数値的には23と31が良好。他は変化が小さいか激しすぎるな」
『確かに…でも、13と40も反応としては面白いんじゃないかと私は思うねぇ』
「13と40……これは確かに面白いな。でも、安定性が乱れた時の処理が面倒だな…」
『そこ気にしてたら実験なんてできないよ~?一先ずやってみないとねぇ!』
「…それもそうだな!だったら、他を廃棄して13・23・31・40と同じ構成で20個ずつ進めるか」
やる事は決まったので、13・23・31・40以外を破棄して新しく植物を用意する。
用意した植物を先ほどの4つと同じ組成の薬品を4分割した範囲ごとに
振り分けていく。
これら全部が入力しただけで簡単にできるんだからすさまじい技術だと毎回感心させられる。
「今回の内容的に成長は1週間と言うところか?」
『そうだねぇ~異常が無ければ1週間で変化が出るはずだよ』
「なら、今日はひとまず記録を付けて終わりにするか」
俺が関わっている実験はこれだけなので結果が出るまではそこまでやる事もないから、早々に切り上げて普通に学校の課題などを片付ける事にした。
まぁ…これが2年経った今の俺の生活だった。
マッドサイエンティストの継承者!退屈は大っ嫌い‼ ナイム @goahiodeh7283hs
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