第4話


 とはいえ。楽しい時間はあっという間に過ぎた。もちろんウィリアムの体に居続けるわけにはいかず、名残惜しいけれど元の世界に戻されたのだ。別れ際、微笑みながら手を振ったネールの姿がなんとなく印象深かった。もっと珍しいものを魔法の国で見てきたというのに、変な感じ。

 目を開けるとちょうど太陽が沈み切るところで、僕の部屋は薄暗かった。向こうで何時間も過ごしたはずなのに、こちらではそんなに時間が進んでいない。もしかすると夢だったのかもしれないなと、沈んでいく太陽をしばらく眺めていた。

 こちらの世界の僕は、いつもと変わらない。背も小さいし、制服もダボダボのままだ。それでも、大きな岩をぶら下げているみたいに重かった心がスッキリしている。僕はあのかっこいい姿で堂々と無罪を主張し、真犯人をあぶり出した。僕が成し遂げたのだ。なんだかまた力が湧いて、ベッドから起き上がる。明日の学校の準備をしなくちゃいけない。


「よし」


 ネールと握手した手を何度か閉じたり開いたりする。今までの僕じゃないみたいだった。大きく息を吸い込み、部屋を飛び出した。


 はずだった。


「痛い!」


 部屋を出た途端、見えない壁に頭をぶつけた……と思いきや、気づけば僕の体は床に倒れていた。部屋中がガタガタと激しく動いて、そのせいで何度も頭を床にぶつける。いや、ここは。厳密にいえば、ここは


「ネール?!」


 彼女の名を叫ぶ。彼女の仕業だとすぐに分かったからだ。僕はまたウィリアムになっていた。

 そこは薄暗くて狭い箱のような部屋だった。いるのは僕だけで、辺りを見渡す間も部屋はガタガタと暴れまくっている。


『ちょっと! ユート、またあなたなのね?!』

「え?! きみ、どこにいるの?」

『そこにはいないわ! 馬車に乗せられて誘拐されてるあなたを追ってるところ! 魔法であなたの頭の中に話しかけてるの!』

「そんなことできたの? 前のときもやってほしかったな! というか、誘拐?!」

『あれはアドリブだから良かったの。そんなことより、またあなたを召喚してしまった以上、協力してもらうしかないわね』

「どういう……ぐぅっ」


 ガタガタ揺れるせいで舌を噛んでしまった。痛みにもがいていると、またネールの声が響いてくる。


『いまあなたは誘拐されてる。これから私と協力して誘拐犯を捕まえるのよ!』


 殺人未遂の次は誘拐だって? 信じられない。でも、もっと信じられないのは、また魔法の国に来られてワクワクしている僕自身だ。


「分かった! やろう!」


 僕は大きな声でそう言った。今度もきっと乗り越えられる。ネールの存在を近くに感じながら、僕は挑むように唇を舐めた。



〈完〉

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フェニックス家の魔術師 ふるやまさ @mi_tchi

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