第166話 狐森コンのどきどきホラゲー配信③

「あ、ちょっとまってね」

「どうしたコンか?」


 良いこと思いついた。とゲーミングチェアから立ち上がり、今配信をしているスタジオの後方に付いているスイッチをポチッと押した。


「ひっ」


 パチッという音と共に部屋の明かりが消えると、すぐに小さな悲鳴が聞こえてきた。モニターの光によって映し出されるコンちゃんの表情は、何やっているのと言った感じで若干キレている。


「いや、暗い方が臨場感出て面白いかなって」

「別に面白くない」


 語尾のコンをつけずハッキリと言い切る彼女であるが、やはりホラゲーは暗い部屋でやるべきだという私の持論は覆せない。ゆっくりと席へ戻る私を目で追いながら、諦めたような目で再びパソコンに向き合った。

 そのままゲームへと戻る前にチラリとコメントをみたコンちゃん、あることに気がついてはうれしそうにこちらへ向き直す。


「これじゃあコンたち動けないコンよ~」


 コメント欄にあふれていたのは、私達のアバターの動きが鈍くなってしまったというものであり、その原因は私が電気を消したことによるものだった。それに気がついた彼女は満面の笑みでこちらを見てきたわけだ。


「……くそ」


 悪態をついた私は、おとなしく部屋の電気をつけてまたホラゲーを再開した。






 再び場面はあの真っ暗な林の中へ。懐中電灯の明かりを頼りにひとまず先ほどヨシコさんがいらっしゃった方とは反対の林へと向かっていく。


「この白いのは拾っちゃって良いコンよね」

「そうそう。懐中電灯の電池だからね」

「懐中電灯って切れたらどうなるこんか?」

「ゲームオーバーだね」

「じゃあ拾っていった方が良いコンね」


 そういいながらとりあえず見えた電池を拾いながら歩いて行く。



 しばらく林を進むと、崖に沿って進む道に出た。どうやらこちらが正規ルートなのだろうと、コンちゃんは一直線に進んでいく。

 先ほどまで時折聞こえていたヨシコさんのBGMも聞こえなくなり、ひとまずは安心してこの林の中を進んでいく。


「余裕コンね」


 鼻歌交じりに林道に沿って進んでいると、目の前に小さな小屋が見えてきた。


「あの中にオイルとかあるコンかね~」


 と一直線に小屋に近づいていくと


――ガコンッ!


 と大きな音を立てて扉が開いた。そこにいたのは痩せたヨシコのような顔面で、方向を変えずに一直線にこちらに向かって走ってきた。


「ほわぁぁああああ! ふぇぇ……」


 画面に映し出されるゲームオーバーの文字。






「んぐっ、うぅ……」


 コンちゃんマジ泣きである。


「私、本当にホラーだめで……、もういやだぁ……」


 そう呟いてはゲーミングチェアの上で体育座りをしてしまった。

 確かに初めてのホラゲー配信で恐怖の林はなかなかハードな気はするし、苦手なら仕方がないのかなぁ……。ここで無理にやっているところを見るのは視聴者も辛いだろうし……。


「……ドクターストップで」


 隣でマイクをオフにしてマジ泣きしているコンちゃんにこれ以上ホラゲー配信はさせられないかな……。

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VTuberの裏方仕事 べちてん @bechiten

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