第3話 クラスメートにデートがバレて……?

 翌日、教室に入るとやけに遠巻きに見られている気がする。女子がコソコソと私を見ながらおしゃべりしているのが目に入った。

 何か様子が違う……?


「鈴! 噂になってるよ!」


 若葉が私に駆け寄ってきて、叫んだ。


「噂って……?」


 まだ話を飲み込めていなかった私は、慌てたままの若葉に聞き返す。


「それは――」

「昨日、月岡くんとデートしてなかった? もしかして、付き合ってるの?」


 若葉の話を遮って、松之山さんが私の前に立った。彼女は月岡くんに告白した一人だ。

 状況を理解した。昨日、月岡くんと一緒にカフェへ行ったのを誰かに見られたってことだ。


 やっぱり、クラスのイケメンと一緒に出歩いたのはまずかったよね……?


 松之山さんの質問を皮切りに、クラス中で波紋が広がっていく。


「そういえば、最近二人よく話してるよね」

「デートってことは……?」


 反応に困って、噂の的のもう一人の月岡くんに視線を送る。月岡くんは歩いてきて、私の隣に立った。

 すると、サラッと衝撃的な一言を言い放つ。


「実は付き合い始めたんだ」

「ええー! 月岡くん!」


 女子から悲鳴が上がった。月岡くんのファンの子たちだ。


 私と月岡くんが付き合ってる!? 一体、いつからそうなった!?


 心の中で、別の意味の悲鳴が上がった。

 それを横目に、月岡くんは私の肩を引き寄せて、堂々と言い放った。


「新発田さんは、俺の理想の恋人なんで」


 ちょっと待って! 勝手にありもしないことを言って……。

 月岡くんはニコニコと笑って、私に弁解の隙を与えてくれない。


 このままじゃ、ダメだ。二人でよく話し合わなくっちゃ。


「月岡くん、来て」


 私は月岡くんの袖を引いて、廊下へ出た。


「嘘は言っちゃダメだよ。私たち付き合っていないでしょ?」

「彼女のフリをしてほしいってお願いしたらダメかな? 告白を何回も断るのに疲れちゃった」


 月岡くんはコテンと首を傾ける。こうすれば言うこと聞いてもらえるとわかってやってるな。あざと可愛い奴め。


「疲れちゃったって……可愛く言われてもダメなものはダメ!」

「えー。皆に宣言しちゃったし」


 ぷうと口を膨らませている。二人きりだと月岡くんのキャラが違くないか?

 皆の前ではイケメンでカッコいい男の子なのに、今は可愛さが山盛りでプラスされている。

 首根っこを捕まえて、皆の前で「嘘をつきました。ごめんなさい」と白杖させたい。


「今すぐ撤回しに行きましょう。まだ間に合うわ。アイドル繋がりでカフェに行っただけって言えばいいだけじゃない」

「オタバレは嫌なんだ」

「じゃあ、趣味が一緒とか、適当に言えばいいじゃない!」

「適当に言ったところで、詳しく突っ込まれるだろうし。却下」


 オタク仲間だとバレるのは、断固として嫌らしい。


「全員が全員、新発田さんみたいにオタクに寛容じゃないんだよ……?」


 私を見つめてきた月岡くんの表情がどこか寂しそうで。

 何かトラウマでもあったのかな……?

 これ以上断るのは、可哀想な気がしてきた。私の方が折れるしかない。


「そこまで言うのなら、彼女のフリをやるよ……。やりたくないけどね。ところで、理想の恋人ってどういうこと?」

「そのまんま。オタクに理解があって、俺も大好き。彼女のフリじゃなくて、本当の彼女になってほしい」


 サラッと告白されて、唖然とした。

 本物の彼女!? 彼氏彼女!? 恋愛ごとは自分には関係ない事だと思っていたのに!


 考えるよりも早く「ごめんなさい。無理そうです」と断っていた。


 素直に応えられたら幸せなんだと思う。

 釣り合わないのはわかってる。イケメンすぎて、隣に立つ自信がない……!

 それに、月岡くんの好きに応えられなくて、きっと幻滅されちゃう。


「どんな風に無理そうなの?」

「私の心づもりが……」

「考えてくれるんだ。それって、俺にチャンスがあると思ってもいいよね?」


 月岡くんの問いかけに、少しでも可能性を消したくなくて、こくんと頷いた。

 ああ、なんて、流されやすい性格なんだ――!

 顔、顔が良すぎるから!!!


 こうして、本物の彼女は回避したけれど、押し切られる形で彼女のフリが始まったのである。

 

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クラスの爽やかイケメンの秘密を知ったら、溺愛が始まりました! 八木愛里 @eriyagi

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