第5話「学校での撮影はやめようね?」

 学校での昼休み、穏やかに流れる時間が俺の心を休めてくれ……


「お兄ちゃん! 良い感じの映える場所ってどこでしょうか?」


 どうやら平穏は俺の事が嫌いらしい。


「おっ! また斑鳩いかる妹が何か始めたみたいだぞ?」

「この前は同人誌だったっけ?」

「ギターじゃなかったか?」

「普通にゲーム実況だったろ?」


 錯綜する情報、クラスメイトたちの中では美月の奇行は慣れっこらしい。出来ればそんなものに慣れないで欲しいなあ! それと『普通に』ゲーム実況ってなんだよ!? 俺は聞いたこともないし普通ってなんだよ? 基準がさっぱり分からんな。


 俺と同じクラスのせいで平気で名誉に関わるような質問をしてくる。というか同人誌を作ろうとしたことがあるのか? あの倫理観でだぞ!? なんだか公式に問い合わせてお断りをされてそうだな。


「ねえねえ! お兄ちゃん的にはいいねがたくさん付きそうなものはありませんか?」


「お前はいいね中毒かよ! 承認欲求のジャンキーもそこまで行くと清々しいな!」


「そんな誉めないでくださいよ、照れるじゃないですか」


「俺の今の言葉のどこに誉める要素を見出したのかな? 映える写真を撮る前に現代文の授業を真面目に受けた方がいいんじゃないか」


 嫌味が通じないのは強い。メンタルが鋼どころかオリハルコンじゃねえか……勝てねえよ……妹の承認欲求には勝てねえな。


 我が妹の自由さにあきれながらも心のどこかで『もう好きにすれば良いんじゃないかな?』という意志が鎌首をもたげてきた。ただし本当に自由にさせると俺に実害がおよぶことは間違いないのでそんなことをさせるわけにはいかないのだがな。


「私とお兄ちゃんのツーショットを載せたら『この美少女は誰だ!?』ってなりませんかね?」


「その自己評価の高さは驚きだよ……俺からすればとても正気の沙汰だとは思えないくらいファンタスティックな考え方だよ」


「いやーさすが私! 天才的ですよね」


「……もう好きにしてくれ」


 どうでもよくなってきた。自分を生贄にいいねを獲得するのなら好きにすればいい、問題はコイツが俺を巻き込もうとしているところだ。


「なあ……いいねが欲しいのは結構なことだと思うんだけどさ、どうして俺に協力させるんだ? 自分が満足すれば良いんだったら俺を巻き込む必要は無いだろう?」


 すると美月は顔を真っ赤にしてモジモジしながら口を開いた。


「だって……お兄ちゃんの素晴らしさをもっと全世界に広めたいじゃないですか! そんな素敵な人の妹だなんて素敵なことだと思うんです!」


 さすがに俺もその言葉に辛辣な返事は出来なかった。だって……それじゃあ、コイツの最終目的は俺だってことに……


 その日、なんら進展は無く帰宅をした。たった一つ確かなことがあるとするなら、その日から少しだけ美月との距離が縮まったような気がした。

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中学生から始める! バズる習慣! スカイレイク @Clarkdale

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