24話 模擬戦 VSシオン

「それにするの?」


まじまじと木製ナイフを観察しているとシオンが声をかけてきた。


「あぁ、これが良い。」

「ルールはどうする?」


「身体の欠損もしくはどちらかの投降でどうですか?」

「傷については、私は治癒魔法も使えるので安心してもいいですよ。」


なるほど、それなら思う存分やれそうだ。

ただ少し条件が足りない。


「良いな。」

「ただ木製ナイフで人の体を欠損させるのは難しい。」

「だから、どちらかの武器が相手の急所を捉えたら勝ち、それでどうだ?」


「いいですね…」

「それじゃあ早速始めましょう。」

「戦闘開始はこの音爆弾の破裂が合図で…」


彼女はそう言いながら懐から丸くて白い物体を取り出す。


「あぁ望むところだ。」


「ふふ…楽しみにしてますよ?」

「後…言い忘れていましたが、私戦闘中は性格が変わりますがびっくりしないでくださいね?」


そう言う彼女は少し楽しそうだ。

シオンは戦闘狂なのだろうか?


「…わかった。」


その言葉を聞いて彼女は天井に向かって音爆弾を投げた。


それと同時にお互い距離を取り俺は右手にナイフを、彼女は左手に杖を構える。




キーン




音爆弾が甲高い音を響かせる。

戦闘開始



先手必勝…

俺はシオンに魔法を使われる前に一気に勝負を決めにかかる。


強化ブースト!」


相手は魔法使い、身体強化を使った状態の俺であれば簡単に勝負を決められるはずだった。


「チッ…!」


俺は咄嗟に腕で顔を覆う。


バン


それは俺に直撃して破裂音が響き渡り俺は黒煙に包まれた。


この一瞬で俺がその場所に辿り着いた時にはシオンの姿は無く代わりに火球ファイアボールが置かれていた。


(本来魔法を一定の場所に留めて置くことはかなり難しいはずなんだがな…)

(しかも一瞬で距離を取られた…魔法だとすれば器用な事をする…)


「今のでノーダメか…」

「耐久力も上がっているな?」

「面白い…!」


黒煙の先でそうつぶやく彼女の顔はまるで実験動物でも見るかのようだった。


「これならどう?」

彼女がそう言うと辺りにかなりの数の火球《ファイアボール》が展開される。


「これは…まずいな」


ゴヒュウ


その1つが嫌な音をたてながら、かなりの速さで飛んでくる。

落ち着いて躱す。


しかし避けた先でまた1つ

それを避けるとまた1つ


次々に火の玉が襲いかかって来る。


(速さはそれ程でも無いがまるで逃げる先を先読みしている様に飛んでくる)

(しかもこの数…)


「めんどくさいなぁ…!」


俺は飛んでくる火球ファイアボールを最小限の動きで、右に左に…はたまた後ろに、次々に避ける。

一つ一つに大した威力は無さそうだが当たると連続で当たり続けそうな感じだ。

もしそうなればかなり体力を削られる。


そうならないように確実に躱す。


そして避け続け遂に、最後の一発を前にする。


「これが最後…」


そう思い今まで通り左に避けた時だった。


バン


背中に火球ファイアボールが直撃する。


「あっぃたぁ…!」


それは最初の1発とは威力が段違いだった。

背中は大火傷、もし身体強化の魔法をかけていなければ燃やし尽くされるところだった。


(今までのはこれを当てるための囮か…)

(最初どころか途中のもこれ程威力はなかった…)

(魔法の練度、そして戦闘感がミラと比べても段違いだ。)


辺りに肉が焦げる臭いが広がる。


「しんどいな…」


流石にこれはもう喰らいたくない


「降参でもするかい?」

シオンは距離を取って杖を構えながらそう話しかけてきた。


「はっ、ここらかだろう?」


そうは言った物のあれだけの数の魔法を連続で出したのにも関わらず疲れが見えない。

余っ程魔力の使用効率が良いのだろう。

(ミラですら多少疲れそうな量何だがな…魔法のレベルが高過ぎる…)


「ふふ…そうだね、僕を楽しませてくれよ?」


俺は彼女が言い終わる前に全力で踏み込む。


「ははっ、落ち着きがないね!」


そう言うシオンはさっきと違い全く逃げない。


「…ッ!」

俺はギリギリで踏みとどまり全力で左に転ぶ。


その瞬間

ヒュッ

と言う音と共に地面からギリギリと言う音が響く。


横目で見ると風の塊が地面と激しくぶつかっていた。


風球ウィンドボールか?」


魔法には適性がある。

そして魔法使いはその適性に合わせて魔法を研究しその力を磨く。


大体は1人につき適性1つ。

中でも風属性の魔法は貴重だ。


(最初に俺の速度に反撃を合わせられたのはその応用か…)


「勘がいいね」

「その通り、私の適性は炎だけじゃない。」


「厄介な事で…」

(恐らくまだ手札は持っているはずだ…)

(そうでなくても簡単には近付けない。)


「ふぅ…やるしか無いか」


俺は大きく息を吸い込みもう一度大きく踏み込む。


「フッ…!」


「また速攻?」

「他には何かないの?」


彼女はつまらなそうな顔で杖を構える。


「さぁ?」

もちろん無策ではない。

ただ確信はない。


確信は無いがこのままではジリ貧だ

やるしか無い。


そしてさっきと同じ距離まで詰めた時だった。


(ここだ…)


俺はそれを見て体をひねる。


「なっ?!」


シオンの驚きと共にさっきまで俺の体があった場所に風球ウィンドボールが炸裂する。


「残念だったなぁ!」


俺は既に彼女の懐に飛び込んでいた。


寸止めできる速さで、それでいて限りなく全力でナイフを両手で突き出す。


完全に勝った。

そう思った瞬間。


「チッ…!」


シオンの舌打ちが聞こえた。

刹那杖を手放した。

そしてバク転でそれを躱しながらナイフを蹴り飛ばした。


「…チッ?!」


その蹴りをきっかけにお互い体制を崩す。


(肉弾戦メインで良かったよ…)


俺はナイフの落ちた先を横目で見ながら崩れた体制をすぐに整える。


相手は魔法使い…

しかも杖を手放している。

ならこれはチャンスだ。


その証拠にシオンはまだ体制を崩している。


俺はその隙を見逃さない…!

すぐさま距離を詰め殺さないように彼女に蹴りを叩き込んだ。


「ガハッ…!」


蹴りを受けた彼女は大きく吹き飛んだ。

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