第32話 ジョン・ジョーンズ

 私の名前はジョン・ジョーンズ。映画の本場ハリウッドの有名監督をしている。

 私は日本の歴史を舞台にした映画を作りたかった。

 俳優でもあり、監督でもある真田さなだと出会って今以上の最高傑作を作ろうと思っていたんだが、帰蝶きちょう役を演じる女優が見つからなかった。

 真田さなだは純日本人を起用して映画を作る事を約束に協力を取り付けたから日系C国人を起用する事が出来ない。

 演技派と呼ばれる日本の女優の演技を見るが、これとピンと来る女優はいなかった。

 そんな時、友人のジョージからある動画を見せて貰った。

 演技に真摯で人にも他人にも厳しい彼が絶賛した動画は幼い少女が演じる日本舞踊ぶようだった。

 京鹿子娘道成寺きょうがのこむすめどうじょうじと呼ばれる演目を私は食い入るように小さな画面で何回も再生した。

 ジョージの妻アンが少女のファンで、西川流の家元 西川静戸しずこが開設しているYourTubeユアチューブのリンクを教えてくれた。

 秋月あきつき燈由ひよりという少女を認識した私は、彼女の事を徹底的に調べ上げた。

 わずか11歳でプロのピアニストであり、国民的子役だと知る。モデルやCMもこなすマルチタレントな彼女に天は二物を与えずと言うが、間違いだと知る。

 過去から現在までの作品を見て、私は彼女こそ帰蝶きちょうだと思った。

 真田さなだに彼女の起用を提案すれば彼も納得してくれた。

 「ジョンが子役を推すとは思わなかったよ。」

 ワインを飲みながら難航したキャストが揃った事に安堵する真田さなだ

 「元々大人っぽい子供だが、幼さはメイクで隠せるだろう?織田信長を演じる真田さなだに喰われない帰蝶きちょうを彼女なら演じる事が出来ると思ったんだ!これは天啓だよ!!彼女を帰蝶きちょう役にしろって神の采配さ!」

私は興奮気味に喋る。

 スミス夫妻に感謝するよ!と笑う私に真田さなだが先ずはオファーを受けて貰う所からだ、と釘を刺した。

 真田さなだの言う通り、私は直ぐに彼女の事務所にオファーを出した。

 ハリウッドという看板は伊達だてではない。直ぐにOKの返事を貰ったが、条件が追加された。

 撮影可能期間が5月下旬から9月いっぱいだと言う。

 何でも彼女は受験生のようで十分な時間が取れないと言う。条件が飲めないなら話は白紙にと言われたので私達は急遽キャスト発表などをして慌ただしく撮影に入った。





 欧米人では小さな、だが日本人女性では平均より少し高い身長の少女を見下ろす。

 『初めまして、ジョーンズ監督。私は秋月あきつき燈由ひより、貴方が描いた夢の国の映画の数々を拝見しております。幾多の愛を描く監督の作品に出られて光栄です。』

 ペコリとお辞儀する少女に

 『私も君と仕事をするのを楽しみにしていたよ、ミス燈由ひより。』

握手を促す。

 小さな手はギュっと力強く私の手を握る。

 『分刻みのスケジュールだが私達と一緒に頑張ってくれるかい?』

 『勿論です!若輩者ですが宜しくお願いします。』

 私との挨拶が終われば、彼女は演者やスタッフ達へと挨拶に回っていった。

 弥助やすけ役以外は全員日本語で演じる事になる。弥助やすけ役はポルトガル語とカタコトの日本語で会話する為、今回の映画の撮影の難易度は高く跳ね上がる事になる。

 ポスターとPV撮影を同時並行して進行する為、タイムスケジュールがカツカツなのは事実。

 11歳の子供が帰蝶きちょうれるのか少々心配でもあった。

 そんな不安も彼女が衣装に着替えて戻った時には心配も無くなってしまったものだ。

 翡翠の玉を付けた銀細工のかんざしと鳳凰が刺繍された打ち掛けを着た燈由ひよりは美しかった。

 先程のほんわかした印象から芯の強い女性へと変わり、姫という役を体現していて驚いた。

 燈由ひよりはカメラマンの指示通りにポーズを取り、撮影に入る。

 数回のリテイクはあるかと思ったら全て一発取りだ!

 燈由ひよりのスケジュールで【YASUKE】は動いているが、彼女が一番足を引っ張ると思っていた。

 【YASUKE】の出演で一番年齢が低いし、コミュニケーションに不安があったのは言うまでもない。

 箱を空ければ彼女が一番スタッフと演者の間を取り持って立ち回っている。

 PVでは信長との掛け合いをアドリブを入れて予想以上の出来にしてくれたのだ。

 秋月あきつき燈由ひよりという人間に夢中になっても仕方ないと思う。

 彼女の演技に私は引き込まれていった。

 映画も順調に撮れるだろう…と確信していた中でトラブルが起きた。

 【YASUKE】の主題曲を頼んでいたクリエイターが飛んでしまったのには困った。今から作詞・作曲をして貰うにしても時間が無い。

 トラブルに困っていた私を救ってくれたのも彼女だった。

 プロのピアニストである彼女は【YASUKE】のイメージを体現したかのような曲を描いてくれたのだ。

 日本語版と英語版の歌詞までつけて!

 イメージ通りの曲になんと多才な娘なのだろう!

 そんな彼女と一緒に作品を作れる喜びと安心感に私は彼女を応援したくなったのだった。


 11月に公開された【YASUKE】は興行収入過去最多32億ドルを叩き出し、伝説を作るのは もう少し先の話。

 

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