第6話 逃走って何の話だ
「………………………………」
ルシオラが部屋から消えて、周囲が一気に静かになった。
「さて……」
つぶやいた俺の声が、何もない部屋の中に響く。
残った金貨の布の袋をふる。まだまだたくさんの金貨が詰まっている布の袋は、ずっしりと重たかった。しかし、これでは俺の罰金には足りない。
「やっちゃったなぁ……」
頭を抱えた。
でも、しかたない。
他に、ルシオラの妹を助ける方法が、バカな俺には思いつかなかったのだから。
罰金の支払期日までは4日ある。
みんなにも相談して、なんとか考えてみよう。
そう、考えていた。すると――。
――ドンッ、と。
突然、鼓膜をつんざく大きな音とともに、ドアが蹴り開けられた。
そして、開いたドアから鎧で完全武装した3人の衛兵が、部屋の中になだれ込んできた。
「な、なんだ!?」
驚いて、俺は立ち上がる。
衛兵たちの背後から更にもう1人。
守られるようにして、装飾の施された見るからに高そうな鎧を着た少女が部屋に入ってきた。
「アルマ ローゼンだな」
俺をにらみ、少女が言い放つ。
「脱税による罰金を徴収する。金貨20枚だ。今すぐ支払え。できないならば、この場で拘束させてもらう」
衛兵たちに取り囲まれながら、正面に立つ少女に目を向けた。
面識はないが、バカな俺でも少女の名前ぐらいは知っていた。
エスメラルダ ロイソレイル。この王国の王位継承権を持つ王女だ。
肌の若々しさとは裏腹に、迫力のある視線で俺を威圧しながら、エスメラルダは言った。
「お前が逃走を企てていると、タレコミがあった。罰金が支払えるなら、今すぐ支払ってもらおう。できなければ3分で身支度を整えろ。この場で拘束する」
「待ってくれ。逃走って何の話だ」
「言い訳は無用だ。罰金が払えないなら、王族の名において、お前をこの場で拘束する。これは法律に基づいた決定であり、王族が犯罪者を拘束するのに理由は不要である」
有無を言わせぬ物言いだった。
「この場での発言はすべて記録されている。下手な嘘は自分のクビをしめることになると覚えておけ」
エスメラルダの隣の衛兵が、小さな魔法陣を展開していた。
おそらく、音声を記録する魔術を発動させているのだろう。
「それで、罰金は払えるのか?」
「…………」
エスメラルダに問い詰められ、俺は黙って、布の袋を差し出す。
衛兵がひとり前に出て、布の袋受け取った。
衛兵が布の袋をのぞきこみ、中身を確認する。
「金貨のようです……」
「ほう。殊勝にも罰金を支払う準備はできていたということか」
鼻を鳴らしたエルメラルダに、俺は答える。
「数えてないけど、何枚か金貨が足りないはずだ……」
「そうか。ならば、お前はこの瞬間から奴隷だ。連行する。3分で身支度を整えろ」
「待ってくれっ。そんな――、っ」
ゴッ――。
突如、小さな拳に、顔面を殴られた。
エスメラルダに殴られたのだ。
鎧で包まれた小さな拳は、鈍器のような鉄拳で、俺の唇を小さくえぐった。
「犯罪者の言い訳など耳をかす必要はない。連れて行け」
俺は両腕を衛兵に抱えられ、部屋の外へと引きずり出されていった。
パーティリーダー、パーティ追放 清永 和日郎 @kiyonaga_kazuhiro
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