正体知らずの探し人「マンデラーの恋人 後日談」
永盛愛美
第1話 マンデラエフェクトを経験したマンデラーたちとその家族
今から十年近く前、とあるSNSにて不思議な現象が起こった。
『呟きの箱』と呼ばれるそこに、様々な平行世界……様々なパラレルワールドから集まった若者たちの間で、信じられないような出来事が繰り広げられたのだ。
SNSを離れても、奇跡は彼等の間でネット上のみならず現実世界でも絶え間なく続いた。
かりんというユーザーネームの女子高生……本名を
二人とも受験生で、偶然お互いの志望する大学が同じだと分かった五月、二人がその大学のオープンキャンパスへ参加すると知ると、最寄駅で待ち合わせをして行動を共にしようと約束をしたのだった。
が、しかし、『呟きの箱』というSNSでは繋がりを持つことが普通に出来ていたのにも拘わらず、二人の存在する世界線が大幅にかけ離れていたため、二人は同時刻、同じ場所にいたとしても、お互いの姿を目に映すことが叶わなかった。SNSではあらゆる世界線からひとつの世界線のそれへと奇跡的に繋がっていたようであった。
混乱しながらも二人は同時刻、同じ大学で行われるオープンキャンパスへと向かう。
が、残念ながらそちらでも二人は逢えることはなかった。
混乱に混乱を重ねた二人は、ショックを受けたことに起因するかは謎であるがその夜から平行世界を数回に分けて移動し続けることになる。
SNSで彼等と繋がりのあった仲間たちも同様に皆それぞれ異なる環境、世界線へと無意識のうちに移動を重ねて行く。
いつしか、逢えなかったかりん、AYAの両名はネット上で『初代たち』と呼ばれることとなる。事実とは少し形を変えて都市伝説として語り継がれるようになった。
マンデラエフェクトを身を持って知った彼等は自らを『マンデラー』と呼んだ。
彼等の中に、平行世界……パラレルワールドを移動した先の躰に、その世界線の躰の過去の記憶が引き継がれる者がいた。
殆どの者は、移動前の世界線の躰の記憶のみを保持し続けているか、軽いデジャヴとして過去世に経験したものかと納得している者が多いだろう。移動先の〈本体〉の記憶など全くない。
移動した先の躰の記憶を全て受け継ぎ、なまじ記憶力が良かったために発狂してしまった女子高生がいた。
ユーザーネームをつぼんぬ(局の君とフォロワーから呼ばれ、その後つぼんぬに変わった。本人が周囲からそう呼ばれたのを受けてユーザーネームとした)と言い、本名は
彼女には二人の姉がいた。十歳上の
川口家の従姉妹に、紗弓より二歳下のアナウンサーがいた。大学を卒業して直ぐに局アナになり、大して活躍を見せないまま、プロスポーツ選手と結婚して寿退社を果たした。
彼女は亜弓に少し似ている。真弓が高校生時代に放送部に入部したのは多少従姉妹の影響もあったのかもしれなかった。
その従姉妹は夫が怪我のために引退せざるを得なくなり、結果として夫婦でタレント活動をすることになった。二人で同じ事務所に入っている。
今では二人のファンたちが、別々ではなくてひとつのファンクラブを作るほどに熱烈さが浸透しているそうだ。
※初代たちの相互フォロワーになっていた数名のマンデラーによりお互いの存在、情報を教えて貰った世界線違いの綾人と莉花は、大学のサークル『超常現象研究会』の新歓コンパにて偶然知り合った。その日のうちにお互いが初代たちの世界線違いの
その後、二人の距離は少しずつ近付いて行き、互いが必要不可欠な存在であると思い知ると大学を卒業した数年後に結婚をした。※
綾人の兄、
最初はあからさまに話を逸らしていた二人だが、結婚式の披露宴につぼんぬこと川口真弓を招待したために、兄の尚斗に全て話さざるを得なくなるのだった。兄は薄々勘付いていたのだ。彼等には何かがあると。
真弓の姉が二人のサークルの先輩で、いくらなんでも先輩が卒業してから彼女の妹と仲良くなるなどと不自然極まりないと踏んだからだ。
全てを知った尚斗は、それに関係ある
すぐ上の姉、亜弓は大学を卒業して間もなく結婚し、早々に子宝に恵まれた。嫁ぎ先は小さな蕎麦屋であった。
残るは真弓の十歳上の姉、紗弓である。職場では趣味の活動である関連会社内のみで結成され、年に二回リーグ戦を行っているバレー部に所属していた。
仲間たちが皆独身で二十代後半から三十代後半である理由からかは不明だが自らを「お局」と呼び、チーム名を「お局シスターズ」と名付けて様々な意味で暗躍もとい活躍していた。
紗弓は「経理の局」と自称している。仲間には「営業の局」「総務の局」「庶務の局」「人事の局」などが存在している。
仲間内で寿退社をし、バレー部を脱退する者を「裏限りの局」と呼んでいる。
つい最近では関連会社のチームメンバーの卒業が相次ぎ、リーグの行く末が案じられている。
そんな中、強敵だったライバルチームが解散を余儀なくされた。その監督はリーグ全ての選手たちを送別会へと呼び、これまでのあゆみを振り返って選手たちを労ったのだった。
その上で、関連会社の目立ったメンバーを取材させて、社内報へ掲載させた。
紗弓は白羽の矢を立てられ、辞めていくライバルチームの監督と対談という形で取材を受けた。
その数ヶ月後に社内報を渡す名目で監督(元)が会社へやって来ると、突然紗弓に交際を申し込んだのだった。
会社もチームも紗弓本人にとっても青天の霹靂とも言うべき事件となった。 三姉妹の両親は手放しで喜んだ。
そんなことが狭い世間を騒がせていた頃、川口家にとって新たな知らせが舞い込んで来た。
※注:願わくば詳細は「マンデラーの恋人 ~世界線を越えて~ 」を参照されたい。
正体知らずの探し人「マンデラーの恋人 後日談」 永盛愛美 @manami27100594
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