043 「最近の子は、思想強いわねぇ」

 エスカレーターを降りて、一階へ。

 みのりちゃんの手を引きながら、iマークが目立つカウンターに向かう。


「――――すいません」


「はい、いかがしましたか?」


「ええと、この子が迷子になっちゃったみたいで……お父さんと来てたみたいなんですけど」


「あらあら……! どうもありがとうございます、それではこちらで対応致しますね」


 さらりとした身のこなしで、すぐに出てくるスタッフさん。

 優雅だ……!


「――怪我とかしてないかな? 具合悪いところとかある?」


「だいじょうぶ! りずおねえさんがいっしょにいてくれたから!」


「あらあら、それはよかった! ――お姉さんも、改めてありがとうございます。すぐに放送をかけますので、ご安心ください」


「助かります! それじゃ、私はこれで……」


 軽く頭を下げてから、みのりちゃんにばいばい、と手を振る。

 弾けるような笑顔で、ぶんぶんと振り返してくれるみのりちゃん。

 両手を大きく振って――待って待ってぬいぐるみ!

 記念艦三笠……ちゃんの手が取れちゃうっ!


「ありがとっ、まじょのりずおねえさーんっ!」

「あら、お姉さん魔女なんですか……?」


「あっ、あー……失礼しまーすっ!」


 私はそそくさと逃げ出した。

 三笠ちゃんの腕はかろうじて無事のようだった。






「うーん……いつものでいっか?」


 三階に戻って、本屋さんの文具コーナー。

 いろんなメーカーのノートがあるけど、マスのデザインが使いやすいから、私はだいたい同じシリーズを使っている。

 五冊入りでちょっとお得なのもいい。

 自信を持っておすすめできるよ。

 

 だけど今日は、新しいバリエーションが増えていた。

 いつものシンプルな五色セットの他に、チェックや水玉の模様セット。

 そしてちょっぴりファンシーなキャラクターとのコラボセットだ。


「……たまには違うやつを買うのもいいかも」


 人生、何事も挑戦だものね!

 キャラものってあまり持ってないし、ナオに笑われちゃうかな。いや、ナオはそんなことしないか。

 ファンシーなセットを手に取ったちょうどその時。


 ピンポンパンポン、とアナウンスが鳴った。 


 《――ご来店中のお客様に、迷子のお知らせを致します》


 《デニムのオーバーオールに茶色の靴をお召しになった五歳くらいのお子様が、記念艦三笠と共にお連れ様をお待ちです》


「ぬいぐるみの名前まで言うんだ」


 そのせいでなんだかラスボス感出てる……。

 

《お心当たりの方は一階インフォメーションカウンターまでお越しくださいませ――――皇国こーこく興廃こっはい一戦いっせぇ在リあい各員かっきん一層いっそー奮励ふっれー努力どりょくセョそよ


 ――――――??????


 小さな激励みたいの聞こえ……あ、みのりちゃんの声か?

 マイクが拾っちゃったんだろう。

 小さな子の声ってよく通っちゃうし。


「最近の子は、思想強いわねぇ……」


 後ろを通ったマダムが、そんなことをぼやいていった。


 ――――多分、意味とか知らないで言ってるだけだと思います……。

 私も意味知らないけど……。

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