第1話 腐った人生には、バッドエンドを。

 濡れた制服のまま、砂浜に座り込む。 


 結局、今回も死ねなかった。

 死にたい。でも、びびってしまって死にきれない。

 所詮そんなもんだ。ボクは何事も中途半端な人間だ。


 何もない人生観をどうにか肯定しようとして。でも、できなくて。死にたくても死にきれなくて。そうやって今までものらりくらり生きてきたんだ。


 どこかで読んだ「生きてはいない。死んでないだけ」という言葉。ボクもまさにそうだ。どっちつかずで生き続ける人生観にはいい加減嫌気がさしている。日に日に自分に対するヘイトが溜まっていき、それを他人のせいにする。

 でも、死にきれない。自分では死ねなかった。


 誰か殺してよ、ボクを。



§



 濡れた制服のまま彷徨うように歩いていたボクは、ぼんやりとした頭のまま不法投棄されたゴミ山にたどり着いた。

 ボクはこの場所が好きだ。大昔に廃業したパチンコ店の跡地、そこに放棄された家電やマットレスや欠けたトイレの陶器。一つ一つにかつてはがあった筈なのに今では一括りに「ゴミ」として扱われている。その事実がどこまでも心地よかった。

 いつもと変わらない場所に放置されたブラウン管テレビに腰掛ける。表面のプラスチックは相変わらず不自然に白く濁っていた。長い間紫外線に晒されたせいなのだろうか。


 ここにいる時は、ボクは「ボク」と言う存在を否定できる。堅苦しいを忘れ去って自分自身を「ゴミ」と定義していると一時的に錯覚することができる。

 本当は、今日この場所に来た時点でボクはに気がついていたのかもしれない。


 それは黒く怪しく輝いていた。ところどころ塗装がはげており、銀色が見え隠れしている。

 ボクはそれを拾い上げた。ズッシリとした金属の重みが手に伝わる。

 激しく興味がそそられた。


 もしかしたらこれはボクがずっと求めていたものなのかもしれない。

 視界が開ける。胸が躍る。手の平に汗が染み出す。世界に色が付く。


 さっきまでボクと共に「ゴミ」と定義されていた同志とも言えるブラウン管テレビの画面に銃口を向けた。

 期待が叶う事なんて万一にもない筈だ。だからこそこの国の治安は良いと言われているのだから。でも、それでもボクは試してみたくてしょうがなかった。


 重いトリガーを後ろに引いた。


 直後、破裂音が周囲に響き渡った。時間をあまり置かずに火薬の匂いが周囲を包む。



 ブラウン管の画面は割れていた。



***

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鬱々と狂。 錦木れるむ @melt_0000

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