第8話 退屈撲滅機関(仮)結成!


 長時間にわたってティスと話し合っていた結果として帰りが少し遅くなってしまい、祖父母に盛大に心配されて軽く説教されてしまった。しかも親に昨日の地震や帰りが遅くなった話などをしてしまったらしく、今年は『静かな場所で勉強もできる』と言う事もあって、受験間近でも田舎の方まで来ることを許可してもらっていた。


 なのに遅くまで山に行っていることがバレて説教された。

 更には祖父母に勉強しているか確認してもらうと言われてしまって、実際に勉強の成果として持ってきた問題集やノートが進んでいるかを確認されるようになってしまった。

 そのせいでティスとの話し合いが頻繁にできなくなってしまった。


 なんとか話し合いを続けるため、正直あんまりやりたくはなかったけどティスとの秘匿通信網を作った。短時間で作り上げるのは俺とティスが協力する事で実現したけど、まだ知識を使い熟すのに苦労している俺には大変な作業だった。

 しかも、これで考えていたティスからの連絡を断る方法が幾つか使えなくなった。


 ついでにバレないように小型のインカムも作って受け取り、それで通信しながら受験勉強を終わらせていった。残りの田舎に居られる期間で山に行けたのは、たったの3回だけだ。

 おかげで奈々に常識を教えている場所を見れていないので変なこと教えていないか不安で仕方ない。


 そして夏休みが終わる一週間前、新学期の準備もあるから明日には帰らないといけない。


「という事で、しばらく顔を出せないから。最後の話し合いに来たぞ」


『君も忙しいんだね~』


「学生は基本暇なしだよ。それでも変わり映えのしない日常ってのは退屈で仕方ないけどな」


『だからこその私の継承者なんだよ』


「その話はいいから、今後の話だ‼」


 何故か誇らしげに見てくるティスに恥ずかしく感じて強引に本題に戻す。

 でも、終始ティスはどこか楽しそうにニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「まず俺がいない間の動きだけど、前にも言った通り最優先は奈々の教育」


『わかっているよ。それができないと話が進まないからね~』


 これだけは決まっている事だ。

 現代で大きくお金などを動かすなら怪しまれないように会社などとして動いた方がいいけども、俺は学生でティスは体すらない電子生命体…どう考えても無理がある。

 青年実業家とかもいるし俺がやれない事はないだろうけど、さすがに目立ちすぎる。ティスの知識を再現するなら莫大な資金と資材が必要と成るからな。


 それを若すぎる社長の会社が動かしたら悪目立ちもいいところという事だ。


『少し気にしすぎだと私は思うけどね』


「だから現代をわかってないって言ってんだよ。なにより俺は目立ちたくない」


『それだけの才能があってもったいない。やっぱり君もどこかずれてるね~』


「はいはい、余計なお世話だよ。という事で奈々の教育だけど、逐一状況を報告してくれ。ティスだけに任せたら何をやるか分かったものじゃないからな」


『わかっているよ。さすがに私も教育なんてしたことないしね』


 確かに引き継いだ記憶の中にもだいぶ整理が進んだが、誰かに何かを教えると言ったことをしていた事は一度としてない。そして俺も別に誰かに教えるという事は経験皆無だ。

 それでもティスに任せるよりは幾分かましだ。


 同じことを思っているからこそティスも文句の一つも言うことなく受け入れている。


「なら次だな。資金の方は問題なく集まりそうなんだよな?」


『そうだね~まずまずってところかな。怪しくないように細々とやっているからね。でも、君が安定して参加できるようになる頃には間に合うように予定を組んでいるよ』


「そう言う事ならいい」


 正直に言ってしまえば投資とかはよく分からないからティスに任せるのが一番だろう。俺が運用したところで欲をかいて損しそうな気がするからな。

 でも、変に放っておいていいのか?と言う不安は常にあるけどね。何かにつけて定期的に確認すれば、別にそれでいいだろう。


「…後は会社を設立する時に用意する土地は俺も探すけど、ティスの方でも目星を付けておいてくれ」


『なにか条件はあるかい?』


「だいたい2つかな。1つは広い土地である事、もう1つは地下の開発が可能なことだな」


『なるほど…いっそ適度な島でも勝ってしまうほうが早いかもしれないね』


「それでもいいけど不便だろ。なら会社用と開発用で二つの土地を用意して、開発用は島にするかだな」


『なるほど、それも目立つとは思うけど名義を上手く偽装すればいいかね?』


「そうするしかない時の最後の手段だけどな。最初は普通に探してみてくれ」


『わかった。では、その条件で探してみよう』


 ティスは納得したようだったが、まだまだ足りないと思っている。

 土地は会社用の表の建物と裏の研究施設が必要だから、普通なら二か所にしてもいいんだけどな。やっぱり地下なんかの人目に付かないし侵入も難しい地下に造りたいと思っている。

 だが他にも交通の効率とかも考えなくて決めたいところでもあるんだ。


 でも、そこまで条件を付けたしたら見つからない可能性が高すぎるからな。

 ゆえに今回の伝えた条件は最低限の妥協できる内容にしてある。


「そして一番の問題だけど…社名、どうする?」


『別に適当に社長役の奈々の苗字?の日村なんとかって付ければいいんじゃないのかい?』


「それでもいいけど、まずは何をやる会社か決めないとか」


『確かにそうだね。主に何をやる会社にするつもりなんだい?』


「そこも悩みどころなんだよなぁ…」


 会社と言う体裁をとる以上は『何をやる会社なのか』それを明確にしないといけない。でも、俺達の根本的な目的は『退屈を排除するため』である。

 そのための研究の隠れ蓑的な意味合いが大きいから会社の目的という物を完全に考えていなかった。


「研究資材なんかの隠蔽って考えると、薬品関係になるだろうな」


『だとすると製薬会社かい?』


「いや~今から製薬会社を作るのは難しい気もするし、複合的な会社とするのが一番だろうな」


『だとすると…』


 と言った感じで俺とティスで長時間にわたって話し合い続けた。

 でも、想定以上に難しい問題だった。


 現存の会社とはどうしても被るため新規で入るには目立ちすぎる。

 ちょっとだけ目立つのは仕方ないと諦めてきてはいるけど、それでも現代の地球の技術力と勝負したら絶対に俺達が勝ってしまう。すると今ある企業のいくつかは潰れてしまうかもしれない。

 それは少し不味い気がする…でも、これはきっと俺の数少ない常識感の問題でしかないんだろうな。


「ひとまずは期間がある事だしゆっくり考えよう」


『そうだね。だいたいの路線としては研究開発系の会社ってことで固まってはいるからね~』


「あぁ…でも、今後動くときに名称あった方が便利は便利か」


『では会社名ではないけど【退屈撲滅機関】ってことにしよう!』


「なんで機関?」


 会社とか集団の名称を話し合っていたはずなのに、急に悪の組織じみた名称を付けられてしまった。いや、本当になんでそんな名称に成ったのかが分からない。

 しかもティスは何故か自信満々な表情で胸を張っているしな。


「説明してくんない?」


『?何を言っているんだい。安寧の世の中が退屈で、その退屈を壊そうというのなら悪者そのものだろう』


「………確かに」


 言われてみると悪の組織っていうのが間違いだと思えなくなってきていた。

 なにより俺も退屈の撲滅と言って考えていた方法は3分の1は法的にはグレーかアウトなものばかりだ。別に犯罪者に成りたいわけではない、でも必要な要素なんかを考えていくとどうしてもそこは破らなくてはいけない時が来る。

 そして俺は躊躇する気持ちが欠片もない。


 正確には人命への被害は出ないように細工はする予定だ。

 でも、建物なんかは少し犠牲になるかもしれないけど許容範囲だ。なんてことを考えている時点で俺はやっぱり善人ではないんだろうな。


「わかった。仮称はそれでいい」


『では『退屈撲滅機関』結成だね‼』


「あくまで【仮】だからな!後でもっとましな名称付けるからな⁉」


『そこまで嫌がられると、さすがの私も少しは傷つくよ?』


 念を押すように言うとティスはわざとらしくホログラムなのに目に涙すら浮かべて傷ついているように見せた。そんなもの記憶を引き継いでる俺には意味がないと分かっているのに遊びが過ぎる。


「嘘つけ…自分のネーミングセンスが壊滅的なの理解しているくせに」


『…ははは!まぁね~昔から何かに私が名前を付けると、絶対に気が付いたら別の名前が付けられて普及していたからね。しかも権利は私のままだから窃盗などでもない、本当に名前が悪すぎて帰られただけだったんだよね!何度思い出しても凄い理由だと思わないかい?』


「あぁ…そんなあほらしい理由で人が動いてしまうのは凄いと思うよ…」


 なんでティスは天才なのに喋らせると残念感が増していくんだろう。

 少し疲れてしまったが気にするだけ無駄だと自分に言い聞かせる。


「はぁ…とにかく動き出すのは二年後だから、それまでは慎重に準備をしてくれ。最低でも月一で俺も話し合いをできるようにするから、そっちも何か起こったら連絡してくれ」


『わかった。なら、私も頑張って資金を増やすとしよう』


「大人しくそうしてくれ。それじゃ直に会うのは来年になるとは思う」


『では、それまでには最低でも10倍にはしておこう』


「無理だけはしないでくれよ?じゃ、また」


『また』


 片手を上げるだけの軽い挨拶で俺とティスは分かれる。

 途中のガラス張りの部屋ではネットのマナー講座の絵一増を見て勉強する奈々の姿も見えたが、真剣に集中しているようだから声をかけるのはやめた。

 そして祖父母の家に戻った俺は帰宅の準備をして、翌日の早朝に帰路に就いた。






 


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マッドサイエンティストの継承者!退屈は大っ嫌い‼ ナイム @goahiodeh7283hs

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