044 「だから魔女は廃れてきてるのよ」

「ありがとうございましたー」


 レジを後にしつつ、私は袋をかしゃかしゃさせた。

 スーパーのレジ袋とは違う、本屋さんのつるつるした袋。

 ノートを買っただけなのに、ちょっぴりわくわくしてくる。文庫本、買ってもよかったかな?


 いや駄目だな。

 ダルダルも行ったし、お小遣いは節約しないと。

 ぶる、と私は首を振って――――。


「――――?」

 

 小銭が落ちる音で振り返った。


「……おっと、悪いねぇ」


 隣のレジに並んでたおじいさんが謝りながら、しゃがもうとしている。あちゃ、結構落ちちゃってる。

 よーし。

 

「あ、私拾いますから、おじいさんそのままで大丈夫ですよ! しゃがむの大変でしょう?」


「おぉ……? すまないねお嬢さん、ありがとう」 


「いえいえ、はいっ! これで全部です!」


 不思議な高揚感に身を任せて、シュバババっと手を動かす。

 とりあえずトレーに載せて、ではこれで!

 フッ。魔女はクールに去るぜ。






 外に出たら、もう空は夕焼けに染まっていた。

 ぐるぐる巻きのチェーンを外して、柄に袋を引っかけて、私は箒を握りしめる。

 そういえば、「アン王女の復讐号」って名前はボツにした。可愛くないから。


 歩いてる人はまばらだけど、一応見回して安全確認。

 ――進路クリア! たわしを連れた美少女もなし!

 駐車場を横目にたたたと走って、浮いた箒にぴょんと跨る。

 少し高度を上げて、ゆっくりと旋回して……おや?


 眼下、ちょうど出てきた二つの人影。

 ぬいぐるみと女の子と、大人の男の人。

 

「――みのりちゃん……? よかった、お父さんと会えたんだ!」


 思わずほぅ、とため息が出る。

 冷たい風にも関わらず、それはちょっぴり暖かかった。






 家に着いて、手を洗ってうがいをして。

 あ、アルコール消毒もだった……よし。

 部屋の引き出しに入れていた、魔女修行スタンプカードを取り出す。

 今日も本当は持っていくつもりだったんだけど、忘れちゃったんだよね。

 そうすればすぐに確認できたんだけどな。


「でもでも、みのりちゃんといいおじいさんといい、今日はいいこといっぱい出来たし! 達成間違いないでしょっ」


 ぱらっと開いて見たら。


 

 ( ) 人助け(魔法を使用すること)



「え、なんで達成してな――あっ……」


 言ってる途中で気付いた。思わず頭を抱えた。

 括弧の中の一文。

 魔法を使用すること。


 ――魔法、使ってないじゃん……。


 うわまじかー……これじゃただいいことしただけだ。

 いや、私的には全然いいんだけど、自分勝手な魔女らしくはないよね……? わたし魔女向いてないんじゃ?


「…………でも、ノートは買えたし。目的は達成したよねっ!」


 切り替え切り替え。買いたいものはちゃんと買え――。


 ――あっ……シャー芯忘れてるじゃん……。


「………………だるぅ」


 思わずぶぅ、とぼやきが漏れた。

 もちろん暖かくなんてなかった。






 夜ご飯の席で、とりあえずママに報告。

 うそ、報告というより文句だけど!

 

「――だから正直ね、魔法なんて使わなくても人助けって出来ちゃうわけなの! むしろ使うことなんてあまりなくない?」


「そうよ? だから魔法は廃れてきてるのよ」


 すました顔でそんなことを言ってのけるママ。


 ……それってどうなのよ。

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魔女でもわかるスクールライフ 中学生編 〜オトナ魔女になるための10のレッスン〜 そらいろきいろ@魔女コメディ連載中 @kiki_kiiro

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