25話 模擬戦 VSシオン 2
「もう…油断した…」
ナイフを蹴り飛ばす事で何とか負けは防いだが杖が飛ばされた。
状況としては不利。
その上蹴られた場所が痛む。
途中自分で飛んだがそれでもかなりのダメージを食らった。
もろに食らっていたら恐らくそれだけで負けていた。
立ち上がりながら治癒魔法をかける。
「弱過ぎて追放されたと聞いていたけど…これは…」
強過ぎる…
正直、最初模擬戦を提案された時は余裕で勝てると思っていた。
相手はパーティーを追放された雑魚…
その上私は魔法の才は勿論、血の滲む様な努力をしてきた。
そしてようやく監視役に選ばれる程の力を身に付けた。
だから勝つ事前提で、彼がどれ程の実力か見るために提案を受け入れた。
なのに…
手加減をしていたとは言え反撃を食らう始末…
そこら辺の冒険者が束になってもそんな事は有り得ない。
「楽しくなってきたなぁ…」
――――――――――――――――――――
「あいつ…自分から飛んだな。」
俺はシオンを蹴った感覚に違和感を覚えた。
彼女を見ると腹を抑えながらもゆっくり立ち上がっていた。
「頑丈だなぁ…」
普通の魔法使いなら立ち上がれないはずなんだな…
流石監視役と言うべきか。
ただナイフを拾う時間は作れた。
相手は丸腰、いくら彼女でも杖無しではまともに魔法は扱えないだろう。
つまりこれで完全に優勢。
後はルールに従いナイフを突きつけるだけだ。
そう思いながら俺はシオンにゆっくり近づく。
「何故不意打ちのタイミングがわかった?」
彼女は俯いたままそんな言葉を口にする。
諦めたか?
いや、その割には目は死んでない。
何かある。
俺は警戒しながら答える。
「お前…魔法を使う時は目の色変わるだろ?」
「だからタイミングが読めた。」
「それでも魔法の発動タイミングが速すぎて当たると思ったがな。」
「今回の模擬戦じゃあ顔は見せてないと思うけど…」
「いや、そうかあの時か…」
確かにこの戦闘の間は全く顔を見る余裕も無い上、見える位置にすらいなかった。
だけど1週間前、ぶつかった時の事を土壇場で思い出し、賭けではあったが何とか反撃できた。
「そう言うことだ。」
「そして、もう勝負は決まった様なもの降参してくれないか?」
正直俺はこれ以上迂闊に近寄れない。
だからこれで降参して欲しいが…
「決まった?」
「何言ってるの?」
「これからだろう?」
彼女がそう言った瞬間俺はとんでもない風圧によって吹き飛ばされた。
「ッ?!」
「嘘だろ?」
飛ばされつつも受け身を取って起き上がると視界に風を纏ったシオンが映る。
「さっきは驚いた…」
「だからね?」
「少し本気を出してあげるよ!」
そう言いながら彼女は楽しそうに笑う。
俺はそんな彼女にナイフを向け言い放つ。
「第2ラウンド開始と行こうか!」
その言葉を合図にお互いが地面を踏み抜き、一瞬で距離が無くなる。
次の瞬間。
俺のナイフと、彼女の風を纏った拳が激しくぶつかり合う。
お互いの力のぶつかり合い、いくら相手が風を纏ったところで所詮魔法使い。
押し切るのは無理でも弾き返す事ぐらいはできると思っていた。
「マジか…!?」
焦りからそんな声がもれる。
予想とは違い、ナイフと拳がぶつかり合ったその瞬間、ナイフは壁の隅まで吹っ飛ばされてしまった。
その上衝撃で俺は体制を大きく崩してしまう。
「残念…甘くみたね?」
次の瞬間、シオンは俺の間合いを一瞬で侵略していた。
気付いた時には既に拳が突き出されようとしていた。
「チィッ!」
何とか片腕を地面に付いて一回転しながらシオンの腕を蹴り上げる。
「やるね!」
しかし体制を崩すまでには至らない。
またも一瞬で距離を詰められると同時に右から拳が飛んでくる。
だが問題ない。
さっきとは違い今回はちゃんと反撃の準備が出来ている。
「残念…!」
俺はその拳が当たるより早く更にシオンとの距離をゼロにし腹部に掌底。
手に岩を打ったかの様な衝撃が伝わりビリビリと痺れる。
本当に鍛えられている。
それこそ単純な力だけなら俺より強いかもしれない。
「ゴホッ」
シオンの顔が歪み、軽く吐血する。
本来なら最低でも気絶する威力。
ただこいつはそれで沈まない、ダメ押しに足払いで身体を浮かせ流れる様に肘打ちを叩き込む。
決まったと思った。
しかし
するりと肘に腕が絡められ蹴りが飛んでくる。
「ッ…!?」
紙一重で躱し、何とか腕を振りほどく。
その反動でお互い距離をとる。
「まさか体術までできんのかよ…」
俺は肘を突き出した方の手首を抑えながら言う。
あの一瞬で思い切り捻られた。
完全に捻れる前に振り解けたがそれでもジンジンとかなり痛む。
「ふふ…奥の手は取っておくべきでしょう?」
「それで…まだ続けますか?」
「いや、降参だ。」
「これ以上は勝ち目がない。」
俺はあっさりと白旗を上げる。
これがもし殺し合いならまだやれる事はあるがあくまで模擬戦。
近接特化の俺が手首を負傷した以上、ルール内では全くと言っていいほど勝ち目が無い。
「わかりました。」
「それじゃぁ怪我、見せてください。」
そう言いながら彼女はパタパタと駆け寄っきた。
その様子はさっきとは違いただの少女だった。
「あぁ頼む。」
そう言いながらまず手を突き出す。
それに合わせてシオンが手をかざすと淡い青色の光に包まれじんわりと暖かくなっていく。
その様子を見て率直な疑問を口にする。
「治癒魔法も詠唱破棄できるんだな。」
「あぁ、あと背中も頼む。」
それを聞いた彼女は背中にも治癒魔法をかけながら答える。
「かなり努力しましたからね。」
「それに…そうじゃなきゃ監視役に選ばれない程周りのレベルが高いのですよ。」
「私でもあの中じゃ半分ぐらいです。」
どうやら想像していたよりも化け物の巣窟のようだ。
複数の魔法は勿論治癒魔法すらも手足のように扱えた上で体術も強化状態の俺と同等。
しかもそれでもまだ完全に本気じゃなかった…
下手すればルール内であればリオですら勝てるかもしれない。
「はい、他に怪我はありませんか?」
試合中とうってかわり彼女は淡々と話す。
「大丈夫だ。」
「そっちは大丈夫なのか?」
「えぇ、試合の途中で使っていましたから。」
「大した怪我は残っていないですね。」
「そうか…本当に器用だな。」
「それなら上まで戻ろう。」
「そうですね。」
「私はここに異常が無いか、確認してから出ますので先に出ておいてください。」
「わかった、先に戻ってる。」
俺は、先に階段の方へ歩いて行くのだった。
勇者パーティーを作った俺が勇者パーティーを追放された件 咲夜 @utakazen
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