第13話


「失礼を承知で尋ねる。日向殿は女人ではないのか?」

「女人では神職にはなれませぬ、山にも住めませぬ…と言われております」

と、日向は笑って言葉をにごしつつ言った。

太明もただ、そうか、と頷いた。


今の日向の姿は、周囲から切り取られたような奇妙な存在には見えなかった。

日向は太明を見送るために外へ出た。

「ここから、どこへ行くおつもりか」

「決めてはおらぬが…。本当に山伏となるもの悪くないと思っている」

そのため、山伏の修験道に向かおうかと考えている、ここからならば、さほど遠くもあるまい、と言う。

「そうですか…」


太明はふと気付いたように、背にしていた厨子を下ろした。

「この厨子の中身は、何であろうか…。今の今まで見ていなかった」

「開けて見ても宜しいですか」

太明が頷いたので、日向は厨子を開けた。


中には木彫りの不動明王が一体。不動明王は蔵王菩薩と並び、山伏たちが、祈る対象としている御仏である。


この不動明王は、太明が剥ぎ取った衣装の元の持ち主が彫った物なのだろうか。見事な彫りとは言わないまでにも、稚拙でもない出来栄えであった。


「これは、ここへ置いて行って良いだろうか」

やしろに、不動明王か…」

 日向はおかしそうに笑った。

そして、なるほど、此処ここにはそれも相応しいかもしれない、と一人ごちる。


「……修行が終わった後、時々は立ち寄っても良いでしょうか」

太明の言葉に、日向は、ええ、と頷く。

「何でしたら、ここでお務めしてくださっても構いませぬよ」

という日向の言葉に、お社に修験者が務めるのか、とそっと笑いそのまま背を向けた。

立ち去るその太明の背に、日向もやはり黙ったままゆっくりと、腰を折り、深く礼をした。


生い茂る木で昼でも尚薄暗い山の獣道。

それでも、太明の行く先にも、日向の上にも、わずかに陽光がやわらかく降り注いでいた。




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これにて終わりです。

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山中邂逅譚 茶ヤマ @ukifune

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